サキュバスさんBANのラインをエロさで確かめる

「……なんなのよこいつは!」


 一人の女性がキレていた。

 彼女はVtuberとして活動する人間であり、登録者は十万人程度だが……とある動画がバズり五十万再生ほどを記録している。

 そのバズった動画の題名は“麻雀で対戦、健康器具と共に”というもので、文字通り大人の玩具を使いながらの配信だ。


「ムカつく……異世界とかふざけたこと抜かしやがって」


 だが最近、そんなエロを全面的に押し出したやり方でバズった彼女だが……悉くとある配信者に視聴者を吸われてしまった――それがサキュバスチャンネルだ。

 Vtuberの中には人外のキャラクターも多く、そのキャラ一つ一つに設定がなされているのは周知の事実……なのだが、このサキュバスさんはマジもんの異世界人だと言い張っている。


「……本気で言ってる頭のおかしい奴なのに……おかしい奴なのに!!」


 頭のおかしい奴……ずっと彼女はサキュバスさんをそう言っていた。

 件のサキュバスさんがただ頭のおかしい奴ならそれだけで良かったのに、彼女はあまりにもリアル過ぎるあり得ない映像を視聴者へ届けている。

 しかも……しかも彼女はとにかくエロいのだ。

 女の彼女ですら気を抜いたら興奮してしまいそうになるほどの美貌とエロさ……自分が掴んだ視聴者たち、全員ではないがサキュバスさんに取られたことを彼女は心から根に持っている。


「異世界に住んでる? そんなものは配信者としての設定でしょ!? それなのにこの視聴者共も信じ込む馬鹿が居るしあり得ない!!」


 それはもうただの醜い嫉妬だった。

 ただ……こんな風にサキュバスさんに嫉妬する配信者は彼女だけではなく、多くの者たちが思っていることだ。

 恵まれた容姿とあり得ないレベルの技術によって齎される映像、そして頭角を現したかと思えば一気に増えていく登録者……こんなのに嫉妬するなというのが無理な話だ。


「……何なのよこいつ……本当に何なのよ!」


 女性の怒りの声は空しく虚空へと消えていく。

 ちなみに、健康器具と配信タイトルに載せて視聴者を集める配信者も少なくはないが、そういうことをせずともスタイルの良さなどを前面に押し出して男性層を取り込む女性配信者は多い。

 しかし、その辺りの視聴者すらもサキュバスさんは吸い取っている。

 つまり――エロで引っ張る女性配信者にとって、このサキュバスさんは目の上のたんこぶでしかなかった。


「……はっ?」


 そして今日も、いつも以上の大盛況がサキュバスさんのコメント欄にはあった。

 暴言の一つでも書いてやろうかと女性が配信を覗くと、可愛らしいピンク髪の女の子が映っていたのである。

 小柄な体型に似合わない特大のバストが目を惹くが……彼女もサキュバスさんと同じ匂いを漂わせるエロい女の子だった。


『こいつは……名前出しても良いか』

『構いませんよお姉さま♪』

『分かった。こいつはリルアって言って、俺と同じサキュバスの同胞だ。ちょっと会う機会があったのもあるし、良い機会だから出演してもらったよ』

『リルアです! 昨晩はお姉さまとエッチなことをして元気いっぱいです!』


・可愛い!!

・おっぱいでっか!!

・えっど!!

・お姉さま呼びだと!? つうかエッチ!?!?

・何をしたってんだ!?

・百合の気配!?

・kwsk!


 画面に映る二人のサキュバス……いつもと違うサキュバスさんの生配信ということで視聴者はどんどん増えて気付けば三万人にもなっていた。


「……うっざこいつ」


 女性はサキュバスさんが嫌いだ……嫌いなのに、画面から漂うそのエロさには逆らえなかった。

 リルアという女の子も加わったその配信を、最後まで女性は見届けるのだった。


「サキュバスさんか……嫌いなはずなのに、なんでドキドキするのよ」


▽▼


「これ……どういうものなんでしょうね。リルアとお姉さまが映ってて、この凄い速さで流れる文字たちが……えっと、リスナーさんという方たちなんですか?」

「そうだよ。この世界とは違う別世界に生きる人間たちだ」


 リルアを交えての配信、それはコメント欄の反応を見る限りかなり好評だ。

 サキア一人でも盛り上がるというのに、そんなサキアと同じくサキュバスのリルアも混じれば……まあ話題に上がらないわけもなく。


(すげえなこれ……圧巻のトレンド入りだ)


 魔法によって現代のSNS画面も同時に見ているが……。

“サキュバスさん”“サキュバスチャンネル”“サキュバスさんえっど”“リルアちゃん”などサキアの配信に関わる多くの言葉がトレンドになっているほどだ。

 ぶっちゃけこのトレンド入りに気持ち良さを感じつつ、サキアはコメント欄に意識を戻した。


・リルアちゃんすこ

・小柄なのにおっぱいデカいとか反則じゃね?

・抱いたら気持ち良さそう

・キモいことを言うな

・それよりもサキュバスさんとの詳しい関係を何卒

・羽がぴょこぴょこしてるの可愛い

・角も羽も尻尾も飾りだろ?

・でも尻尾めっちゃ動いてるけど……あれが作り物?


 コメント欄も見つつ、リルアの様子を確認しているがサキアは新鮮な気分だった。

 今までこの異世界で配信について喋った相手が居ないのもそうだが、配信という概念を知らない者がその存在を知った時、こんなにも物珍し気にするんだなと思えたからだ。


「リルア」

「あ、はい!」

「現代とか異世界とか、そういうことに関してはまた話す。でも分かってくれ――俺はこんな風に配信活動をしながら世界を回ってるんだ。楽しくてとてもじゃないが故郷に帰るなんて無理だ」

「……………」


 サキュバスの里が悪い場所というわけでない……ないのだが、戻ったところで女王に祭り上げられたら自由も出来ない。

 頼られること、期待されることに嬉しさはあっても面倒事は嫌いなのだから。


「その……リルアはお姉さまの意見を尊重します! 秘密まで教えてくださったのにこれ以上連れ戻すなんて言えません!」

「ありがとう。良い子だなリルアは」

「はふぅ♪♪」


・ふおおおおおおおおおっ!!

・美少女の絡み最高!!

・二人のおっぱい潰れてるって!

・挟まれたい

・俺も

・私も

・草

・百合営業きもい

・わざわざ配信に来てまでコメントする時点で察し


 さて、良い感じに盛り上がったところでサキアは少し考えた。

 不思議な魔力なんて存在せず運営のお気に入りとも考えていないが、具体的にどこまでやれるかが気になったのである。


「なあリスナーのみんな、この配信……どこまでやれるかな?」


 そんなサキアの挑戦的な言葉にコメント欄が止まった。

 ニヤリと笑ったサキアはリルアに指示を出す――その指示とはサキアに背中を預けるような体勢になれというもの。


「えっと、こうですか?」

「そうそう。良い子だ」


 太ももの上に座ったリルアを背後から抱きしめ、サキアはそっと彼女の胸に手を置いてリスナーの反応を確かめる。

 サキアが思った通り、コメント欄は加速し大変なことになっていた。


「やん♪ お姉さまぁ♪」

「……これくらいはいけるのか。それなら――」


 それからもある程度のラインを見極めつつ、サキアは色々と試すのだった。

 ちなみにこの配信が終わった時に登録者は六十五万人を突破し、翌日と翌々日に掛けて現代のSNSでトレンド入りを果たした。

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