サキュバスさん同胞を救う

 サキアは流浪の旅を続けているが、故郷に知り合いは当然多く居る。

 それもそうだ――だって彼女は次代を担うサキュバスクイーンとして期待されており、女王を含め多くのサキュバスに好かれているのだから。


「お姉さまぁ♪」

「……………」


 多くの同胞に好かれていたが、中でもサキアに正面から抱き着き、足もクロスさせるようにしているリルアはサキアにガチ恋していた。

 女が女に恋をする……それは異世界でも少し珍しい形なのだが、サキアがそもそも女さえも惹きつける魅力を放っているし、そもそもリルアは危険に陥った際にサキアに助けられた過去があるため、その時からリルアにとってサキアは特別だった。


「追いかけているのは知ってるよ。諦めが悪すぎんだよお前らは」

「だって仕方ないじゃないですか! リルアにとってお姉さまは大事な人! もちろん一族にとっても無くてはならない存在なんですから!」


 リルアの視線には分かりやすいほどの恋心と憧れが混ざり合っていた。

 サキアもそのことには気付いているものの、ぶっちゃけサキュバスとして今まで生きて恋はしたこともなく、ましてや今は恋なんぞより配信の方が楽しいので全く気にするつもりはなかった。


「リルア、俺は帰らないぞ。何を言われても帰らん」

「分かってますよ。お姉さまは凄く強いですし、リルアが無理やりに連れ帰ろうとしても無理です。そもそもサキュバスじゃなくて他の種族でもお姉さまに勝てる奴なんてたかが知れてますし」

「そうだな。それで?」

「ですから……その、しばらく一緒に居ても良いです? 女王様にはまた無理でしたって伝えますから何卒……っ!」

「……ふむ」


 それなら良いかとサキアは即断即決した。

 これが足止めなどの罠と考えられなくもないが、リルアがサキアに対し嘘を吐かないことと、不利になるようなことをしないのはよく分かっているからこそ、サキアはリルアの問いかけに頷いた。

 嬉しそうに笑顔を浮かべたリルアはサキアの胸元に顔を埋め、愛情表現をするようにチュウチュウと胸に吸い付く。


(これが愛情表現だもんな……そりゃ淫魔って言われますわ)


 程よく体に流れる刺激を楽しみながら、サキアはリルアと共に温泉を楽しんだ。

 それからしばらくして温泉を出た後、リルアを連れて宿に向かい、お婆さんにリルアのことを紹介してから部屋へ。


「あのお婆さん良い人でしたね」

「心も広いお婆さんさ。俺は一瞬で見抜いたね」

「流石ですお姉さま!」


 全肯定妹系ドスケベサキュバスのリルアちゃん爆誕である。

 ベッドは一つしかないので二人で同じベッドに寝るわけだが、リルアはとにかくサキアの傍に居ることが嬉しいらしく、さっきから笑顔が絶えない。


「お姉さまは普段何をしてるんですか?」

「配信だな」

「ハイシン……? なんですかそれ」

「ハイシンじゃない配信だ」

「配信!」


 よし、そのイントネーションで大丈夫だ。


「リルアは……あ~」

「お姉さま?」


 この世界に配信という概念はないためリルアが知らないのはもちろん当たり前だ。

 だがそこでサキアはちょっと思い浮かべた――同族のサキュバスを紹介するのも面白そうだが、この子もこの子でめっちゃエロいので配信映えするだろうと。


「リルア、今から大事な話をする――こいつは他言無用、お前のことを信頼しているから話すんだ」

「っ……はい」


 サキアの言葉にリルアは真剣な表情へと変わった。

 彼女はサキアのことを愛している……愛しているが故に暴走することもしばしばあるのだが、それ以上に憧れの方が遥かに大きい。

 だからこそ、サキアにここまで言われたら真剣になる――それがリルアというサキュバスだ。


「俺が普段やっている配信というのはこの世界に浸透していない。そもそもこの世界の奴に見せることは出来ないんだ。俺は……うん?」


 説明をしようとしたその時だ――突然にリルアの呼吸がおかしくなった。

 苦しそうに胸を抑えている姿を見た時、サキアは瞬時にリルアの体調確認のために全身をくまなく観察する。

 リルアは我慢しようと必死に顔を上げようとするが、それすらも辛そうだった。


「リルア……まさかお前――精気を吸ってないな?」

「……だって……だってぇ……っ!」


 基本的にサキュバスは精気を吸わないと生きていけない……サキア以外のサキュバスはその仕組みから逃れられない。

 ある程度なら我慢出来るが、何カ月も精気を吸ってないとサキュバスとしての存在を維持することは出来ず、段々と体調がおかしくなり……最後には衰弱して死んでしまうというのがサキュバスの運命だ。


「どうしてだ? お前は精気を吸うことに遠慮はなかったはずだ。そもそも、お前くらいの女なら簡単に男は寄ってくるだろ?」


 サキアの問いかけに、リルアは答えた――それは少し、サキアにとって予想外に等しいものだった。


「だって……お姉さまは男から精気を吸わないじゃないですか……お姉さまがそうなら、私もそう在りたいと思ったんです……お姉さまに近付くために……」

「……はぁ」


 リルアの言い分にサキアは呆れたようにため息を吐き、辛辣な言葉を掛ける。


「馬鹿だなお前は」


 憧れのためにサキュバスの生き方を否定したリルアにサキアは心底呆れた。

 リルアはその言葉に自覚はあるようで、泣いたりはせずにただただ力なく笑って受け入れるだけだ。


(こいつは馬鹿だよ本当に。サキュバスは男から精気を吸わないと生きていけないというのに……リルアくらいだろうこんな馬鹿は)


 そうは思いつつも、サキアはリルアを見捨てる気なんて更々ない。

 サキアは特別なサキュバス――女を惹き付けるということはつまり、女を満たすことが出来る唯一のサキュバスでもある。


「脱がすぞ」

「は、はいぃ……」


 苦しそうな表情から一転し、ドキドキした様子のリルア。

 サキアは取り敢えずリルアを満足させた後、配信について教えるかと考え彼女の服に手を掛けた。


 その後、無事にリルアは体調を治した。

 艶々した肌を見せ付けるように、リルアはサキアの腕を抱きしめ頬を擦り付けながら話を聞いている。


「つまり……その配信というのは気を付けないといけないことが多いんですね!」

「そういうことだ――卑猥な言葉はNGだぞ?」

「了解しました! つまり、さっきの行為中に連発していた言葉たちがNGワードって奴ですね!」

「そういうことだ。偉いぞリルア」

「えへへ~♪」


 ということで早速、リルアを翌日の配信に出すこととなった。

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