第18話 真実はいつもひとつ


「ま、待った! 昨日の話をしましょう。打ち上げに行きましたよね、俺たち」

「モゴッ、モゴ、モゴーッ」

「コンドームを口から放して!」

「モゴッ?」

「わざとやってるでしょう」

「モーゴ♪」

「絶対わざとじゃん」


 コンドームを口にくわえたまま話し続ける藤山さん。

 途中で飽きたのか、「ブッ」っとこちらにコンドームを飛ばしてきた。

 反射的にキャッチすると、コンドームがべっとりと湿っている。


「うわっ、きったねえ」

「黙れ粗チン」

「マグナムなめんな」

「ポークビッツ?」

「偏向報道やめて」

「皮がぶってる」

「今はちげーよ!」


 腰を突き出して堂々と見せつける。どうだっ! コレを見ろっ!!

 俺の聖剣をジロジロと観察する藤山さん。

 あれ……なんで俺、こんなことしているんだ……。

 やっだぁ~、なんか恥ずかしくなってきちゃった♡


「えっ、うそ……見られて興奮するタイプ?」

「ずびません、服着ていいっすか……」

「あっ、どんどん大きくなって―――」

「実況しないで!」






 少し落ち着いたところで、昨日の話を始める。

 ちなみに、まだお互い裸のまま。

 「服を着て下さい」と言っても、首をブンブンと横に振られた。

 ついでに胸もバインバインと横に揺れていた。ありがとうございまっす!



「―――ライブの後、打ち上げのレストランに行きましたよね?」

「そうね。自宅を改造した隠れ家風のレストランだったね」


 貸し切りにしたレストランに大勢の人が詰めかけていた。

 複数のバンドメンバーと、その観客。打ち上げのみの参加者も多かった。


「そこで飲んで食って盛り上がって―――」


 俺も山田太郎や友人たちと、食ってはしゃべって、食ってはしゃべって―――。


「そうしてたら、ゆうき君が途中で眠そうになってて、ワタシと早めに抜け出して送っていくことにしたの」

「なるほど……。たしかに途中から記憶が曖昧あいまいです」


 なんでだろう?

 その前の日も寝不足で、昨日は一日中ウトウトしていたのは事実だ。

 でも、たったそれだけで朝起きたらこんなコトになるかぁ!?



「俺、間違えてお酒とか飲んじゃいました?」

「うーん、どうかなぁ。ずっと一緒じゃなかったから正確には分からないけど、お店の人もそこらへんは注意してたと思うよ」


 今回のライブは大学生だけでなく高校生も参加してのもの。

 だがら打ち上げでもアルコールは大学生グループにしか提供されなかったはず。


「藤山さんが勧めてきたジュースっぽい飲み物は?」

「あれはノンアルコールカクテルよ。モクテルって言うの」

「本当ですか?」

「さすがに未成年にお酒は飲ませないわよ」


 うーん。それが本当なら雰囲気に酔ったとか?


「じゃあ、寝不足&疲れが溜まってた、とかだったのかなぁ」

「そうじゃない? と言うより、ゆうき君ってお酒弱いの?」

「知らないです。全く飲んだこと無いので」

「まったく? お父さんのお酒を舐めたことも無いの?」

「うちは両親共に飲まない家庭なので」

「じゃあ、お酒が入った食べ物とかは?」

「あれってアルコールを飛ばしているんじゃあ―――」

「お酒が入ったチョコとかあるじゃん。ウイスキーボンボンって名前だったかな」

「あっ……」


 なんか不思議な味のチョコを食べた気がする。

 アレがそうだったのかなぁ……。


「デザートにもアルコール入りなのがあったよね」

「そうなんですか?」

「うん、あったあった」

「それかなぁ……」

「えー、でもあの程度でも酔うの? ありえなくない?」

「分かんないです」

「ものすごくお酒に弱い体質なのかもね」

「両親も弱いみたいで……」

「両方ともかぁ。まあ、本当にそれが原因かどうかは断言できないけどね」

「ですね」


 藤山さんに故意に飲まされちゃった可能性もゼロじゃないけど、さすがにそこまではしない気がする。

 結局はただの事故だったのかもしれないし、もしくは本当に眠かっただけの線も。

 真相は闇の中だが、これ以上はもう無駄かな。



 それはそうと、一つ気になっていたことがあるので、それを尋ねてみよう。


「そういえば、藤山さん。打ち上げの時に誰かに会ってませんでした?」

「えっ、誰に?」

「んー、誰だったかなぁ。俺も見たことがある人だった気が―――」

「き、気のせいだよ! うんうん」


 打ち上げの途中、ふと目を離したタイミングで藤山さんが男性と2人でどこかに行っていたような。

 その男性の後ろ姿に見覚えがあったのだが……、誰なのか思い出せない。

 ぱっと見で分からなかった時点で、深い知り合いではないと思うが。


 考え込む俺に、藤山さんは何かを誤魔化すように話題を変えてきた。


「そ、そんなことより―――これからどうするぅ?」

「ん?」

「部屋にはワタシとゆうき君の2人だけ♡ 裸の男女がするコトと言えばぁ?」


 まるで獲物を狙うハンターのように、じりじりとにじり寄ってくる藤山さん。

 さっきからずっと目をそむけていた妖艶な裸体が、徐々に視界を埋め尽くしていく。


「ゴクリ……」

「今日の大学の授業は昼からなの。―――まだ時間あるよね?」


 時間……? そうだ! 今日は月曜日。学校がある!

 さっきのカレンの電話は、登校時の待ち合わせ時間をオーバーしてのものだったと今になって気づく。



「うわっ、やっべえ。帰ります!」


 慌てて服をかき集め、玄関へとダッシュする。

 靴だけ履いて裸のまま扉を開けると、扉の先にはこのマンションの住民らしき女性がいた。

 裸の俺を見て女性が悲鳴を上げかけたので、慌てて女性の口を塞ぐ。

 目を見開いてモゴモゴともがいている女性に「てへっ、怪しい者ではないですぅ」と微笑みかけながら、口を塞いでない方の手だけでなんとか服を着る。

 服を着終えると、怯えながら涙目になっている女性を尻目に全力疾走でマンションから脱出した。

 脱出後しばらくすると、遠くから悲鳴が聞こえてきたが、キニシナイ。



「意外と真面目なのね。ミスったわ……」


 部屋に残された藤山咲の独り言は、女性の悲鳴にかき消されていた。




 ――――――――――――――――――――




 一旦家に戻り、制服に着替えて学校へ行く。

 HRまでギリギリの時間だが間に合った。

 遅刻を回避するため走り続けていたせいで教室に着いてからも息が荒い。

 遠目にカレンがこちらを睨んでいるのが見える。

 だけど真面目なカレンはHR直前だからなのか、こちらの席には来なかった。


 代わりに来たのは―――鏡月みや子。

 鏡月は音を立てずにこちらに近づいて来る。


「おい、HR始まるぞ」


 ちょうど先生が教室に入ってきた。

 周りの生徒が急いで席に戻る中、鏡月は周りを無視して自然な動作で口を耳元に寄せてくる。



「本堂ゆうき君の数字―――2になっているね。どういうことかな?」



 驚いて振り向くと、鏡月は冷たい目で俺を見下ろしていた。







 ―――――


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