第17話 数字が増えてないってコトは……?
藤山咲の頭の上に浮かぶ数字―――それは3のままだった。
藤山さんの数字が増えていない理由。
それは、俺とセックスをしていない。
それしか考えられない、よな……?
藤山さんはしたみたいなニュアンスの物言いだったけど、ちょっと疑わしい。
よし、まずは一つ一つ疑問を解消していこう。
「―――昨日さ、あの後……どうしてこうなったの……?」
「ん~。まあ、流れで♪」
「そもそもここはどこ?」
なんとなく予想はついている。
見慣れない部屋。女物っぽい家具。
「ワタシの部屋だよ。駅前のマンションで一人暮らし」
「だよね……。お邪魔してます……」
「いらっしゃい。って、今さらじゃない? ふふっ」
藤山さんがベッドの上で腕を絡ませてくる。
お互いに素っ裸。素肌の感触が腕から伝わってくる。
思わず胸をチラリと見てしまう。だって、すごいんだもん!!
「うわあ……」
「ゆうき君って胸ばっか見るよね」
「ふひひ、サーセン」
「ちょっと気持ち悪い、かな……」
若干引かれたが、それでも身体はくっついたまま。
藤山さんの火照った体温がこちらに伝播してきて、こっちまでカッと熱くなる。
そうなると当然、男のアレはアレになるわけで―――。
「朝から元気だね♪」
「生理現象っす」
「じゃあ、朝からもう1回する?」
「あざっす! じゃなかった。いや、その前にお話を―――」
「スッキリしてからでよくない?」
「いいっすね! じゃなくて、とりあえず……服着ましょうか」
「えー服着ちゃっていいの?」
「うっ……」
絡ませている腕に力を入れてくる。
大きな胸が潰れそうな程に、ぎゅうぎゅうと押し付けられた。
やめろおおおおおおお。
これ以上は我慢できないぞぉ!
柔らかな胸の感触と、ピタリと寄せてくるすべすべの肌。
ふわりと香るシャンプーの匂いに、頭がクラクラする。
首筋にかかる藤山さんの吐息がくすぐったい。
心臓がバクバクとして破裂していないのが不思議なくらい。
あれ……これって、我慢する必要あるか……?
据え膳食わぬは男の恥って奴では!?
錆付いたロボットのように首をギコギコと回し、藤山さんを見る。
藤山さんも上目遣いにこちらを見上げていた。
「本当に服着ちゃっていいの?」
「………」
「ゆうき君なら……いいのに♪」
「先輩! ゴチになりま―――」
欲望に忠実なオオカミになりかけた瞬間、スマホが鳴った。
無機質な電子音が室内に鳴り響き、ハッと我に返る。
「あっ、ごめん」と反射的に身体を離し、ベッドから降りて、床に散らばったズボンのポケットからスマホを取り出す。
後ろから「ありえなくなーい?」と聞こえてきた。
本当にそれ! なんで着信音に反応しちゃったんだろう、と後悔しながらも、スマホの画面を見る。
画面に表示されていた名前は―――『加賀美カレン』だった。
「あー、カレンからだ……」
「むむっ!? 誰よその女?」
「あっ、えーっと……幼馴染です……」
「ふーん。―――出れば?」
「………」
すまん、カレン!
俺は災害を回避するため、カレンからの着信を無視して電源を切る。
「いいの? 切っちゃって」
「この状況で電話に出れるのは鈍感系主人公だけなんだ……」
「ちっ、現実を直視したわね。やるじゃない」
「あのままカレンと会話してたら、割り込む気満々だったやん」
「ソンナことナイヨ」
ふう、危なかったぜ。
今なおイキリ立つ愚息のせいで中腰になりながらも、地雷を回避できたことに安堵して
「それで―――続き、する?」
藤山さんが一糸まとわぬ姿でベッドから立ち上がり、こちらに近づいて来る。
改めて見ると、藤山さんはとんでもないスタイルの持ち主だった。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
主張の激しい大きな胸は、まったく垂れずにツンと張っていた。
さっきまで寝ていたせいで乱れた髪が、無防備な裸体を際立てている。
こんなんもうチートや、チーターやん!
知らず知らずのうちにゴクリとつばを飲み込んでいた。
俺はこの人と昨日―――。
でも、記憶が無いんだよなぁ……。
昨日出すモノ出してスッキリしているか? と言われれば―――どうだろう?
自分のムスコは今でも節操なしにギンギンなので、判断できない。
「あの……。俺たち、本当に昨日しました……?」
「えっ、覚えてないの?」
「実は、まったく」
「うそぉ……失礼過ぎない?」
「すみません……」
腕を組んで呆れた表情の藤山さん。
腕に押し上げられた胸がはちきれそうになっている。
ヤバい、この人、存在が目に毒だ。
「たしかに昨日は途中で寝ちゃったのよね。ゆうき君」
「!? ってコトは―――?」
やっぱりしてないのか!?
数字が増えていないから、おかしいと思ったんだよ!
「そう! 良かったけど……ワタシは満足してないの!!」
その返答、どっちだよ!?
最後までしてなくて不満なのか、やったけど物足りなくて不満なのか、どっちだ?
「結局したんですか……?」
「―――やだぁ、そんなこと聞かないでよ♡」
ポッと頬を染めて、チラチラとこちらを見てくる藤山さん。
だからどっちやねん!
俺はふと思いつき、とある物を探して視線をキョロキョロとさせる。
「どうしたの、ゆうき君?」
「―――ゴム、あります?」
そう、コンドームだ。
使用済みがあるなら、もう済みませんでした! というほかない。
「ああ、これね。もちろん用意してあるよ」
藤山さんがベッドサイドのテーブルからコンドームの箱を持ってくる。
その箱は―――開いてなかった!
未開封……ってことは、やっぱり未遂で終わってる!?
「使ってない……」
「うん。だからまだいっぱいできるね♪」
箱を開けた藤山さんが、中から1個を取り出して口にくわえる。
あのー藤山さん。お話をしませんか……?
―――――
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