第16話 なぁ~に~?やっちまったな!


 日曜日になって、俺は中学からの友人である山田太郎のライブに行く。


 繁華街の外れ、目立たない路地裏の先にある雑居ビル。

 ひっそりとした路地裏には似つかわしくない派手な看板が目印。

 そこの半地下の1階。小さなライブハウスがあった。


 受け付けからチケットを半分ちぎられ、残りを渡される。

 中に入ると、反響した爆音が四方八方から押し寄せてきた。

 用意したチケットが50枚と言っていたように、箱のサイズはその程度。

 観客の数もまばらで、前列は床に座っている者も多い。

 俺は後方の壁際へと向かい、ボーカルの声が小さくて聞き取れないバンドの演奏に耳を傾けていた。


「あれ……知り合いが居ないなぁ……」


 友人でもいないかと辺りを見回すが、残念ながら見つけられなかった。

 スポットライトの光がステージに集中し、観客席は薄暗い。

 今演奏しているバンドが終わって照明が付けば、誰かしらを見つけられるかも。


 太郎の出演時刻を調べるため予定表を見に行く。

 壁に掛けられたホワイトボードを眺める。

 書き殴られた本日のスケジュール表から、太郎のバンドの出演時間を確認した。


「えーっと、太郎のバンドは―――うわぁ、まだまだ先か」


 事前に太郎から確認しておけばよかった。

 現在の時刻は昼過ぎ。太郎の出番までまだ2時間もあった。

 一度抜け出してどこかブラブラしてこようかと考えていた矢先に、思いがけない 人物と出会う。


「あれっ、ゆうき君じゃない?」

「あっ」


 声を掛けてきたのは―――藤山ぶじやまさきさんだった。

 藤山さんとは、同じバイト先の先輩と後輩の関係。

 以前ナンパされているところを助けた?間柄あいだがらである。

 具体的な年齢は知らないけど、たしか大学生だったはず。

 ちなみに藤山さんの数字は。どうでもいいけど。



「こんなところで会うなんて奇遇ね。出演するの?」

「いえ、友達の応援で」

「それならワタシと一緒ね」


 あれからバイト先で再会し、少しだけ話すようになった。

 藤山さんはオシャレでスタイルが良い、ザ・大学生といった印象。

 バイト先でも明るく社交的で、同僚からも人気だった。


「ゆうき君は今ひとり?」

「一応そうですけど」

「ならワタシと居てよ!」

「えー」

「別にいいでしょう? さつきから男に声掛けられて困ってたのよ」

「またナンパですか」

「そうそう。また彼氏役してくれる?」


 そう言って、こちらの返答を待たずに腕を絡ませてくる。

 ある意味凶器とも言える大きな胸の膨らみを腕に押し付けられ、有無を言わせずに引っ張られていく。


「ここにしましょう。ゆうき君とはあんまりバイトのシフトが被らないから、一度 ゆっくりと話してみたかったの」

「まあ、いいですけど」




 そうして藤山さんと一緒にライブを鑑賞する。

 お互いの知り合いが演奏している時間以外は比較的暇なので、会話が色々と弾む。

 音楽の話や、友人のこと、バイトの話題、etc。


 バイト先が同じファミレスではあるが、お互いにポジションが違う。

 藤山さんはウェイトレスで、俺はキッチン。

 座席数が150とかなり大きめの店舗なので、働いている人も多い。

 だからこれまでバイト中でもあまりかかわりが無かった。

 以前ナンパされていた時だって、藤山さんは俺に気づいていたみたいだが、俺は初対面だと勘違いしていたくらい。


 でもこうして改めて話してみると、藤山さんがバイトで人気なのもうなずける。

 あちらから話題をどんどんと振ってくれるし、にこやかな態度を崩さない。

 素の状態が陽気な人なのだろう。接客業に向いている。

 容姿も優れているのでウェイトレスとして重宝されているはず。特に男性から。

 バイト中でも客の男性から連絡先を書いた紙ナプキンをよく渡されるらしい。

 ウェイトレスあるある、なんだそうだ。

 うん、どうでもいいトリビアをありがとう。あれって、迷惑でしかないらしいぞ!




 なんだかんだで、こういう場所で誰かと居るとありがたい。

 藤山さんのお陰であっという間に時間が過ぎ、そろそろ終わりの時刻を迎える。


 太郎たちの合同ライブはお昼から夕方まで。

 本来のライブハウスはむしろこれからが本番の時間帯。

 でも、法令とか厳しいからね。未成年の学生バンドは早めに終わる。

 その分、人が来ない時間帯なので借りる料金も安いのだろう。


 これで解散の流れになるかと思いきや、藤山さんがおかしなことを言う。


「そろそろ終わるね。もちろんも参加するでしょう?」

「えっ、この後?」

「そうよ。これからが本番じゃない」

「ん? この後のライブがメインで見に来ていたとか?」


 頭に?マークを浮かべていると、藤山さんが違う違うと手を振りながら言う。


「そうじゃないよ。この後の、打ち上げ」

「あー、そういうのがあるのか」



 なんでも、呼んだ観客も含めての打ち上げが予定されているらしい。

 今回太郎のバンドと合同で出演した、とあるバントメンバーが提案したとのこと。

 そのバンドメンバーの実家がレストランを経営していて、そこを貸し切りに。


「打ち上げが目的で来ている子も多いのよ」

「合コンみたいなモンですか?」

「周りをよく見てみて。気合入っている見た目の人が多くない?」

「たしかに……」


 言われてみれば、そんな気がする。

 そういえば、太郎が「呼ぶのは美男美女限定に決めている」と言ってたな。

 あの時はくだらないジョークかと思っていたが、案外本当のことだったのかも。



「さあ、行きましょう」

「いや別に……。参加費とか高そうだし」

「たいしたことないって! なんだったら、ワタシが出してあげる」


 そう言われても……。

 昨日から寝不足なんだよなぁ。あくびが止まらないし。


「ここ数日、眠れなくて―――」

「大丈夫? 悩み事か、病気かな?」


 心の底から心配してくれる藤山さん。

 ちょっと言い出しにくくなってしまった。

 まあ、いいや。正直に言ってしまおう。


「今年の6月はゲーム業界が熱くて―――」

「心配して損したわ……」

「いつやるの? 今でしょ!!」

「心配して損した!!」

「でもFPSやめれないんだけどwww」

「バカなの? 死ぬの!?」

「横浜のFakerと呼んでくれ」

「ゆうき君はただのフェイカーよ」

「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?(深夜3時のゲーム中」

「やられちゃえ! バーカー」






 結局、打ち上げに参加した。

 そしてそこでも色々とあって―――――。






 チュンチュン。

 スズメのさえずりで目を覚ます。


「ふわぁぁあ。あれっ、ここ―――どこだ?」


 知らないベッドで寝ていた。

 周囲を見回しても、まったく心当たりの無い部屋だった。

 部屋の内装からして女性の部屋か?


「むにゃあ……。ん? ああ、ゆうき君だ。おはよ~」


 隣で裸の女性が寝ていた。

 掛け布団から顔を出す女性。それは―――藤山咲さんだった!!!


「は? えっ?」

「―――しちゃったね♪」


「qあwせdrftgyふじこlp」

「すごかったよ♡」




 でもさ……。おかしくね?


 藤山さんの数字が―――増えてない!?


 藤山咲の頭の上に浮かぶ数字―――それはだった。


 とりあえず昨日何があったのか、思い出してみようか。







 ―――――


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