第12話 薄い本が厚くなるね


「あのカップルの数字は?」

「男が2、女が1」

「ボクからは男性が7、女性が6に見える」


 俺と鏡月きょうげつみや子は、『他人の頭の上に数字が浮かんで見える』能力を持つ。

 しかし、お互いの見えるが違っていたようだ。


「2人が付き合う前に、男の方が別の相手で童貞卒業しているな」

「そうとも限らないさ。浮気の可能性もある。一度のあやまちってね」


 屋上から校庭を2人で眺める。

 下校途中の生徒を対象として、お互いの見える数字を確認していた。



「あの男・女・男で並ぶ3人は? こちらは左から1、2、1」

「ボクからは4、37、33だね」

「うわ、やっぱり三角関係か。回数からすると右の男が本命か」

「そうとも限らないさ。どちらかが元カレかもしれない」

「だとしたら元カレは未練タラタラだろ。現在のカップルに割り込んでいるからな」

「はは、すべては憶測だよ」


 俺が見える数字。それは―――経験人数。

 鏡月が見える数字。それは―――Hした回数。

 0や1なら一致するが、それ以降はたいていの場合異なる数字になる。



「あの野球部のエース君はいくつかな? ほら、輪の中でげきを飛ばしている」

「あれか、数字は1だぞ」

「そうなのかい!? ボクからは378なんだ。高校生にしてはとても多い」

「彼女とおさかんなだけだったな」

「エース君に偏見を持つところだったよ。やっぱりボクたちは相性がいいね!」

「能力的にはな」


 俺と鏡月がそれぞれ見えている数字を比較すれば、より詳しく理解できる。

 だからどうした? という話でもあるが。


「将来2人で浮気専門の探偵にでもなるかい? きっと成功するよ」

「ニートになってたら誘ってくれ」

「ボクが養ってあげよう」

「意味が変わってくるな」

「そっちの意味でも構わないよ」

「はいはい考えとく」


 流し目でウインクをしてくる鏡月。

 昨日まで認識すらしていなかったクラスメイトのメガネ女子。

 だが、今後の付き合いは長くなりそうだ。そう予感させるものがあった。




「お互いの能力が分かったところで、次はこれを見て欲しい」


 鏡月はポケットからメモ帳を取り出す。

 そこには、名前と数字がびっしりと書き込まれていた。

 紙媒体に記録して持ち歩くなんて、今どきアナログな奴だな。


「なんだこれ?」

「エッチノートさ」

「名前を書かれるとエッチしたくなるノートか」

「薄い本が厚くなるね」


 最初のページは、鏡月の両親が書かれていた。

 日付けと数字がセットで記載されている。

 つまり、両親の夜の生活の推移が透けて見えるわけだ。


「生々しいな」

「毎朝顔を合わせるたびに数字が増えてないかドキドキさ」

「『ゆうべはお楽しみでしたね』って言ってやれよ」

「『妹が欲しい』って夜に言ったことはある。次の日数字が増えていたよ」

「確信犯め」

「金曜日はいつも決戦さ」

「これを知ったら、お母さんが泣くぞ」

「ベッドで泣かされているのは、いつもお父様の方だよ」

「実際にのぞくなよ」

「ほら、ここを見て。一晩で数字が5も増えているよ」

「あーあー聞こえない聞こえない」


 どうやら鏡月は、周りの人のエッチ回数を記録するのが趣味らしい。

 とんだ趣味を持つオタクだ。


「趣味って人生に必要だよね」

「他人の迷惑にならなければな」

「なってないよ」

「たしかに……」


 得意げに胸を張る鏡月。

 前髪とメガネに隠された容姿は、大人びている反面、体型は子供っぽい。

 それでも、ささやかながらも胸のふくらみがあり、思わず目がいってしまう。

 胸への視線に目ざとく気づいた鏡月は、あやしく微笑む。


「ふむ……ボクと数字を増やしたいのかい?」

「0のくせに調子に乗るな」

「たった1の分際ぶんざいでマウント?」

「ヘンタイ処女め」

「なら君は一発屋チキンだよ」



 ふいに鏡月がこちらをじっと見る。

 その目は好奇心で溢れ、こちらに興味津々といった様子。


「実際のところ、加賀美カレンさんとはどうなんだい?」

「ただの幼馴染」

「セックスしているのに?」

「…………」

「あれだけイチャイチャされると、さすがに気になる」

「学校ではほとんど接してないぞ」

「君たちは隠しているつもりかもしれないけど、教室でもお互いにチラチラと視線を送り合っているよ」

「気のせいだ」

「深入りしすぎなのは承知で尋ねるよ。過去に何かあったのかい?」

「……図々しいと嫌われるぞ」

「友達いないからノーダメージさ」

「無敵の人じゃん」


 気が付けば屋上に来てから30分以上経っていた。

 カレンを待たせてしまっている。

 俺は鏡月との話を切り上げ、教室に戻る。


 別れ際に鏡月が、「困ったことがあれば相談に乗るよ」と言っていた。






 教室に戻るとカレンが待っていた。

 これ見よがしに時計を確認してくる。先にそっちが待たせたくせに。

 こちらが謝罪をしないと見ると、お次は得意の怒ったゾ! のポーズ。

 手を腰に当て胸を張る。

 平べったい胸には微かなふくらみすら無かった。


「ステータスだって言う人もいるから……(ボソッ」

「―――貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」

「こんにちは死ね、やめて」






 ―――――


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