第11話 似て非なるもの
「はあ……」
放課後になっても朝のHR前に起きた出来事を思い出して、ため息が漏れる。
あの時、意味深なことを告げてきたメガネ女子に、今も呼び出されていた。
待ち合わせ場所は屋上。相手はまだ来ていない。
6月の空は、あいかわらずのどんよりとした空模様。
雨こそ降ってはいないが、スッキリと晴れることもない。
屋上の扉が開く音がした。案の定、後ろから声が掛かる。
「ごめん、待った?」
「イマキタトコロ」
「うわっ、義務感まる出し」
「テンプレって大事だよ」
「たまにはお決まりを
「それはやっちゃいけない! 悪魔の所業だぞ!」
俺を呼び出した人物は―――
クラスメイトの小柄なメガネっ子。
太郎曰く、普段から物静かで目立たない子らしい。
「加賀美カレンさんはいいの? いつも一緒に帰ってるよね」
「『用事があるから20分待ってろ』と言われた。俺は待たせる気はないぞ」
俺が暗に用件を
「用事はアレかな。とりあえずこっちにおいで。いいモノが見れるよ♪」
手招きされた場所は、屋上内の北側の一角。
鏡月はそこで指を下に差している。
指が示す先をフェンス越しに
「あれがどうしたんだ?」
「知らないんだ? なら、まずはお話からしようか」
先ほどから口調が変化している。
まるでキザっぽい男の子のようだ。
そう演じている、もしくはこれが本来のしゃべり方なのだろうか。
「朝の続きさ。ずっと気になっていたんだろう」
「数字が見えるって話か」
「オフコース」
「欧米か!?」
「モチのロン」
「昭和か!?」
「ナウなヤングにバカウケさ」
「もうええわ。さっさと話せよ」
一陣の風が吹く。
鏡月の前髪が揺れ、隠されていた瞳が表に出る。
小動物のように小柄な鏡月にしては随分と不釣り合いな、彫りの深いアイライン。
まるで海外女優のように目鼻立ちがハッキリとしていて、可愛いというよりも美しいと感じる整った顔立ち。
アンバランスで神秘的な瞳から目が離せない。
その鋭い
「本堂ゆうき君は人の頭の上をよく見るよね。数字が見えているのだろう?」
「何のことやらさっぱりだ」
「ムリムリ、もう確信しているから。実はボクも数字が見えている」
俺の勘違いではなかったらしい。
本当に同じ能力を持っているようだ。
なら、隠す必要はないか。
「驚いた。俺以外にも見える奴がいるなんて」
「こちらもさ。生まれて初めて出会ったよ」
「いつから見えてる?」
「物心ついた頃には。本堂ゆうき君は?」
「少し前、ここに入学してからだな」
「それは
芝居がかったように手を広げる鏡月。
口調とあいまって、まるで舞台女優のよう。役柄は、男装の麗人か。
「ボクたちはお互いに理解者になれる。そう思わないかい? ボクはこの能力のせいで昔から人と接するのが苦手でね」
「人は人だろ。他人の数字なんて気にするなよ」
「ボクの場合、両親の数字が増えていくのがね……」
「あー、それはつらいな」
「さすがにね……。目を合わせられないよ」
屋上から眼下を見下ろしていると、校舎裏の大木の近くで人影を見つけた。
そこには2人の人物がいる。カレンとイケメン男子の一条だ。
「校舎裏の大木は有名な告白スポットなのさ」
「もしかして、俺にこれを見せるために屋上に呼んだのか?」
「2人でじっくりと話したかったってのが一番。これはついでだよ。加賀美カレンさんの事だ、君も気になっていると思ってね」
5階建ての校舎の屋上からでは、下の様子はイマイチ分からない。
ただ何となく分かるのは、一条と向かい合っているカレンが何度も頭を下げていること。そして一条を置いて、カレンは走り去っていった。
どうやら一条も敗れたようだ。
「おめでとう、本堂ゆうき君。安心しただろう」
「余計なお世話だ」
「不安じゃなかったのかい? だって一条夏明君は―――」
「数字は関係ないだろ」
別に一条の数字が0だから大丈夫と思ったわけじゃない。
―――俺がカレンにどうこう言う資格が無いだけ。
「ふむ、そんなものか。まったく妬けるね。ボクとしては君が同類だと知って好感を覚えていたから残念なんだけどね。ああ、安心して、加賀美カレンさんとの仲を引き裂こうとは考えていないから」
「だからそういう関係じゃないって」
「でも、お互いの初めての相手だろう。君たちは仲良く1だ」
「どうして俺たちがセックスしたと分かる?」
「カマをかけただけだよ。ボクたちが分かるのは数字だけ。後は推理するしかない」
「あーそういうことか……。誰にも言うなよ」
「もちろん。ついでに聞いていいかい。どうして1回だけなんだい? 仲良く登下校しているくらいだから関係は続いているのだろう?」
ん? 何かおかしいな。
「なんで1回だけって分かるんだよ?」
「何を言っているんだい? 数字が1だからだろう。増えてないじゃないか」
―――――
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