第10話 お互いに受け入れる 【過去4】


 中学3年の夏休み直前の7月。


 あの告白の日以降、俺たち4人の関係は急速に変化していった。



 例えば、朝の登校前。玄関を開けるとそこには―――。

「おはよ、ゆうき。一緒に学校いこう」


 エーちゃんが家の前で待っていた。


 エーちゃんと俺とは、同じ中学校だが、小学校は違う。

 小学校の学区が違うので、お互いの家はかなり離れている。

 歩いて30分はかかる距離。かろうじて同じ中学校の範囲内に住んでいるだけ。

 お互いの家は中学校を挟んで逆方向にあるし、最寄り駅からも逆方向。

 よって、今まで登下校は一緒じゃなかった。

 それなのにわざわざ朝に迎えに来たのだ。相当な負担だったはず。

 いつもはカレンと2人で登校するので、エーちゃんと一緒にカレンを待つ。

 カレンが来て合流すると、エーちゃんがいることにカレンも驚いていた。



 他には、エーちゃんがヤキモチを焼くようになった。


 元々4人の関係というのは、少し奇妙な関係でもある。

 同学年に知れ渡る2組の幼馴染ペア。それが俺とカレン、トー君とエーちゃん。

 そういった共通点があって自然と4人で仲良くなった経緯がある。


 だから、俺とトー君が仲が良かったとか、カレンとエーちゃんが仲良しだったとかが理由で4人で行動するようになったわけではない。

 つまり、4人の仲が良いと言っても、

 俺で言えば、幼馴染のカレンと同じクラスのエーちゃんとは2人でも会うが、  トー君とは4人の時だけ一緒に行動する。そんな関係。

 なぜなら、トー君とは一度も同じクラスになったことがなく、2人だけで遊びに行ったこともないから。

 もちろん仲が悪いわけではない。

 あくまでも4人グループの時だけ会う、という形の友人だった。


 ―――それと同じことがカレンとエーちゃんにも言えた。


 だからこそ、エーちゃんは俺へのアプローチを過熱させていくに従って、次第に カレンへのライバル意識が目覚めていったのだろう。

 4人でいる時に、俺の隣がカレンになることをエーちゃんが阻止するようになる。

 また、俺とカレンとの会話にも積極的に割り込むようになった。



 そして、そんな状況がするようになる。

 それはエーちゃんにならうように行動し始めたことだ。


 当初、トー君はカレンに振られたことで一歩引いた態度をとっていた。

 だけど、エーちゃんの振る舞いを見て感化されたのか、次第にカレンへの再アプローチを強めるようになる。

 

 エーちゃんから猛アタックを受ける俺と、トー君から猛アタックを受けるカレン。


 俺とカレンが話そうとすると、エーちゃんとトー君が協力して引き離そうとする。


 一つ一つの出来事は些細ささいなものではあるが、明確に4人の関係がギクシャクし始めていたのも事実だった。







 夏休みに入ったばかりのとある日に、俺はカレンに呼び出された。


 久しぶりにカレンの部屋に入る。

 幼馴染とはいえ女の子の部屋に入るのはお互い気恥ずかしい。

 特に中学生になってからは、ほとんど部屋に行ってなかった。

 飲み物を用意してくれたカレンが、こちらの様子をうかがいながら言う。


「ねえ、ゆうきはエーちゃんのこと、実際のところどう思っているの?」

「急になんだよ」

「最近のエーちゃん……だけじゃないね、トー君も積極的だよね」

「そうだな。4人で居ても正直言って疲れるよ」


 それはエーちゃんに対してだけではない。

 そもそも俺はエーちゃんに惹かれていた。だから彼女の積極性に多少 辟易へきえきするところはあっても、嬉しいという感情もあった。

 それよりも、トー君のカレンへのアプローチを見せられているのが負担だった。

 カレンにも惹かれている。だからトー君からのアプローチにまんざらでもない様子のカレンを見ているのが辛かった。

 当然それに文句を言える立場ではない。なので余計にストレスがたまるのだ。


 こんな気持ちになるなら、どちらかに決めた方がいい。

 そう思うようになってくる。


 そして、そうであるなら―――。



「ゆうきもエーちゃんからの告白は断ったんだよね?」

「ああ」

「だけど、諦めてくれなかった」

「そうだな」

「私も似た状況。トー君からの告白を断ったけど、友達でいようって約束したから」

「そっか。こっちは夏休みに会う約束をしたよ」

「2人で?」

「うん」

「そうなんだ……。それって……デートだね」


 カレンは告白をきっぱり断り、友人関係に戻った。

 それに対して俺は、告白は断ったものの、恋人の仮押さえという友達以上恋人未満な関係を受け入れてしまった。

 エーちゃんが脈アリと受け取って暴走しても仕方ない。

 それが今の状況に繋がっているとすれば、結局は俺が招いたこと。

 優柔不断だったと言わざるを得ない。



「実は昨日ね、エーちゃんと2人で話し合ったの。それで、『ゆうきとの関係をはっきりして欲しい』って言われちゃった」


 エーちゃんがそんなことをカレンに……。

 もしかしたら、エーちゃんは相当に焦っているのかもしれないな。


「エーちゃんは本気だよ。本気でゆうきのことが好きなんだと思う」

「さすがにわかるよ」

「だから―――もし、ゆうきさえ良ければ、エーちゃんの気持ちに応えてあげて」

「えっ……?」

「それでね、私も……トー君と付き合ってみようかなって思っているの」


 カレンの決断に、俺の頭は真っ白になる。

 さまざまな感情が、浮かび上がり、混ざり合い、ぐちゃぐちゃに。

 でも―――これでいいのかもしれない。

 この選択は、。そう感じたのだ。


 このままどっちつかずでいるのも、だ。

 ここからカレンと付き合うのを目指すのは、だ。

 エーちゃんを振り切って、トー君と争う必要があるから。

 なのは、エーちゃんの気持ちを受け入れること。


 だから―――。



「―――そうか、わかった。そうしよう」


 こうして、近々エーちゃんと2人で会う約束をしていたので、その時に告白を受け入れることに決めた。







 ―――――


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