第9話 これが本当のゼロレクイエム
「それじゃあ、また放課後に」
「おう」
6月になって梅雨入りの時期になる。
いつものようにカレンと登校し、教室で別れた。
「うっす、しけたツラしてんな」
「オマエモナー」
隣の席の山田太郎と挨拶を交わす。
相変わらず眠そうで、机に身体を突っ伏したまま顔だけをこちらに向ける。
「なんだ、またバンドでオールか?」
「ライブに向けて追い込み中なんだよ」
「いつだっけ?」
「再来週の日曜」
「しゃーねな、買ってやるよ」
「おーマジか! 愛してるぞ!」
「やらないか」
「いいから出せよ! 金の方な」
500円玉を1個渡すと、手作りのチケットを寄こしてくる。
中学からの友人である太郎は、バンドを組んでいるベーシスト。
昔から定期的にアマチュアライブを開催していた。
「まいど! 助かるわ。なんだったらカレンちゃんも連れてきてくれ」
「興味ないだろ」
「ひでえ」
「……あと何枚余ってるの?」「37」
「箱のサイズは?」「50」
「単独?」「4バンド合同」
「全然売れてないじゃん! 身内とか全力で誘えよ」
「呼ぶのは美男美女限定に決めてるからな。ま、お前は例外で許してやるよ」
「金返せよ! ってか、もっと堅実に集客しろ」
「堅実とか、ロックじゃねえな」
「それ言いたいだけだろ」
突然、クラス内がざわめく。
見慣れない顔の生徒が教室に入ってきたようだ。
「すげーイケメンだな。あんな奴いたっけ?」
「知らねーのかよ。隣のクラスの一条だよ。とんでもないイケメンだって女子がよく噂にしているだろ」
「ふーん。でも、あの顔で遊んでないのか。もったいねーな」
「は? あいつ女を取っ替え引っ替えで有名だぞ」
「そうなの? じゃ、なんで―――」
イケメン男子の一条がカレンの元へ行く。
何か一言二言やり取りをした後、カレンを連れて教室を出ていこうとする。
嫌そうな顔をしていたカレンがチラリとこちらを見た。
手を振ると、カレンは般若顔になって舌をベーっと出し、イケメン男子を追う。
2人が教室から出た瞬間、クラス中がワーッと騒ぎ立った。
「まずいんじゃねーの? カレンちゃん」
「なにが?」
「なにがって、一条だよ。あいつも堂々とよくやるわ」
「……大丈夫だと思うぞ」
「余裕そうだな。お熱いことで」
イケメン男子である一条の数字は0。
噂なんてアテにならないものだ。
カレンがすぐに教室に戻ってきた。たいした用事ではなかったみたいだな。
席に戻る前にこちらを見て中指を立ててくる。
お返しにこちらも中指を立てたら、顔を背けられた。
席に着いたカレンにクラス中の女子が駆け寄っていく。
一条とのやり取りを聞きたいのだろう。
周りの女子は俺をチラチラと見ながらカレンを尋問している。
反対にクラスの男子は俺の元へ。
以前とは違い、高校ではカレンと校内でほとんど接していない。
それでも登下校が一緒なのでクラスメイトには俺とカレンの仲が認識されている。
当事者の俺たちが恋人関係を否定していても色々と想像されているのだろう。
そんな状況だから、男子たちは俺をからかいに来た。
「おいおい、本堂やばいんじゃないの?」
「加賀美さん可愛いしなー」
「部活の先輩の間でも噂の的になっているぞ」
「もうかなり告白されているらしいな」
「でも今のところ全部玉砕だろ」
「そこでついに一条だよ。これ決まったんじゃね?」
カレンの話題で盛り上がる男子たち。
入学してからカレンが何度か告白されているのは知っていた。
が、思っている以上に学校内で人気があったらしい。
高校入学を機に茶髪に染めて垢抜けた印象のカレン。
校則に引っかからない程度に化粧もしているようだ。
その結果がこれなら、高校デビューの成果は絶大だな。
「本堂、気にならないのか?」「別に」
「お前の加賀美さんが取られるぞ?」「俺のじゃねーよ」
「ヘタレてんなぁ」「うっせえ」
「さすがは童貞王だな」「しつけーよ」
「寝取られ童貞王に昇格か!?」「…………」
「童貞王の玉座は渡さんぞ!(キリッ」「…………」
クラス中が大騒ぎ。
ついでに久々にあだ名でからかわれる始末。
カレンも困っているようだし、ここは一つ反撃でもするか!
俺は席を立ち、教室の中央へと移動する。
突然の行動にクラスメイトが注目する中、声を大にして宣言する。
「阿部、加藤、小林、佐々木、仙田、都賀、沼山、日比谷、元木、矢部」
「「「!?」」」
クラス内がしんと静まり返る。
呼ばれたクラスメイトも呼ばれた理由が分からずにポカンとしていた。
共通点は全員が男子。そして、数字が0。
「童貞王の座はお前らにやるよ! そ・う・だ・よ・な?」
「ちょ、おまっ」
「ちっ、ちげーよ!」
「―――ん? 何か言ったかなー(聞こえないフリ」
「曇り空って、綺麗だよな……(現実逃避」
「だ、誰か、ぼ、僕の童貞もらってください!(吹っ切れた勇者」
クラス中が生暖かい空気に包まれる。
男子は穏やかになり、女子は優しくなる。
一部獲物を狙うハンターのように目を光らせている女子もいるが。
いいクラスだな。みんないい奴だ!
うちのクラスにいじめはありません、まる。
―――よし、逃げよう。
俺とカレンの注目が
廊下に出ると、なぜかメガネをかけた女子が追いかけてきた。
名前は―――わからん。が、逃げても執拗に追いかけてくる。
屋上へと繋がる
何の用かと困惑する俺に対し、メガネ女子が言う。
「見えてる、よね?」
「はい?」
「数字」
「―――なんのことだ?」
「0の男子、一人残らず全員言い当てた」
「…………」
「なんで以前にドーテーって嘘付いたの?」
「嘘じゃねーよ」
なんだこいつ。俺が数字を見えてるのを知っている……?
「本堂ゆうき君はドーテーじゃない。1回経験済み。相手は加賀美カレンさん」
断定口調の物言いに、俺はハッとして目を見開く。
思わず腰をかがめて、メガネ女子の前髪に隠れた瞳をのぞきこむ。
目が合うと―――目の前のメガネっ娘女子は、不敵に笑っていた。
―――――
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