第13話 忘れ物を取りに戻ると 【過去5】
中学3年の夏休み。
高校受験に向けての夏期講習で、例年とは違って忙しい日々を送っていた。
今日はその
俺は初めてエーちゃんの家に遊びに行った。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃい。ここがわたしの部屋ね」
「1階にエーちゃんの部屋があるんだ」
「うちは2階がリビングなの。ささ、どうぞ」
エーちゃんの家は閑静な住宅街にある一軒家。
小さいながらも庭付きで、エーちゃんの部屋からも直接出入りできる構造。
「玄関のドア、閉めなくていいの?」
「いーのいーの。ここら辺の家はみんなそうよ」
玄関のドアにも網戸が付いていて、網戸だけを閉めてドアは開けたまま。
マンション住まいの俺からすれば不用心だと思うが、それだけ安全なのだろう。
「夜とか危なくない?」
「夜はさすがに閉めているよ」
「そっか」
エーちゃんの部屋に通される。
女の子の部屋はカレン以外では初めて。
カレンの部屋とは違って、たいぶさっぱりとしていた。
ベッドと机と本棚とクローゼットくらいしかない。
そのどれもが男性でも通用するデザインと色合いだった。
「じろじろ見ないでよ。ちょっと恥ずかしい」
「あっ、ごめん」
「ゆうきならいいけどね。飲み物取ってくる」
エーちゃんが部屋を出ていく。
残された俺は、今日するべきことを考えていた。
―――エーちゃんに告白する。カレンとの話し合いで決めたこと。
今日は新しい関係の第一歩となる日。
これから夏休みを楽しもう。そう自分を奮い立たせていた。
「お待たせ~。はいどうぞ」
「ありがとう。後で家の人にもお礼を言わないと」
「今日は誰も居ないよ」
「えっ」
「みんな外出中。今はわたしたちだけだよ」
「そうなんだ……」
「だから―――」
突然エーちゃんが俺の胸に飛び込んできた。
反射的に受け止める。自然と背中に手を回していた。
抱き合う形で固まってしまう。
胸の中に顔をうずめたエーちゃんが、上目遣いにこちらを見上げる。
「ま、まず、話を聞いて」
さ、先に告白をしなくちゃ……。
ドギマギしながら告白の事で頭がいっぱいになる。
「だーめ、逃がさない」
「そうじゃなくて、先にこく―――」
「実力行使♪」
エーちゃんに口を塞がれる。
唇に感じるやわらかな感触と、視界を埋めるエーちゃんの潤んだ瞳。
シャンプーの匂い、かな。もしかして香水かもしれない。
柑橘系の中にミルクのような甘さをブレンドした香りが鼻こうをくすぐる。
初めてのキスは四の五の言わせない突然の、そして甘美なモノだった。
「―――しちゃったね」
「ああ……」
「もっとして……」
事前に想定していた段取りがすべて崩れ去った。
エーちゃんがこんなに大胆だとは……。
もう一回キスをしようと顔を近づけてくる。
俺は流されるままにそれを受け入れようと―――。
「エーちゃん、入るぞ―――って、えっ、あっ……」
ノックもなしに部屋のドアが突然開いた。
ドアを開けたまま固まっているのはトー君。
俺とエーちゃんはサッと身体を離して、目を逸らす。
そして一泊置いたのちに、エーちゃんのカミナリが落ちる。
「トー君、最低! いつも言ってるでしょ、ノックしてって! 勝手に入って来ないでよ!」
「ま、マジですまん……」
たまたまトー君が訪ねてきたようだ。なんとも間が悪い。
トー君の家はエーちゃんの家の隣。
いつもこうして互いの部屋を行き来しているらしい。
しばらくの間、3人とも気恥ずかしさを隠すためか、おしゃべりで誤魔化す。
トー君が居ることでエーちゃんへの告白は有耶無耶になってしまったが、少しだけ安堵している自分がいた。
エーちゃんとのキス。そして抱き合っているところをトー君に見られた。
気まずさが抜けきらず、なんとも居心地が悪かった俺は先に帰ることにした。
顔もまともに見れずに、2人を残してエーちゃんの家をあとにする。
帰り道の途中、エーちゃんの家にバッグを忘れてきたことに気づいた。
もう20分くらい歩いていた。既に自分の家の方が近い。
「うわ……面倒くせえ……」
もっと早く気づけよ、俺!
独りで悪態をつきながら、とぼとぼと来た道を引き返す。
わざわざ来た道を戻り、再びエーちゃんの家に着いた。
夏全開の日差しの中、余計に歩いたせいでシャツは汗でびしょびしょ。
セミの鳴き声が妙にうるさく感じる。
玄関の呼び鈴を押そうとした瞬間、エーちゃんの声が聞こえてきた。
それは―――奇妙な
叫んでいるようで、悲鳴ではない。
鳴いているようで、泣き声ではなさそう。
庭の方から聞こえてくるエーちゃんの不思議な声。
庭から直接エーちゃんの部屋に行けるため、そのまま庭に向かう。
微かに聞こえていたエーちゃんの声が、次第にはっきりと聞き取れるように。
「あっ……あっ……あっ……」
初めて聞くエーちゃんの声だった。
余裕がなさそうな、せっぱ詰まった吐息。
「んんっ……トー君……もう、いいから……抵抗しないから……」
「ごめん、ごめん、ごめん……」
「んっ……入ってる……。もう、今さら止めても……あっ……」
「エーちゃん、エーちゃん、オレは! オレはっ!」
「あっ、あっ……お願い……トー君、ゆっくり……」
興奮して同じ言葉を何度も繰り返すトー君。
そんなトー君をどこか冷めた声で受け入れるエーちゃん。
2人は交わっていた。
ベッドの上でトー君が
腰というよりも、身体全体を必死に動かしていた。
エーちゃんは背中に手を伸ばして優しくさすっている。
トー君は無我夢中で涙声になりながら、取り憑かれたように動く。
エーちゃんは身体が圧し潰されそうになりながら、受け入れている。
呆然として庭に立ち
―――――
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