第5話 幼馴染と幼馴染 【過去1】
「で、なんで童貞なんて嘘ついたの?」
カレンが爆弾をぶっこんできた。
思わず、カレンの頭の上にある数字―――1を意識してしまう。
「…………」
「ゆうきの中ではさ……去年の夏のアレは、無かったことにしたいの?」
「そういう意味じゃねえよ」
「じゃあどういう意味よ」
「…………」
「あれから高校受験とか色々あったから、結局は
「……そうだな」
高校受験を控えた中学3年生の夏。
―――俺は判断を間違えた。
――――――――――――――――――――
俺とカレンは中学生の頃、
2人は互いに「トー君」「エーちゃん」と呼び合い、周囲もそれに
俺たちとは小学校が違い、中学からの友人。それ以前の
仲良くなったきっかけは覚えていない。
いつの間にか自然と4人で行動するようになっていた。
お昼休みや、部活の無い日の放課後、たまに休日も。
当初はあくまでも『2組の幼馴染ペア』という位置付け。
カレンと遊ぶ時に「今日はあの2人も呼ぼうか」と誘うくらいの距離感だった。
関係が変化したのは、中学3年次のクラス替え。
俺とカレンはクラスが別々になった。
そして俺とエーちゃんが同じクラスに、カレンとトー君が同じクラスに。
クラスが別だと、共に過ごす時間がどうしても減る。
校内限定で言えば、俺はカレンよりもエーちゃんと過ごす時間が長くなった。
エーちゃんは、活発でハキハキとした性格。
髪を染め、スカートを短く履くタイプ。
スポーツが得意で、陸上部で鍛えた足腰が自慢の健康的な女の子。
誰とでも仲良くなれる人となりで、男女問わず人気があった。
一方、当時のカレンは、気の強いところはあるが普段は大人しい性格。
子供の頃からずっと伸ばしていた長いストレートの黒髪が特徴だった。
スポーツよりも勉強が得意で、成績優秀、容姿端麗の委員長タイプ。
女子の友人は多かったが、俺にべったりだったこともあり、他の男子と会話しているところをあまり見なかった。
当時の俺は―――間違いなく、エーちゃんに
エーちゃんと2人だけで話す機会が増える。
エーちゃんの笑顔、しぐさ、会話のテンポ、リアクション。
どれをとってもカレンとは異なる魅力にあふれていた。
カレンがそうであった様に、俺もまたカレン以外の同年代の異性とはあまり接したことがなかった。
それもあり、エーちゃんのすべてがとても新鮮に映ってみえた。
じゃあ、カレンとはただの幼馴染で好意は無いのか、と問われれば、それは違う。
いつからなのかは自分でも分からないが、カレンを異性として意識していた。
幼かったカレンが、歳を重ねる毎に女性らしく、そして美しくなっていったから。
クラスが別になって離れている時間が増えたから余計にそう感じるようになった。
とは言っても、この好意が異性愛か家族愛かは判断しかねる部分もあるが。
―――同時期に2人の異性に好意を
これが罪だと言うのなら、俺は罪人だろう。
そして、罪人は俺だけじゃなかった。
―――俺たち4人全員が、それぞれ2人の異性の間で揺れていた。
――――――――――――――――――――
カレンとの会話が途切れる。
気の置けない仲なので、普段なら息苦しさを感じない静寂。
だけど、今だけは重苦しい空気が漂っていた。
残り少なくなったカップを手の中で揺らしながらこちらを
俺は話題を変えようとあれこれ考えるが、思うように言葉が出てこない。
「「あのっ」」
同時に声を上げ、お互いに固まってしまう。
一瞬の
「あはははは、タイミング悪かったね」
「ははっ、マヌケっぽかったな」
張りつめた空気が和らいで、いつも通りの穏やかな雰囲気になる。
「―――ちょっと、急ぎ過ぎちゃったかな」
「どうだろうな」
「高校進学を機に頑張ろう、と思ってね」
「何を頑張るんだ?」
「それは……色々よ」
「ふーん」
「―――だって、もうトー君もエーちゃんも居ないじゃない」
あの2人は、俺たちとは別の高校に進学した。
正直言ってホッとしている。決して仲たがいをしたわけではないが。
「失礼だな。死んでないぞ」
「失礼なのはどっちよ! 当り前じゃない」
その後は、取り留めのない話に花を咲かせる。
なんてことのない会話でも、相手がカレンだと心から楽しめた。
こちらを気遣ってあの2人の話題を切り上げてくれたから。
恐らくカレンは過去の清算をしたかったのだろう。
俺ときちんと話し合って前を向きたかったのではないか。
その気持ちを
でも、俺にはまだその一歩が踏み出せずにいた。
お互いの考えの差は、性格によるものだけじゃない。
カレンは知らないから、
俺は知ってしまったから、心の黒い霧が晴れない。
エーちゃんに対しての未練は無い、と思う。
心が
―――結局、俺はカレンとどうしたいのか?
過去に判断を
『時が解決する』という
―――なぜなら、もう二度と間違えたくないから。
―――――
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