住宅街
私の実家は、集落の中でも一際大きく新しい住宅街の一角にありました。ほぼすべてが同世代か少し下の子供がいる家族ばかりで、いくつかは三世帯で住んでいる家もあったと記憶しています。私の一家はその住宅街の中でも特に新しく越してきたばかりの家だったので、新品の我が家に遊びに来たがる地元の友人たちは後を絶ちませんでした。
確かあれは小学校四年生頃の話だったでしょうか。当時よく遊んでいた友達たちの中でも、同じ住宅街に住んでいる子が私を含めて四人ほどおりました。何かとその子たちとはよく学校が終わった後も公園や誰かの家に行って遊んでいることが多く、友人宅の合間を代わる代わる遊び場にしていました。ただ、私の家に彼女らを上げることはありませんでした。私の母は内向的な方で、家族以外の人を家に入れることをあまり好まなかったからです。
ただその日に限っては、私がいつも人の家に遊びに行ってばかりなのを気にしたからなのでしょうか。母がたいへん珍しく「お友達をうちに連れてきていいよ」と言ってくれたのです。それはそれは喜んだ私は早速友達たちにそれを話し、今日はうちで遊ぼうと誘いをかけました。いつも私の家に行くことがない友達たちも喜んで自宅へと遊びに来てくれました。
違和感に気付いたのは、遊び始めて三十分が経った頃だったでしょうか。遊んでいた友達のひとりであるAちゃんが、しきりにあたりをきょろきょろと見回すのです。
「どうしたの?」
「ううん……」
何か気になることがあるのだろうかと問いますが、彼女は曖昧に首を振るばかりでした。最初は確かに楽しみにして来てくれたはずなのですが、あまり私の家は気に召さなかったのかと思いました。真新しいだけで、特段家具などにこだわりがあるという話も両親からは聞いていませんでしたし、珍しいものなんかは大体両親の所有物だったため、うっかり触ってしまわないようにと隠してあったり布をかぶせてあったりしたものですから。
ふと気付けば、他の友達たちもなんとなく、いつもより無言でいることが多くなっていました。いつもはわいわいと楽しげにするのですが、何故か今日に限って何も言いません。私は幼心に何かを感じ取って早々に自宅で遊ぶのを切り上げ、近所の公園に行くことを提案しました。彼女たちもすぐに賛成してくれたので遊ぶ場所を変えることとなり、結局初めて友達を自宅に呼んだその日は、あまり好感触とは言えない結果となったわけです。
小学校を卒業し、中学を経て少しした頃には部活の関係でいつも遊ぶということも出来なくなってしまい、その頃のメンバーで遊ぶことも段々少なくなっていました。ただそれでも、夏休みなどの長期休暇の合間には定期的に集まって昔のようにおしゃべりをしたり、ゲームをすることもあったので、疎遠になってしまうことはありませんでした。
そんな中学校のとある時、ふいに自宅へ友達たちを呼んだ時のことを思い出した私は、未だ仲が健在だったAちゃんに例の出来事のことを聞いてみたのです。案の定、あれから後も私の家に友達たちを上げることはなかったので、思い出した今、聞く他ないと思いました。
するとAちゃんは、少し悩むように首を傾げてからこう言いました。
「侑介の家さ、何もいないんだよね」
「何もいないってどういうこと?」
「なんていうか……多分、新しいからだと思うんだけど。家の中になんにもいないんだよ。だから逆に静かすぎて気味が悪いなって思っちゃったんだよね。あの時はごめん」
もう過ぎて大分経ったことだったので、謝罪に関しては気にしていませんでした。ただ、何もいないというのがどうしても引っ掛かって仕方なかったので、詳しく知りたいと言うと、ちょうど同じ場で私たちの話を聞いていたBちゃんが言ったのです。
「うちにも、お父さんの書室の隅に女の人が立ってるんだけど、もうずっと小さい時からいるし気にしてないんだよ。AちゃんちにもCちゃんちにも、あの時一緒に遊んでいたりした子たちの家にはみんなそういうのがいるんだけど、侑介んちにはいなかったからさ。多分そのことが言いたいんじゃないかな」
BちゃんもCちゃんも、あの時自宅へと呼んで遊んだ友達のひとりでした。その彼女らが口を揃えて、私の家にはなにもいなかったというのです。何もいないことが、逆に怖いのだと。
「きっと、侑介んちは建てる時にしっかりお祓いしたんだろうね」
確かに我が家は新築で、家を建てる際に地鎮祭をした話は聞いたことがありました。ただまさか、それ故に友達たちから気味悪がられるとは思いはしませんでした。地鎮祭も、意味があったということなのでしょうか。
ただ如何せん私には所謂そういう霊視的能力はありませんので、彼女ら友達宅でそういうものを見たことは一度もありませんでした。彼女らの言い分が本当かどうかはさておき、私は過ぎたことなのだから、もう良いかとひとり納得することにしたのでした。
「あ。でも、最近侑介んちにもそういうの見えるようになったし、もしかしたら馴染んできたのかもしれないね」
Aちゃんの最後の一言の意味は、考えないようにしましたが。
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