草原ダンジョン 4
ミノタウルは死んだ。なんやかんやあって結果死んだ。
「強敵ってこういうのを指すんだね……」
玲は地に伏し二度と起き上がらない肉の塊を眺めながら、体の底より込み上げた言葉を吐き出した。
どの辺りが強敵であったか? 強いて言うならば、ミノタウルを殺させる為に嫌よ嫌よと喚く美波の説得を試みた辺りだろう。
勿論、玲とて好き好んで嫌がる美波に無理やり刀を握らせた訳ではない。
しかしながら、魔法を発動する毎にCTが長くなる関係上、あのまま姫子松に攻撃をさせ続けるのは得策ではなかった。
だからと言って己の攻撃力では何時まで経ってもミノタウルを倒せないし、銃に関しては費用対効果の観念から論外である。
「ふふ、ふふふ……血が、ちがっ、ちがう、違う、違う!違""!!!」
美波は紅に染まった雨霧を抱いたまま空言の様に何かを唱え続けているが、許容値を超えた衝撃に脳がバグって意味のない単語でも吐き出しているのだろう。
玲が彼女に毬を抱かせてやると、「ふわぁぁ」というファンシーな音と共に元に戻ったので気にする必要は無い。
そんな光景を繰り広げる部員たちの傍で鋼は一人、試案にふけりながらミノタウルの解体を進めている。
彼は死んで間もない牛の胸を掻っ捌くと、ドロッとした赤黒い液体の滴る生ぬるい隙間へと指を突っ込んだ。
探し物でもするかの様に腕を沈めて行き、やがて肘までが肉に浸かった頃、心臓の辺りで蜘蛛の巣の如く繊維が絡み付いて構成された器官を鷲掴む。
咀嚼にも似た粘着質で不快な音に臆する事も無く力任せに引き千切れば、未だ脈動の収まらない血管がずり落ちて歪な石ころが姿を現した。
俗に、魔石と呼ばれるエネルギーの塊。
ドス暗い紫色をしたソレは宝石にも似た質感をしており、掌で角度を変えてみると不吉な見た目からは想像も出来ない程に美しく光りを反射する。
「録画してはみたものの、ショッキング映像は投稿出来ないな」
「解説系なら?」
「ワンチャンある。需要が有るかは分からんが」
鋼は瞳を輝かせる玲にせがまれて、一年前に見た時よりも大きくなった魔石を手渡した。
魔石の大きさは内包されたエネルギー。もとい、金銭的価値を測る為の重要な指針だ。統計的に言えば、より大きな魔石を持つモンスターは、より強い個体である事が多かった。
「この魔石には何のスキルが封じ込められているのかな?」
「『身体強化Lv.2』『武器ストレージLV.1』のどちらかだとは思うんだが……」
増長されても困るので、今回倒したミノタウルが規格外ボスモンスターだったという事は伏せてある。
そして、規格外故にドロップするアイテムが同一なのかも分からなかった。
「身体強化なら僕が使ってもいい?」
名前の後ろに「LV.」が付いたスキルは今後も同一系統の魔石でレベルを上げる事が出来る。
スキルの最大所持数は10で基本的に変更は出来ないのだが、シンプルかつ強力なスキルなので持っていて損は無いだろう。
「玲、今のレベルは?」
「待ってね……24だってさ!ミノタウルだけで4つも上がっちゃったよ!!」
「それなら25で貰えるスキルを見てからだな」
スキルの取得方法は二つ。
魔石を取り込んで覚える方法と、25の倍数レベルで自然に授かる方法だ。
どちらも一長一短で、前者に関しては魔石を集める手間が掛かり、序盤では約に立たない物もある。その代わりに好みのスキルを覚える事が出来るのだ。
後者はどういった仕組みなのか、自分の特性や戦法に合わせて幾つかの選択肢が上がり、そこから選択する事が出来る。レベルを上げる事こそ出来ないものの魔石を用意する必要が無く、取得した時点から有用なスキルであるという違いがった。
因みに鋼は攻撃、防御、補助スキルとのシナジーが無いので、覚えられるスキルは特殊系か技能系のみである。そして、彼が現在所有しているスキルは二つ。
一つ目は『ヴォイド』意味は空白だとか欠落だとか欠陥だとか。名前と同じく効果は存在せず、スキル容量を圧迫するだけの存在だ。他の選択肢がデメリットを持つスキルだったので仕方が無く選んだに過ぎない。
二つ目は『讖■■■莉墓■縺■■逾』
これに関してはしっかりと効果がある。ただし、スキル名と同様に文字化けしていて読めないのだが!!!
ヴォイドに効果が無いのは許そう。すでに諦めた事だ。
それに、この文字化けスキルと比べれば効果が分かっているだけありがたい。
最悪なのは、知らず知らずの内に何かしらのデメリットを受けているパターンや、タイムリミットが設けられており、唐突に代償を要求されるパターンである。
とは言っても、どんな効果であろうがそれを知る由は無いのだが。
二つ目の魔石を回収して赤くなった腕をタオルで拭くと、鋼は休憩する二人の方へと歩いていく。玲がLv.24ならば美波にはスキルの提示されているだろう。そう考えての事だ。
「お、丁度ええところで来たやん」
姫子松はそう言って、鋼に招き猫と同じジェスチャーを送る。
「美波の故障は直ったのか?」
「修理しといた」
「あんな事、二度とやりたく無いわ」
「じゃあ次回は筋力のステータスが一番高い毬にやらせないとな……冗談だ」
睨まれた鋼は咳ばらいを一つ。
その場の雰囲気を何とか元に戻すことに成功した。
「スキルについてだろ?選択肢は何があったんだ?」
「とにかく見いや、よう分からん状態になっとんねん」
美波から許可を貰ってステータスウィンドウを覗き込むと、そこには確かに
【『妖刀召喚』を習得しました】
というポップが表示されている。つまりは、事後報告であった。
「もう選んでるじゃねぇか」
「何もしてないわよ、開いた時からこうだったの」
「お前は機械に弱い老人か。何もしていないのにスキルを習得するわけ無いだろ」
「いや、ほんまやで?ウチも見とったから」
「へぇー、じゃあ美波に与えられた選択肢が一つだけだったんだろ」
選択肢が与えられるとは言っても、その数は人によってまちまちである。
5個も6個も選べる奴が居れば、二択の人間もいる。
ならば、一択の人間が居てもおかしくは無いだろう。
鋼も実質の所は一択だったのだ。
「それにしても妖刀召喚か」
「なにか知っているのかしら」
「いや全然。不吉な名前だなと思っただけで聞いたことも無い」
「誰かこいつを摘まみ出せ。解雇や」
「まぁ待て、今までに確認されていない新スキルの可能性もあるだろ?特に美波は珍しい種族同士のハーフなんだ。俺が無知だと決めつけるのは早計過ぎる」
「それで、スキルの効果は何なのかな?」
鋼の横から突然玲の顔が現れた。彼女は今の今まで魔石と共に休憩していた筈なのだが、花火に焼かれる夏の夜の蛾の如く楽しげな雰囲気に吸い寄せられたのだろう。
美波はポップを閉じると、ステータスウィンドウからスキルを選んでタップした。
【妖刀召喚】
『詠唱』0秒 『クールタイム』0秒
封印されし妖刀を召喚する。
妖刀の封印は条件を達成する毎に解かれるだろう。
「えっと、封印……ってさ、解いて良いんだっけ?」
「意味も無く雰囲気で封印されているならな。だが物事には全て理由がある。対象が妖刀ならばそれ自体が呪物か。もしくは穢れなり、禍根なり、災厄なり、邪神なんかの禁忌を共に封じているか。いずれにしても碌な物じゃ無いだろう」
「とりあえず使うてみたら?鬼が出ても邪が出ても、攻略済みのボス部屋なら魔方陣で逃げれるやろ」
美波は毬の言葉に納得して頷くと、3人を見渡してからスキルを行使した。
◇
【設?ケ■■險ュ螳■コー■■】
それは厭■辟。蜆溘?■■悲■辟。諢帙縺ッ辟■■罪
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