大先輩のありがたーい助言

1


「まぁ、こんなもんか」


 家に帰った鋼は家族共用のパソコンを前で満足げに頷いた。

 たった今、編集した動画 Your Shock に投稿したのだ。


 使えそうな部分を切り貼りして字幕や補足を入れただけの簡易的な動画だが、それでもかなりの時間を要してしまった。

 

「何がこんなものなのかな?」

「おい……酒臭いぞ」


 横からズイっと顔を覗かせる沙雪に、鋼はそう吐き捨てる。


「ひ、酷いよ!お姉ちゃんだって飲みたくて飲んだわけじゃないのに!」

「分かったから肩を揺らすなよ……もしかして見合いに行ってきたのか?」


 そう。彼女は、乗り気になってしまった久遠にどうしてもとお願いされてヴァンパイアとのコンパを、一度は断ったコンパを再度セッティングしたのだ。


「良く分かったわね?」


 鋼は先日交わした久遠との会話を思い出して答えたが、沙雪はその会話が筒抜けだとは思っていなかった。


「それで、いい男はひっかけれたのか?」


 沙雪は両手をヒラヒラと動かし、おどけて見せる。


「やー駄目だね。ヴァンパイア族はみんなプライドが高くてさぁ」


 ドラキュラという種族は、世界各国の文献で生娘の贄を要求するところからも分かる通り、生粋の処女厨童貞厨で有名だ。


 彼らの特徴は三つ。


「じゃあ久遠先生はどうだったんだ?一緒だったろ?」


 一つは容姿が優れているという事。

 二つは同じく清純厨のユニコーンと仲が良いという事。


「文芽ちゃんは200歳超えてる上に酒豪だから、血がドロドロでマズそうって……」


 三つ目は、異性の血を好んで飲みたがる血液嗜好症だという事。

 勿論選り好みもする。


「俺、涙出て来たよ。流れ落ちて止まんねぇよ」


 久遠はヴァンパイアのお眼鏡に叶わなかった。

 それは事実だが、血がドロドロ云々は沙雪とヴァンパイアの勝手な想像だ。


 エルフ族が長寿な理由は体細胞全てが分化全能性とテロメアーゼを持っている事に起因する。

 故に彼女等の血や肉そして肌は常に若々しいままなのだが、エルフ族が他の種族との交流を持ちたがらない事でその生態は未だ明るみになっていなかった。


「学校で落ち込んでいる文芽ちゃんを見つけても慰めちゃだめだからね?」

「あぁ、先生に止めを刺してしまうかもしれないからな」

「そうじゃなくて、今なら優しくしただけでコロっと落ちちゃうと思うから」

「姉貴はもうちょっと俺以外にも優しく出来るようになろうな」


 200歳も生きておいてコロッと落ちる方も悪いが、それにしてももう少し配慮を覚えた方が良いのではないだろうか。


「それでさっきの話だけど……こんなものが何かって言っていたじゃない?」

「あぁ、俺がマネージャーをやってる最女の動画だよ。編集が終わったから投稿しようと思って」


「エッチなのは駄目だよ!」

「おいやめろ、俺が女の体で金を稼ぐクズ男みたいになるだろ」

「違うの?」


 そう聞かれた鋼は少しだけ考えると、弱々しく返事をした。


「違わい」


 女の体で金を稼ぐというのも、広義に解釈すれば間違ってはいない。

 だから強くは否定できなかったのだ。


「それよりさ、姉貴から見てこいつらどう?」


 鋼はそう言って、PCの画面を沙雪に見せた。

 そこには、今日行ったダンジョンでの動画が映っている


「コウ君、面食いだったんだ」


 彼女は画面に映る亜人美少女たちを眺め、弟も隅には置けないと唸りを上げる。


「何を勘違いしているのか知らんが、性能の話だぞ」

「鬼の子は良いお母さんに、赤い子は良い奥さんに、白い子はどちらも頼りないけど楽しい家庭が築けそうかな」

「酔っぱらいは早く寝ろ」


 尚も間違い続ける沙雪は、肩を押されて大きくよろめいた。


「あーん、冗談じゃないの」


 レベルとステータスの差を考えれば、それが明らかな演技だと分かるだろう。


「で、率直な感想は?」

「向いてる事とやってる事がチグハグかな」


「やっぱりそう思うか」

「でも前にテレビで見た時よりは良くなってると思うよ」


 沙雪は先ほど言われた「俺以外にも優しく」というセリフを思い出して、そう付け足した。


「じゃあ何が足りない?ステータスとかレベルじゃなくて」

「実戦値?」

「以外で」

「素直に職業を変えさせたいって言いなさいよ」


 ステータスセンスでも、レベル努力でも、実践知経験でもなければ、残るは職業育成方針しかない。


 理由が有るのか無いのか。

 そんな回りくどい質問をする弟に、姉は楽しそうに質問する。 


「コウ君はどう思ってるの?」

「まず玲……コーライクイネの亜人だが、こいつは前衛に向いていない」

 

 鋼はそう言って、彼女等のステータスが記載されたメモ帳を沙雪に渡した。


「第六の狼ちゃんを倒してたじゃない」

「敵が舐めていたからな」


 そんな"デレ行動"を取るのは三流まで。強敵との戦闘を、舐めプを前提に実戦値を測っても仕方が無いだろう。


 そんな事を考えていた鋼の横で、沙雪はポツリと呟いた。


「……なんだか赤い子を過剰に守っているような」

「後衛を守るのは前衛の仕事だろ?」


 後衛、特に魔法使いはダメージディーラーとして重要な役割を担っている。


 それを欠いては、味方も攻撃しづらくなる上に敵も前衛の突破が容易になる為、パーティーは後衛を守らなければいけない。というセオリーがあった。


「人間が何かを守ろうとした時に取る行動は、大きく分けて二つよ」

「盾になるか、囮になるか」

「花丸満点!チューしてあげよっか?」


 鋼は酒の匂いを漂わせる沙雪を押しのけて言葉をつづける。


「インプレグナブルはともかく、玲自身はそのどちらもしていない」


 例えば、戦争のときに玲が行っていた立ち回りは酷く不自然だった。

 

 敵の前衛から守る為に姫子松の前へ立つ訳でも、相手を引き付ける為に敵陣地へ切り込む訳でもない。

 付かず、離れず、常に一定の距離を保ちながら、姫子松に危険が及びそうな時だけカバーに入る。


 初心者だから?経験値が足りないから?しかし、そう切り捨てるには余りにも


「敵後衛の攻撃は的確に防いでるのよねぇ」


 つまりこれは意図的な立ち回り。

 素人が何をして良いか分からずにふら付いている訳ではないのだ。


「……誰かを守るのに慣れ過ぎている?だが、それは問題なのか?」


 確かに特殊な立ち回りだが、彼には沙雪がそんな事を特別に重要視する理由が分からなかった。

 鋼の常識では、後衛を守れているのならそれで問題は無いのだ。


 ……しかしこれは、彼自身の掲げていた「強敵との対戦を見据えた育成」とは最もかけ離れた思想である。


「うーん」

「いや、うーんじゃなくて」

「おねえちゃんもよくわかんない!!」


 沙雪はアホの振りをして立ち上がると、いつの間にか持っていたアイスを片手に鋼から離れる。


「大事なところは教えてくれないのかよ」

「コウ君なら直ぐに分かるわよ。それと、鬼の子に関してはいい案があるから、お姉ちゃんに任せておきなさい」

「おぉ、助かる……毬。赤いのは?」


「メモを見たら分かるわよ、その子の場所だけ何も書かれていないじゃない」


 彼女はそう言って意地悪な笑みを浮かべると、ご機嫌にアイスへ齧り付いたままリビングから出て行ってしまった。




【ガバ解説】


 やぁみんな、僕だ。作者だ。

 今日はバチクソ文系な僕が、今話に出て来た科学用語の解説をするよ。


 本当は榊原さんにお願いしたかったんだけど、断られちゃったからね。

 残念だが僕で我慢したまえ。(メガネ クイッ)



 先ずは『分化全能性』これは簡単だ。

 IPS細胞とか受精卵とかが持つ、どんな細胞にでもなれる能力の事だね。


 この能力を全ての体細胞が持っているとどうなるか?

 ……知らん。エルフに聞け。


 四肢とか歯が無くなっても再生するんじゃない?知らんけど。

 死んだ毛根とか死んだ目とかも復活するんじゃない?分らんけど。


 まぁ、それは魔法でも出来るんだけどね。『「Lv.0 損害賠償」参照)』



 はいじゃあ次『テロメラーゼ』これはちょっぴり難しいぞ。


 これを説明するために、まずはテロメアについて語ろう。

 細胞を回復させる回数券!!以上!!!(力技)


 テロメラーゼは、その回数券を配っている人だ。オーケイ?


 つまり、エルフは死なない限り死なないんですね!!!凄い!!!


 はいそこ、癌細胞が~とか面倒くさいこと言わない。

 癌が出来たら引き千切るんだよ。エルフは蛮族なんだよ。


 はいそこ、テロメアが無限に復活するならエルフに寿命は無いの?地球最後の日まで生き続けるの?とか言わない。

 僕の知ったこっちゃねぇんだよ!!!(理不尽)


 アポートシスとかが働いて勝手に死ぬんだよ。

 多分、作品の中でも寿命は千年くらいって言ったし。言ったよね?

 言ってたわ『「Lv.0 閑話誰かの通話履歴」参照』


 そこらへんで死ぬようにプログラムされてんだよ。


 あ?アポトーシス?文系に聞くな!!!

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