賠償請求

1


『審判魔法が判定を下しました!結果は……あ、相打ち⁉』


 川路が査定を読み上げると、観客席にいた生徒たちから大きな歓声が上がる。


 それは同級生による絶賛の声であり、上級生による賞賛の意であり、そしてギャンブラーによる銷魂の嘆きでもあった。


 特に、第六が勝つと思って大金を掛けていた勝ち馬ジョッキー達からは甚く沈痛な声が上がっている。


 もしも彼らが近くにいたのなら、上手なデスボイスを聞く事ができただろう。


 そんな取るに足らない事を考えていると、なにやら小部屋のような場所に連れてこられてしまった。


 ここで取り調べを受けるのだろうか。

 まぁ、今になってみれば確かに迷惑を掛けてしまったと思ってはいるが、別に怪しい薬とかはやっていませんよ?


 俺を引っ張り廻していた熊の亜人が扉を開けると、部屋の中には久遠先生が居た。


 あー、なるほど。取調室じゃなくて迷子センターでしたか。


「君の声援はここまで聞こえたぞ!黒歴史確定だな!!」


 彼女は俺を見るや否や吹き出すと、目じりに涙をためながら指をさしてくる。


「そうですね、今日の夜にでも布団の中で悶える事になると思います」


 しかし現時点では気持ちが高ぶりすぎて大したダメージは受けていない。というかダメージを受けている事に気が付いていない。


「それで、どうして俺はここへ連れてこられたんですかね?」


 うるさいから。という答えでは実況のいる部屋へ連れてこられた説明がつかないだろう。そう思ってクマの亜人に質問を投げかけるも、彼は静かに見回りへと帰ってしまった。


「私が呼んだのだよ。どうせ放っておいたらこのまま帰っていたのだろう?」


 いや、帰るだろ。

 それとも何だ。彼女等の戦闘に感化されて闘技場で暴れまわっている連中の中に投げ込もうとしているのか?


「まあなんだ、結局君の紹介は奥見に任せてしまったし、一度私からも話しておかなければと思っただけだよ」


 俺としてはこのままフェードアウトでもよかったんですけど。


「あ、あの、私が居たら邪魔よね。もしも後の、機材持ち運びとかそういう事務作業を変わってくれるなら今すぐ出ていくけど?」

「悪いがそうしてくれ」

 

 川路は久遠先生がそう言って頷いたのを確認すると、猫科亜人特有の素早い動きで部屋を出て闘技場へと飛び込んだ。


「うわっ、なんやあれ」


 彼女の背中を眺めたままの姿勢でいると、川路と入れ違いでやってきた第七の最女三人衆が部屋に入ってきた。


 既にピンピンとしている様子から、医療魔法使いの治癒を受けた後なのだろう。

 

 俺は彼女等の無事を確かめると、腰を90度近くまで折って頭を下げた。

 

「ごめんなさい。第七の最女がなす術もなく負けると思って、それを見たくなくて、逃げてしまいました」


 そして暫くの間、部屋の中には耳が痛くなる程の沈黙が広がった。


 数分か、数時間か、もしくは数秒か。時間の感覚さえ曖昧になって来たとき、俺の額から一滴の汗が頬を伝った。それが地面に落ちると同時、


「駄目だ駄目だッ!!許さんぞ!!!」


 闘技場が震えた。


 それが事実か俺の錯覚だったかは分からない。

 但し、口火を切った久遠先生が止まることはなかった。


「君を侮辱罪とメンヘラ罪で訴える!理由は勿論わかっているな?」

「いや、ちょっとあの」


 待て、なんでメンヘラみたいになった事を知ってるんだこの教師は。


「お前が皆を信じずにトイレだといって逃げた挙句、信頼を壊したからだ!」

「罪状それであってるん?」


 堪らず姫子松が突っ込みを入れると、久遠先生は不思議そうな顔で首をかしげた。


「知る訳ないだろう。私は当事者ではないのだぞ」

「なんで口を挟んだんや……」

「天がやれって言ったから」


 責任能力が無いと思われようとしてません?


「まぁなんだ。ここにいる誰も謝罪は求めていないんだよ。というか、頭を下げられている理由すら分かっていないと思うがね」

「えっと、とりあえずトイレは嘘だったの?」

「嘘じゃありません」

「こいつ時計台でココアを飲みながら黄昏てたぞ」

「ごめんなさい」


 どうした、直ぐにばれる嘘をついた俺を笑えばいいじゃないか。

 笑えよ!笑ってくれよ!


「つまり、あの時出て行ったのは逃げた訳やったんや」


 その時、姫子松の目が怪しく光った。


「謝っているっていうことは、罰を受ける覚悟があるんやんな?」


 ありません。俺はその言葉を飲み込んで、ただ、頷いた。

 さすがにこの状況で逃げるわけにはいかない。


「判決、有罪!コウを無償労働の刑に処す!」

「えぇーっと」


 無償労働というのはつまり奴隷になれという事だろうか。俺がそう考えていると、レイは困った顔で言葉を付け足した。


「僕達のマネージャーになって欲しいっていう事さ。本当は罪とかじゃなくて此処へ来るまでに話は纏まっていたんだけどね。それより突然謝られてびっくりしたよ」

「纏まったというよりレイの熱烈な勧誘に私達が折れた形なのだけれど」


 ほぉ、レイが、へぇ、あらまぁ。


「自分もそれはいい考えやって言ってた癖して」


 榊原さんもでしたか。

 てっきり嫌われていると思っていたのだが、いったいどのタイミングで心変わりしたのか教えてほしいものである。


「記憶の捏造をする悪い口はこれかしら?」


 そう言った榊原が姫子松の口端を外側へ引っ張るもしかし、彼女は目に涙を貯めながら、猶も食い下がっていた。


「それで、どうするんだい?」


 そんなものは見慣れた光景なのか、レイは気にした様子もなく俺に問う。


「し、仕方ねぇなぁ。刑に処されたなら拒否権なんてないしなぁ」


 理由はどうであれ、俺の事をトランスジェンダーだと思っているにしろ、それでも求められることに関して悪い気はしなかった。


「盛り上がっているところ悪いが、お前らの部には戦争管理委員から賠償の請求書が届いているぞ」

『え?』


 扉の近くで何やらやり取りをしていた久遠先生は、俺たちに向かって一枚の紙を差し出した。


「弱肉強食のこの学園で引き分けは許されなかったという事だ。この場合は両陣営の敗北となるらしい」


 その紙にはこう記載されていた。

 一月の謹慎と半年間の戦争禁止。

 並びに学園への賠償金支払いと土地の返却を求める。


「待ってください、私たちの所有する土地は23番グラウンドだけです」


 榊原が突っかかるも、しかし、久遠先生は動じない。


「知らんのか?活動許可を得た土地を持たない部は……」


 そして、最後の審判を下すように感情のない声で告げる。


「廃部だ」


 その後も先生は自分の賭けがどうのと話していたが、それが俺たちの耳に入る事はなかった。


 どうやら俺は、沈みゆく泥船に乗り込んでしまったらしい―――



―――『LV.0』終―――



 エピローグ


 まずはここまでのご閲読お疲れさまでした。そして、ありがとうございます。

 

 ここまでが『Lv.0プロローグ』となります。主人公と仲間の出会いと本筋までの前日譚とか、まぁ、そんな感じですね。


 というわけでここまでお読み頂いた皆様におねだりおば……


 ブックマークと評価をお恵みください!!

 何卒!!何卒ぉぉぁ!!!


 あっ(豹変)言い忘れておりましたがここまで書き貯めるのに二週間位かかっています。そうです、遅筆なんです。

 段々と慣れてきてはいますが、何分書きたいことが多すぎるのですよ……


 ですがご心配なく!

 構想はしっかりとあります!! 頭の中に

 ネタも蓄えてあります!! 頭の中に

 

 次章は主人公がお金を稼ぐためヒロイン笑)達にカメラを向けてあんなことやこんなことをしたり。ダンジョンにも行って貰いたいですし、ギルドとかも…いえ、断言は怖いですね。


 次回がどうなるか!?それは作者にもわからない!!

 何故ならプロットがないから!!!


 とりあえず現状で決まっている事は――夢と希望と愛と友情と、あとなんか夢とかいい感じのあれやそれが盛り沢山の話になることだけ―――ッ!!

 

 全てがスピードアップする次章『Lv.1 こんなはずじゃなかった下働き編』

 待て続報!!


 あと星を下さい。まじでお願いします。

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