隠れアイドルをしている地味委員長ですが、秘密がクラスメイトにバレたようです

藤咲ひかり

隠れアイドルをしている地味委員長ですが、秘密がクラスメイトにバレたようです

 放課後の人気ひとけのない教室で私、柏木かしわぎ ゆきは、クラスのカースト上位の生徒であるくすのき 綾乃あやのさんに詰め寄られていた。

そして私は今、とてもピンチにおちいっていた。


「ねえ、あの人気アイドルのユキってあれ、あんたのことでしょ」

「え?」


そう言いながら楠さんは私とマネージャーが事務所から出てくるところがうつった写真を見せてきた。

撮られていることに全く気が付いていなかった私は思わず驚いてしまった。

楠さんの言う通り、私は中学生のときに今の事務所からスカウトされてそれ以来アイドルのユキとして活動している。

私はアイドルとして活動しているけれど普段は自分がユキであることがバレないように長く伸ばした前髪で目元を隠して、さらにメガネをかけることでアイドルのユキの印象からかけ離れた地味な姿で日々を過ごしている。

普段のアイドル姿とはかけ離れた姿をしているから、私がユキであることがバレることなどないはずだったのに…。


「初めは雑誌の特集の表紙でユキがメガネをかけた写真が掲載されてて、何となく既視感があったのよ」

「既視感ですか?」


確かに先月、雑誌で秋コーデ特集の表紙に私の写真を載せてもらう機会があってそこでメガネをかけたコーデをしたけれど、まさかメガネをかけたくらいで私がユキであるなんてわかる人がいるなんているわけがないと思っていた。

だから特に何も考えずにいたのに……。


「それにこの間ユキがテレビ出演したとき、ユキが話した自分の学校の学園祭の内容がうちの学校の学園祭の特徴とくちょうと激似だったから、もしかしたらうちの学校の生徒なのかもって思ったわけ」

「そ それだけでアイドルのユキさんと私が同一人物だってことにはならないじゃないですか?」

「確かにこれだけじゃね、でも知り合いからこの写真が送られてきたときにユキはあんただって確信したのよ」


私は楠さんに少しでも誤魔化せないかと反論した。

けれど楠さんは確信を持ったような表情でもう一度私に写真を見せてきた。

その写真に写っている私はメガネはしていないけれど前髪を目が隠れるくらいにおろした姿をしていた。

その姿はアイドルのユキではなく学校でしている地味な柏木 雪の姿だった。


「それに自分の好きな人のことぐらいわかるっての」

「え?」

「自分の推しぐらい見分けられるっての!」

「え? お、推し?」


楠さんは私のことを、アイドルのユキを推してくれているということらしい。

つまり、ファンだから気づいたってことなの?


「それにしてもクラスの真面目な委員長が実は大人気アイドルだったなんて他の生徒たちに知られたらどうなっちゃうのかなー?」

「っ! お願いします! それだけは!」


楠さんは目を細めて楽しそうにそう言った。

もしそんなことになってしまったら絶対に大変なことになってしまう。

それだけは避けないとと思い、私は必死に懇願こんがんした。

なによりそんなことをされては私だけでなく事務所にまで迷惑がかかってしまう。


「お願いします!なんでもします! だからっ!」

「へー なんでもするんだ?」

「あっ」


咄嗟とっさに私は自分の口を手でおおったがもう遅かった。

私は自分のポンコツっぶりを恨んだ。

必死に懇願こんがんするあまり思わずそんな言葉が出てしまった。

橘さんからしたら恰好のエサが目の前にぶら下がっているようなもの。

きっと酷い要求をされるに決まっている。

もしものときはアイドル活動をやめなくてはならなくなるかもしれない。

せっかく今まで頑張って来たのにそれだけは絶対に嫌だった。

そんなことを考え、私はこらえるように目をきゅっと閉じた。


「ちょ、ちょっと! 冗談だからそんなに怖がらないでって」

「お願いします! どうかネットに書き込むのだけはやめてください!」

「いや、推しにそんなひどいことやらないから!」

「じゃ、じゃあ一体なにを……」


私がそう尋ねると橘さんはなんだかとても言いずらそうに頬をかくと先程までよりも小さな声で呟いた。


「じゃあ、私と付き合ってよ」

「へ?」


あまりにも予想外の楠さんの言葉に私は思わず呆けた声を出してしまった。

楠さんの言葉が頭の中でなんども繰り返されていき、その言葉を理解した途端に私の顔は思わずだんだん熱くなっていった。


「な、なにを言って! どうしてあなたと……というかそもそも女の子同士でそんなの!」

「へー、そんなこと言っていいんだ?」

「うっ!」


つい突然の告白で驚いて反論してしまった。

でも正直、なんで楠さんがそんな要求をしてきたのかわからない。

それでも私が了承するだけで事務所の皆さんに迷惑がかからないのなら…。


「わ、わかりました。あなたと付き合います。だから私がアイドルのユキだということはお願いですから誰にも言わないでください」


「ふーん、てかアイドル活動のことは認めるんだ?」

「もうあなたはおおよその検討もついているようですし、それならもう誤魔化し切れないでしょう?」


私がそう言うと楠さんはなんだかとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「じゃあ、これからよろしくね! 私の彼女さん」


そう言った楠さんの嬉しそうな笑顔をなんでそんなにも嬉しそうなのかと不思議に思いながらも私はなんだかその笑顔がとても眩しく感じたのだった。


「あ、ちなみに勘違いしてるのかもしれないけど、あんたのことはマジで好きだから」

「そ、そうですか……」


私が橘さんの笑顔を眺めていると、突然私との距離を詰めたかと思うと真剣な顔で目を見ながらはっきりと言われた。


「まあ、信じてないならこれから骨抜きにしていくだけだから、覚悟しといてね」


そのわずか二週間後、宣言通りすっかり綾乃に骨抜きにされた雪は綾乃にゾッコンのラブラブのカップルになっているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隠れアイドルをしている地味委員長ですが、秘密がクラスメイトにバレたようです 藤咲ひかり @FujinoHikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ