第三夜

起きると、時刻は8:39。


今日で終わりか。…今、「死」のリアルは感じない。昨日、薬をちゃんと飲んだからか。


ゆっくり起きて、変に着替えもせずに廊下に出た。


まぁ、死ぬならこれでもいっか。


ゆっくり歩いて、ホールに着く。


そして。


『みんな、おっはよ〜、メメはちょー元気だけど、みんなはどー?』


…そんなメメのハイテンションにはついていけない。


『さてさて、コメントも…』


と、一瞬メメの声が、息が。吸われた。


俺は異変に気がつき、画面を見る。すると。


【祝!廃狂メニキ生きてた!!】

【はいくるめにきー!死なないでねー】

【はいくニキだ!絶対死なせるなよ、メメのリスナーははいくニキのリスナーでもあるんだから!】


『おめでとう。クルメオトハ。いや、私の最古参。くるめニキ。ここにいたんだね…』


何が起きたのか。理解はできなかったが。感覚はあった。


俺は死なないのかも…?


「な、何が起きたのか説明してよ!」


いつも場を乱す伊藤桜子。今回は何か動揺した様子。


『…これを見てくれるかな?』


画面に映し出されたのは、一つのアカウントの投稿。そのアカウント名は…


俺がメメの配信を追っかけていた、廃狂ハイクルメと言う名前のアカウント。俺のアカウントだ。


内容はこう。


『私はリアリティーデスゲームショーの参加者“クルメオトハ”です。私が由良木メメの配信を乗っ取った悪人です』


と、投稿してあった。


だが。


【はいくニキは一番最初に、乗っ取りに気づいてコメントした人間だから投稿が嘘だと】

【そう、俺ら他のリスナーが全然、1時間も気づかなかったのに】

【やっぱ、ガチ勢は違うな】


などなど、コメントが流れていくが。


「待って、だとしたら、乙葉が犯人の可能性もあるんじゃないの?」


『…続けて?』


「…乙葉が、乗っ取りの犯人だったから、一番最初に気づいたんじゃ…」


【そんなことして何になるの?】

【意味なさすぎワロス】

【はいくニキはそんなことしない!(大声)】


と、すっぱり切るコメントが。


『だ、そうだよー、さて。今日も全員いるし、朝のホームルームはおしまい。今日の投票は遅めにしようか。』


と、メメは言った。


『あ、そうだ、オトハ君。』

「え?」

『君が私のガチ恋勢なのは知ってるけど…それでもこのゲームで贔屓ひいきはしないから。死ぬ時は美しく死んでね?』

「…仰せのままに?」

『ふふ。よろしい』


と、配信は切れた。


周囲に静寂が走る。


1人が死ななかった。目をつけられてなお。


それは、羨望という標的になる。


 *


皆さんは、ドッジボールという、スポーツを知っているだろうか。


そう。二つのチームに分かれて、ボールを投げ合い、当たったら、外野。

内野が最後まで残っていたチームの勝ちである。


『ということで、デスゲームショー内、レクリエーション!!』


【いえーい】

【どんどんぱふぱふ】

【さっさと投票させろーー】


「なんでこんなことに…」


『企画係の提案でね、体を動かさないと、学生は健康的な体にならないということで、ドッジボールをやりたいと思います!!』


企画係。そいつが誰なのか。

予想はつく。俺と一緒にこの体育館を見た、加那音。もしくは、それを広めていって、そのどこかで企画係に当たったか。


まぁいい。兎にも角にも、ドッジボールをしよう。


『あ、リスナーはこの時間、スパチャができるから、逆競ドッジボールができるよっ』


”逆競ドッジボール“この世界には、こんな言葉はない。メメは何を考えているのか。


『とりあえず、チームを決めよう。配布係〜』


と、謎の係が呼ばれて。

加那音が行った。


じゃ、企画係は別の人か。


配布係は、割り箸を28本持ってきて。

一人一人引いた。


2チームに分かれるので。

14対14か。


「あの…いいですか」

『ん?なに?』

「運動はドクターストップかかってるんですけど…」

『あ〜…なるほどね。じゃ、抜けてもいいよ。他にもできないかもって人は抜けてもいいよ。』


そして。

叢雨むらさめまみ、まゆずみ沙都子さとこ伊藤いとう桜子さくらこ織田川おたがわ美琴みことが、そこから抜けた。


と言うことは、12対12だ。


俺は割り箸の色を見る。色は青だった。


青チームなのは。

梅津うめつ浩平こうへい椚丘くぬぎおかしょう佐藤さとうなつめ、水橋みずはしみやび尾根崎おねざき山邊やまべ雪弥ゆきや雹駕ひょうが出雲いずも紗凪さなじん久弥きゅうやにのまえ響子きょうこ夜星よぼし龍斗りゅうと我妻わがつま加那音かなね。そして俺の12人。


対する赤チームは。

相蘇あいそりん加藤かとうそそぎ朱鷺とき紅葉もみじ葉山はやまおろしわたり瑛人えいと茅野かやのむすび河井かわい遼兎りょうと火乃香ほのかゆい百合ゆり鏡華きょうか流郷りゅうごう櫻子さくらこ六条ろくじょう藤花とうか若草わかくさ詩音しおん


なんという分け方だ!


『外野は2人ねー』


と言うので、外野を決める。


「外野、やりたい人いる?」


と、そこでぴったり2人が手を挙げた。


「出雲さんと、久弥さんの2人でいい?」


と、全員が頷いたところで。


『それじゃ、負けた側の罰ゲームを発表します!』


…罰、ゲーム?


まさか。今半分の人数を減らすっていう…


『今日の昼ごはんを作ってもらいます!』


え?


『いや、こうじゃなくてもいいかな…3日ぐらい、昼ごはんの当番とします!』


え、えー…

割とやる気が出ないライン。


【弱くね?】

【あのさぁ…】

【なんかこう…もっとないの?】


『じゃ、リスナー考えてよっ!』


出た。安定の丸投げ。


と、そこにいいものがあったのか。


『お、いいじゃん、”負けたら1人ずつ、何かを披露する“って。』

「…具体的に何を?」

『何を…まぁ、過去の恥ずかしいエピソードとか。一発ギャグとか。面白ければなんでもOK!』


そして、まぁ。なんやかんやあって。


『はい、青チームの圧勝〜!』


【あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ俺の5万が!!!!】

【勝った!!第三部完!!】

【いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ】


予想もしなかった。まさか、出雲さんが、こんなにガチになってドッジボールをするなんて。意外なところにギャップってのがあるんすねぇ。


『ということで、罰ゲームは赤チームでーす』


【いえーい】

【早くやれ!早くやれ!】

【どんな面白いものが出てくるのかな?】


初手は、加藤だった。

俺は手招きされて。紙を渡されて。

この通りにしろと。


ということで、俺から喋る。


「すみませーん、処方箋もらいたいんですけど…」

「あー、もう今日は終わったんですよね」

「もっと具体的かつ簡潔に言うと?」

「”処方箋“の”処方せん“」


…あたりにはさむーい空気が流れたのは言うまでもない。


【…】

【なんか寒くなってきた?】

【今年の冬はかなり早いなぁ】


と、コメントでも言われる始末だった。


他の人もやったにはやったが。


覚えているのは、唯のだけだ。


「えっと…まぁ特にないんですけど。あ、ここに連れてこられてから、キャリーケースが誰かさんと入れ違ってたってことがあったんですよね。その誰かさんは私のキャリーケースの中のパンツを見たらしくて〜」


と、饒舌に話していた。


俺は、下を向くしかなかった。

これのせいで他が聞けなかったのだ。


 *


昼ごはんを食べてから、少々雑談をしようと思ったが。俺を露骨に避ける奴は増えた。


「ところで、何だけどさ。」


つまり、俺の話を聞く奴はごく少数になった。


「…なに?」


今は美琴が聞いてくれるくらいだ。


「先生ってさ、今日何で来てないんだろうな」

「…知らないけど…『監督』ってのがそういうもんなんじゃないの?」

「だよなー」


とここで。俺らが溜まり場になっている部屋の、空き教室の扉が思いっきり開かれた。


「集まって。裁判よ」


そう、相蘇凛が言った。


ホールに行くと、みんなが集まっており。

そこには、首を吊られた、秋山あきやま秀斗しゅうと先生がいた。


「へ…?」


「さっき、先生のポケットからカードキーをとった。そこの裏面に。」


『とある係の指名により、死刑となりました。』


「…とあったわ。さて、誰がやったのかしら!?」


とは言っても。証拠も何もない。勝手に殺されて、口無しになってしまった。


こういう表現すると、死人は口無しになってしまうな。“死人に口無し”だから。


「というか、今までの死んでった奴らの係ってわかるのか?」

「…えぇ。わかるわ。」


彼女は六条ろくじょう藤花とうか


「私の係は収集係。処刑された人のカードキーはまず私のところにくるわ。他の要因で死んでしまったら私のところにはこない。だから、先生は誰かの仕業で死んだの。」


「…兎にも角にも、死んでった奴らの係は何だったか聞きたい。」

「あなた、嫌に冷徹なのね。」


それは俺も思っている。なんでこんなに冷静なのだろうか。


赤銅あかがね大翔ひろと

彼は、カードキーには何も書いていなかったという。まぁ、ゲームが始まる前の段階だと思うから、何もないもの不思議じゃない。


草茅くさがや菊田きくた

彼のカードキーには、【流通者】と書かれていた。


『小部屋にいる間、何か一つの情報をゲームの運営に流すこと』


一つ、思い出した。昨日のメメがカップルを言っている時。全部あっていたし、何なら俺が知らないのもあった。


…先生が渡したとも限らない。


だから、これでカップルを知っている謎が解けた気がする。


「…先生の係って、『監督』であってんのか?」

「えぇ、あってるわね。」


『【監督】あなただけホールにいられる時間が4時間と決まっています。また、あなたが死んだ時、裁判が行われます。』


「え?」

「だから、今から裁判が行われるわ。」


と、六条さんははっきりと言った。


『はいはーい、皆の衆、こんにちわ、だねっ?』


由良木メメが映し出される。


『今回の裁判はー、監督の死後だね。じゃ、裁判長、ガベルを叩いて〜』


と、カンカンと謎のハンマーみたいなやつを叩く、尾根崎山邊。お前が裁判長かよ。


「まず、被害者が亡くなった時の状況を整理します。第一発見者及び、部屋捜索した方たち、どうぞ。」


そして、六条藤花、梅津浩平、椚丘聖が、裁判長の前に並んだ。


「え、っと、まず、先生は、先ほどの、えーと、12:23ごろに私がこのホールで中に浮いているのを見つけました。」

「そして。12:44に先生をおろし、カードキーを回収。」

「先ほど、12:51に部屋を探索したところ、遺書というか、最後に書き残した様なものがありました。」


内容はこうだ。


『私は何も残せないかもしれない。だから、外部に連絡できる手段をいくつか残しておく。』


そこには探偵事務所や、弁護士、知り合いの警察などの電話番号や、メールアドレスがあったそうな。


でも、それに連絡できる手段はない。

だって俺らの手元にスマホなんてもの残されていないのだから。


『そして、最後に情報を書いておく。私を殺しにきたのは、チェンソーマンでも、防護服を着た何者でもない。そして』


で、遺書は終わっているらしい。


少しむず痒くて、イライラする。

せめて書くなら最後まで書かせればよかったのに。


いや、書かれるとまずいから殺したのか。


というか。


「首吊りで死んだんじゃないのか?先生って。何で殺しに来たやつとかいう表現を…」


「実際殺しに来たんでしょ。首を締めにね。」


「あぁ。なるほど。理解した。」


ということで、先生の首を絞めに行ったやつを見つけなければならない。


「ということで、一度全員の部屋を見させてもらう。」


と、尾根崎は言った。


「何で?」

「ロープがあるかどうかだ。」

「何でそんなこと」

「必要だからに決まってんだろが!!!」


突然、大きな声を上げる尾根崎山邊。


そういや、こいつ、先生の家の居候だったな。


「何で先生を殺したのかなんて…」

「俺の手で裁く、それ以外に先生の恨みを晴らせない。」


山邊の目つきはガチの目だった。絶対に殺すという様な。

そう。殺し屋のような目をしていた。


『おうおう、感情的だね?山邊君のカードで全ての部屋の鍵を開ける様にしておくね。』


メメも、そう手助けする。


裁判長はわざわざ席をたつ。

「お前らに命令を下す。動くな。」


と、言った瞬間。


真ん中の支柱が空き、防護服を着ている奴が数人。チェンソーを持ったやつも。


そいつらは、山邊の味方をする様に。


山邊は、Bの部屋のある道に消えていった。そこを塞ぐ様に。


防護服のやつはそこに立った。


「あいつ…吞まれたな。」


俺はただそう。思ったが。


「あいつだ!あいつが裏切り者だ‼︎」


桜子は狂った様に言う。


他の奴らも吞まれ始めてきた。


「美琴。ここは何もしないで…」

「…裏切り者は…山邊君ということは、乙葉君を襲ったのは…山邊君!?、山邊君ってゲイだったの!?」

「違うわ!?」

「まさかのBL!?」


近くにいた凛も反応する。やめろ。


「何だよBLって!」

「(B)薔薇が咲く(L)ラブが成立した世界…」

「今の俺には理解ができない!って言うかやめろ!それボーイズラブのはなしだろうーが!!」


そんな中、陽キャは攻める気満々で。


「やめてよ響子!?」

「…やらなきゃやられるんですよ。だったらいつやるっていうんですか!」


響子の手には、BBQの時に使ったであろう、鉄串があった。先っぽはかなり尖っている。


他にも、包丁や、サバイバルナイフを持っている奴がいた。


「おりゃぁぁっー!!!通せやあぁっ!」


瞬間。きーんと音が鳴り。


首の一つを串が貫いた。


その串には。紛れもなく響子の顔があり。


血が当たり前の様に流れている。


その隙に、チェンソーの餌食になっていない奴が、防護服の脇を通り抜けていった。


火乃香唯。


彼女は何をしに通ったのだ!?


くっそ、状況が混乱してきた。


『あらあら。ひっどい状況ね?』

今は聞いても嬉しい声も皮肉にしか聞こえない。


モニターを見ようと、視点を動かした時が、運の尽きだった。


桜子が、カッターを振り回しており。


「今ならっ!」


俺は寸のところで避けたのだが。

後ろにいる美琴に当たる。


「ざけんなっ!」

「ぎゃ!!」


俺は、桜子を吹っ飛ばし、美琴の傷を見る。


左の頬を切られている。


それだけでいいのかもしれない…と思ったが。


カッターは、美琴の脚に刺さっていた。


「え、何で…」


さっき桜子を突き飛ばした時に、桜子はカッターを落としたのか?


「美琴!?みことっ!?」


「あ、あ?あれ」


反応はない。手に巻かれている包帯を脚に巻き、心臓より上の高さに上げる。


「おい、おい!桜子!」


んな声が聞こえるが。


「おい、メメ!治療室ってないのかよ!?」

「救護室があるけど…何で助けるの?」

「うっせ、部屋くらい開けとけよ!」


俺はいろんな部屋のある、方に行く。


そこに救護室があった。


そこのベッドには1人寝ていた。


「え、は…?」


隣のベッドに美琴を寝かしつけ、そっちのベッドの掛けられているものをひっぺがす。


すると。


そこには、心臓を刃物か何かで貫かれた、百合ゆり鏡華きょうかが寝ていた。

いや。


死んでいた。


「あーもう!何でこんなことが起きてんだよ!?」


美琴の処置をして。


途端、気がつく。


この部屋、カメラがある。監視カメラみたいな。

思いつくのは。


「配信…?」

「…おい、聞こえてるか?」


と、話しかけても、もちろん返答はない。


「お前らリスナーにコンタクト取れないのかな。」


そう。つぶやいた。


美琴が起きた。

意識を失った理由は、避けようとした時、壁に頭をぶつけたらしい。


何ともドジな。


「ね、ねぇ、隣…」

「…見ないほうがいい…」

「もし、かして…」

「…死んでるんだ」


そこで、“ピーンポーンパーンポーン”と。


召集がかかったのだった。


 *


『はいはーい!さて現在の人数でも把握しましょうね〜まずは…裁判前。アカガネ君とクサガヤ君が亡くなってて、アキヤマ先生がなくなってるから…28人だね。』


「違うぞ」


『…何が違うの?』


「救護室で百合鏡華が死んでた。心臓を貫かれて。」


『それは裁判してる時でしょ?』


「え?」


『ってことで、裁判の途中に、ユリちゃんがなくなりましたね〜。そしてそのあと!いやー楽しそうで何よりだね。』


「は?」


『えーと、まずは、ニノマエちゃんが鉄串をチェンソーにキックバックして、顎の方から刺されて、亡くなった。』


『次は、オネザキ君。彼は、人間ダルマになって、部屋に倒れてたよ。』


は…!?人間ダルマ…!?


『いいねいいね♪、楽しくなってきたな?今は25人だね?』


『でもこれから、24人になるんだよ♪』


そして投票が始まった。


【やっぱ、ねぇ?】

【あいつしかいないでしょ】

【お前だよお前。】


そして…。


『はーい。ということで今回の処刑者は、ロクジョウトウカさんでーす。』


「は!?おかしいでしょ!」


『残念ながら、あなたの陰謀は見えてましたし。カッターの所在も、裁判を起こそうと言ったのも、あなたでしょ?』


「違う!違う違う違う‼︎」


『あ。』


「え、あれ?」


『ふふ、【死刑囚】は否定しちゃいけないんだよ?』


そして、六条藤花は首を吊られて死んだ。


『さてさて、再投票を始めるよー』


「は!?おい、なんでだよ!」


『さっき死んだのは投票じゃないからだよ?』


「何を言って…」


『言ったでしょ?【死刑囚】は否定をしてはいけない。』


コメントは。


【草】

【ザマァ!!!】

【これが新感覚ストレス発散法ですか】


と。黙ってろよ。


つまり。係の効果で死んだから。投票は関係なくなった…


「わざとだろうが」

『え、そうだよ?』

「狂人が」


投票は続く。


『私は人を苦しむのを見るのが好きな由良木メメだよ?それは、君も知ってるでしょ?ハイクルメ?』


【これだと、ハイクニキは残すの決定だな】

【それな。いるだけで楽しいからな】

【投票は…】


そして。


夜星龍斗は。

百合鏡華と同じ死に方をしたのだった。


 *


俺はそのあと、部屋に戻る前にやることがあった。


「尾根崎…」


目の前に。両腕両足無くなった、尾根崎がいた。


彼との関係性も短いものだった。そもそも、彼は後入りなので出席番号も開いた場所に入ったところなのだ。


先生の家に居候しているのを聞いた時、びっくりしたが。


「ん、乙葉君。手伝ってくれる?」


久方ぶりに見た葉山颪さんは顔がだいぶやつれていた。


「何を?」

「ん…うち、火葬者なの。遺体を回収しておかなきゃいけなくて。」

「へー、んなもんもあんのか。」


葉山さんが持っていた人が入るくらいの大きな黒色の袋に尾根崎を入れて。


2人で運んだ。


「…ここに全部しまっているんです。見えないように。」

「…燃やさなくていいの?」

「ん…。家族の元にしっかり運びたいですし。」

「…優しんだな。」


俺は、この部屋の6番目のロッカーにその袋を入れ。


黙祷をした。


「…じゃあな。尾根崎。」


と、言って、部屋を出る。


扉の横には、カードを入れる場所があり。


「あ、その部屋、そのカードがなきゃ開かないのな」

「…。」

「…あ、ごめんなさい」


彼女は小走りで、走っていってしまった。


なんなんだ一体。


部屋に戻ろうとした時。ふと後ろを振り向いたら。


「あれ、なんでここにいるの?」


火乃香唯がいた。


「…なんでもないよ。」


今までなんとなく思っていたが。


「お前っていじめでもされてんのか?」

「知らない、でも、私今までこのクラスなんてほとんどいたことなかったし。」

「ふーん…。」

「それだけ?」

「お前、あの防護服の脇をするすると抜けていったから。」

「…明日、見つけないときっともっと酷いことになるよ。」

「え?」

「じゃ。」


と行ってしまった。


「ちょ、どういうことだよ!!おい!!」


と、聞いたのに、振り向くこともなくて。


部屋に戻っても、そのことが頭にあって、よく眠れなかった。


「…どういうこと…なんだよ…」


その日は薬を飲むのも忘れて、寝てしまっていた。…疲れていたのだろうか。

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