第一夜

体は、沈み込んでいる。

その沈みは、ベッドのふかふかさであることに気づいたとき、自分を取り巻く環境がまるっきり変わっていることに驚いてしまったが。


あ、遠足にきていたんだっけか。


そう思い、体を起こす。

さーて、今日は何をしようかなと周りを見る。


そこは、見慣れない部屋で、戸惑う。


「ん?え?なんで?」


ベッドから見たとき、周りはホテルの一室に見える。1人部屋だ。


ベッドやら、テーブルやらがある。

でも、窓はなく、代わりに、小窓があり、開くとへこみがあった。


「…なんで俺がこんなとこにいるんだよ?…そうだ他の奴らは…?」


ポケットに手を入れてみるが、スマホはない。


「え?なんでないの!?」


改めて色々見てみる。…取られたのは、スマホだけらしい。キャリーケースもちゃんとあるし、ポケットにあった、家の鍵も、美琴のプレゼントのハンカチもあった。


キャリーケースを開こうと思い、ベッドの上に置き。

チャックを開けて、キャリーケースを開いた。


そこには。


「え」


明らかに女性用の下着が入っていた。

色は、白やらピンクやら色々あるが。


状況をすぐに理解した俺は、静かに、元に戻した。

それは。昨日の。


___乙葉、キャリーケース二個なのか?


あの間違いはこういうことか。きっと俺とデザインが同じようなキャリーバックがあったんだろう。しかも女が持っていて。


美琴?

いや。完全に同じというわけではない。


「こんな地味なデザインなキャリーケース、女の子が持ってるか…?」


色は真っ黒で、何にも入ってない。

服で言うなら、無地の黒の服。

俺が着るような服だから、余計に美琴な気がしているのだが。

そんなことはない。だって昨日。見ているのだから。


なぜこんなものがあり、なんで俺の部屋にあるのかもわからない。


「…いや。明るい方に考えよう。」


よし。キャリーケースが他の人の物と言うことは、ここにきたのは俺だけではないのかも。


と言うか、部屋で3人で寝ていたんだから、俺だけさらわれてたらおかしいのか。


薬…ちゃんとあるかな。


薬がないと…俺は…


その時、学校のチャイムのような、スーパーの放送の前の音のような。


ピーンポーンパーンポーン。


と言う音が、響く。


『えー、あー、聞こえてる?はろーえぶりわん。君たちがここに連れてこられたのは、とあるゲームに参加してもらうためです!と言っても色々言っておかないとね。君たちの外に助けを呼べる機械はこっちで回収させてもらった。君たちの部屋にあるのは、この屋敷内部にいる人たちとゲームを攻略する上で使うから頑張ってね。あと、君たちのキャリーケースはしっかり検査して、通信機器は除いた上で、部屋におかせてもらった。流石に着替えとか必要でしょ?あとはー…あ、先に言っとくね。君たちに助けはこないよ。って言うか、君たち、晴丘高校のいらないクラス3-Dなんて言われてるんだ。ねー、先生、これどー思うの?…あはは、そうだよねー。…さて。“ゲーム”の説明をしようか。まずみんな部屋から出て、中央ホールに集まって』


という、なぜか聞いたことがあるような声だった。


困惑しながらもオートロックの扉が開いた音。

ガチャという音が聞こえたので、俺はキャリーケースを持ち、部屋から出た。


部屋の外は、意外に暗いが、装飾はされていて綺麗なホテルの廊下だった。


もしここに泊まるのであれば、数十万くらいしそうだなと、思い、扉を閉め、扉を見る。


部屋の番号はs-7だった。


ガラガラと、キャリーケースを引きながら、廊下を歩く。意外に長い直線を歩き、中央ホールに着くと、端っこに俺と同じ様なキャリーケースを持った女の子を見つけた。


俺はそこへ小走りで行く。


「…ごめん、これ、火乃香ほのかさんの?」

と言うと。


火乃香ほのかゆいさんはこくっと顔を上下に振る。


なんとなく、妹のような感じがする。

所謂、妹キャラという物だろうか。


「じゃ、はい。」


と、キャリーケースを渡して、あとは知り合いを見つけるか…と思っていたが。


突然、後ろから服を引っ張られた。


「…ん?なに」

「中身見た?」


突如流れ出す冷や汗。彼女の目は、獲物を狩りそうな目をしている。


これは言うべきなのか否か。


「…ちょっと開けただけ。と言うか、少し開けたときになんか違うなと。」

「ほんと?」


目つきが怖すぎる。

…結局俺が折れた。いや、折れるしかなかった。


「いや。まじですみませんでした。」


誠心誠意謝る。


「そういう、嘘つくのはダメだから。」

「はい…」


そう言われて、俺はそこに立ち尽くしていた。


ちなみにずっと火乃香さんに服を摘まれていたことは全く気がつかなかった。


そして、ホールに31人が揃った時。


真ん中のホールの支柱の上の方に付けられている、大きなモニター四つが起動した。


そしてその画面は。


俺がよく見ている、画面であった


“由良木メメ”の配信画面だった。


『こんメメー!昨日配信したばっかだけど、きてくれてありがとー!』


明るくて、快活な少女。それでいて、少し闇を抱えていて、でも自由人。いつも動いていないと気が済まない性格で自由気ままに配信をしている…と言うのが彼女のプロフィールだ。


【唐突な配信助かる】

【こんメメー!】

【こんなに配信してるの珍しくない?】


と、コメントも流れている。


彼女は、現在150万人のファンがいる、有名Vtuberだ。もちろん、いきなり配信してもファンは来てくれる。


『さてさて、これからなんでこの配信をしているのかと言うことを話す前に、画面を切り替えるねー』


と、画面が切り替わるとそこに俺らの部屋の様子が映し出された。

カメラを探そうと思ったが、見えなかった。相当、小さいのか、はたまた隠しているのか。


【ん?】

【何これ、部屋?あと誰?】

【軽く30人はいるな】


『さてさて、見える?んー?誰なのかって?それはね…今日の…いや。今回のコラボ相手が、企業の人たちなんですねー。』


淡々と喋り出す彼女。リスナーも意外にいるのか、その人たちに説明をする、メメ。


『それで今日やるのは…リアリティーデスゲームショー‼︎』


【名前草】

【相変わらずのネーミングセンスwwww】

【ひっどい名前だぁ…】


“リアリティーデスゲームショー”。

カタカナばっかでアホっぽく見えるが。


「デスゲーム」と言う言葉があったことでこの場に居る俺たちには緊張が走る。


『今回、こんな大きな場所も確保して、人もこんなに集めて。することは、私たちが、この人たちの観測者になるの。』


【観測者?】

【俺たちがこいつらを監視するってことか】

【すごいな、どんだけお金かかってるんだよ】


『そう。観測者。ただ観る…だけじゃなくて。君たちリスナーには、投票権をあげる。指定の時間になったら、投票して。一番多かった人が、その日の犠牲者。』


「なんだそれ…」


ふと後ろを向くと、火乃香は、下を向いていた。そして、ポタポタと、涙を流していた。


それを見て、俺は恐怖を思い出した。

誰かに監視される恐怖、殺されてしまうという恐怖。…人から見捨てられるという恐怖。


横にいた、男、赤銅あかがね大翔ひろとは、激情しながら目の前のモニターに叫びまくっていた。


「おい!テメェふっざけんじゃねーよ!俺らをここから出せやオラァ!!」


『ん〜、そうだな、あそこにいる、私の写ってるモニターに怒ってる子、見える?』


【あのめっちゃ怒ってる子でしょ】

【みえるよー】

【めっちゃ必死に叫んでて草】


ここで俺は察知した。

デスゲーム。一番最初に目をつけられたやつは。反抗したやつは。


『あの子のなまえ、って言うの。みんな投票の時間にしてあげるから、コメントを打ってみて』


そうして、画面の上部の右の方から、アカガネヒロトという名前がいっぱい走ってくる。


そして。


『投票終了!本日の犠牲者は…アカガネヒロト!』


その言葉を合図に赤いランプと警報が部屋中を満たして。


突如、世界は暗黒に満ちた。


「死」のリアルが近づいてきた。

それに俺は、少し鼓動が跳ね上がっていた。

ドクンと。一定のリズムを刻んで。


「おいっ、なんだテメェら、クソが!離せ!」


突如、そんな声を防ぐかのように。


ぶぅ“ぅ“ぅ“んという、エンジン音が響いた。

ドクン。


そして。その音がチェンソーの起動の音だと気づいた時には。


世界は明るくなり。

ドクン。


いきなり明るくなる世界に、まぶたは閉じていたが。ゆっくりと。目を開けて。…開けてしまって。


そこに。

ドクン。


…上から下に向かって真っ二つになったアカガネヒロトが、そこに転がっていた。


血は俺の足元にまで広がっていた。


『今、絶望の顔をしている君はどんな気持ち?』


そんな、夢の一声が。聞こえてしまうほど、動揺していた。

ドクン。


『しょけーしゅーりょー。こうやって殺していって、目的の人を殺せば、リスナーたちの勝ち。それで…』


叫び声、悲鳴、金切り声。

その声は全て、耳を通り越し、頭に響く。

ドクン。


…懐かしい、むせかえるような血の匂い。それに混ざった、肉の匂いは。

ドクン。


胃の中を吐き出すことに容易だった。


『あらら、こっちはだいぶやばいみたいね。まぁ、説明はこの配信だけだし。行っておかなきゃか。』


そう言って、この騒然、驚愕、地獄のような部屋の中に、メメの声が入り込む。


『君たちの部屋のカードには、それぞれ係がある。その係をこなせばいい。でも、その係とは関係ないものもある。』


係?カード?

ドクン。


『そして、勝利条件も様々。勝てない係もある。だから。一番重要なことを言っておくね。』


勝利条件?

ドクン。


『君たちはこのクラスにいる、裏切り者を殺せば勝ち。』


「ウラギリ…モノ?」

ドクン。


『そう。裏切り者を殺せば勝ちになり、君たちはこんな地獄のようなゲームから逃げられるの。』


「…あ」


と、俺はここまでの記憶しかない。


次起きたのは、部屋の中でだった。


 *


ベッドの近くに座っていたのは、キャリーケースの入れ違いがあった、火乃香唯。


「…大丈夫?」


そんな俺の心配をする彼女も、目は赤くて、どことなく悲しそうな表情だった。


彼女は、このクラスのヒロインと言うか、高嶺の花と言うべきか。様々な人に好かれていて、3-Dで一目惚れをするのなら、まずこの子なんだろう。


「俺はまぁ、大丈夫…とは言えないですけど。だいぶ回復したんで。」

そう言って、ベッドから立ち上がる。


「…先生が今、いろんな人に指示を出して、掃除をしてる。」

「あの…ホールを?」

「…そう。私は逃げたかったから、君の看病を頼まれたの。」

「…。」


そりゃ、誰だって逃げたいだろう。死体を片付けることなんて、誰がするか。


「あのさ、なんでこんなことに俺ら巻き込まれたんだ?」

「…知らないけど。さっきのVが言ってたでしょ、企業との案件だって。だから、こんなことをする頭おかしい企業が、私たちを”いらないもの“として、面白おかしく処分しようってなったんじゃないの。」


…なんか早口で喋る唯さんは、意外にの人間なのかなと思ってしまう。


「…火乃香さんて意外に喋る時は喋るんだなぁ。」

「は!?殴るよ!」

「あぁ、すみません…」


こわぁこの人。


 *


そして、部屋を見ていて。


大きな冊子を見つけた。


裏返し、表紙を読む。


「スクールゲームルール説明…?」


それには、白い紙に黒文字が羅列されてあった。


 **


スクールゲームルール説明


ルール1

午前9時までに全員ホールに集合すること

午後11時までに全員個別の部屋に入ること

午後11時から、午前7時までは、個別の部屋から出てはいけない

午前9時から、午後11時までは自由時間

自由時間の間に、投票、処刑、をする


ルール2

投票は、このゲームをリアルタイムで見ている視聴者が個人名を表記して投票する

ちなみに、名前は完全に漏洩するのを防ぐために公開はカタカナ表記とする

また、投票が中止になるのは、全員に同数の票が集まった時だけである


ルール3

勝利条件は、裏切り者を殺せば勝ち

他の勝ち方もあるが、それぞれ、カードキーに記載されている

係もそのカードキーに記載されているものとする


ルール4

それぞれの部屋に、ベッド、冷蔵庫、風呂、トイレ、洗面台、机、ノート、ペン、スマホ、ダムウェーター、カード認証機が設置されている


ルール5

特になし


 **


いや、5番目めっちゃ気になる!なんでじゃぁ5番目って書いたんだよって突っ込みたくなるだろうが!


と、心の中で思っていると、俺を覗き込んできた唯さんが聞いてきた。


「…何かわかった?」

「いや。ただ、このデスゲームをするというのはもう確定なんだが…」

「…?」

「なんとなく、設備が良すぎる、と思う。」

「え?」


「例えばこれ。」


俺は、壁にくっついている、小窓を開けて、そこの凹みのところに『ご飯が欲しい』と書いた紙を入れて。


小窓を閉め、紐を引っ張った。


「…何をしたの?」

「いや、実験がてら。多分これで…」


ダムウェーターのランプが光り、チーンというレンジみたいな音が響く。これで…


俺は小窓を開く。するとそこには。


「ほら、ご飯が来た。」


お茶碗1杯のもくもくと湯気が上がってるご飯があった。


「…じゃあ…」


火乃香は紙に。『ミディアムレアの牛肉ステーキ』と書いた。


そしてそれを同じように。ダムウェーターに入れた。


すると、2分ほどで。


ランプが光り、音が鳴り、そこには…。


石皿に乗った、じゅうじゅういってる、ステーキがあった。


「…なるほど。デスゲームとは相入れない心地よさ。」

「だろ?おかしなくらいに過ごしやすい。」

「…私たちをここにとどまらせようという魂胆か…?」


火乃香は俺が持っていた茶碗を取り、ステーキを食べようとしたが。

「…カトラリーがないじゃないか」

「頼むか?」

「そうしてくれ」


俺は紙に『ナイフとフォーク』と記入した。

そしてダムウェーターへ。


あ、そうそう。今、俺の中に、火乃香さんはナイフやフォークのことをカトラリーと呼ぶが追加された。


もちろん、それらは送られてきたが。


もう一枚紙があった。そこには、機械的な文字で。


「乙葉様の本日の注文数が3つになりましたので本日の提供は終了となります」


と、書いてあった。


「おい、お前のせいで注文できなくなったじゃねぇか」

「…そのようだね。まぁ、私には関係ない。」


火乃香はカトラリーを取り、ステーキを食べ始めた。

そりゃすごい勢いで。


「…昨日食べた?」

「食べましたけど、周りのめんどくさい連中が私に偶像を抱いておりまして。『唯さんはダイエット中だから』って、野菜を回されました。殴ってやろうとも思いましたけど。」

「へ、へぇー」


陽キャは陽キャで面倒臭いんだな。


「…というか、昨日ってのは、本当に機能なんですかね?」

「え?」


彼女はいきなりそんなことを言ってくる。


「ま、多分違うと思うのでいいですけど。」


と、食事に戻る。

顔をくるっと回すと、髪がついていく。

意外に髪が長いんだよなぁ。

…俺から見ていると邪魔なようにも見える。


すごい勢いで食べて、すぐに食べ終わった彼女は、手を合わせて。


「ごちそうさまでした。」


彼女はそう言いながら、部屋を出ようとした。


が、入り口で止まり。


「まぁ、これで乙葉くんがパンツ見た罪は帳消しにしてあげます。感謝してください。」

「うぇ!?」

「なんですかその情けない声。まぁ、いいです。そろそろ、ホールの掃除も終わったと思いますので。」


私は部屋に帰ります。と吐き捨てていった唯を尻目に、さて、作戦でも立てようかと扉に背を向けた時…


何者かに目を隠された。完全に真っ暗。光も見えない。つまり、目隠しをされた。


「…?!」


声を出そうと思った瞬間、口元に手が。

ドクン。


まただ。この「死」のリアルだけは。どうしても抑えられない。


その後、扉が閉まる音がしたと思ったら、口元の手は離れて。


「…っ」


唇に柔らかいものが当たった。

そして、口内に侵入してくる、何か暖かくて柔らかくて、ねっとりしたもの。

ドクン。


その正体が舌だとわかった時、体は反応しきっていた。

ドクン。


心臓の鼓動は恐怖のものから、興奮の高鳴りへと変わり。


…そして。


ベッドに押し倒されて。


俺は相手が何者かわからないまま、犯された。


正直に言っていいか?

めっちゃ怖かった。死ぬかと思った。

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