010話 グラスパ(雑草の魔物)

「登録完了ですッ」

「ありがと、フレーネさん」

「依頼はどうしましょう? リノ君と組むなら、また町中の依頼を増やしましょうか?」

「いえ、大丈夫です。危険があれば俺が守りますから」


 リノは一応サポーターとして冒険者登録させた。

 子供の成長は早い。

 外での経験を積ませてあげた方が冒険者として強くなる。


「わかりました、では前回と同じくケレネ草の採取をお願いします」

「了解です」

「あの~くれぐれも無理はしないでください。ルノアさん自身まだ経験は浅いですから……」

「はい、気をつけます」


 あ、弱い設定を貫いてるの忘れてたわ。

 フレーネさんすごい心配そうな表情で見てる。


「ルノアってやっぱり弱いの?」

「安心しろお前よりは強いよリノ。でも報酬は半々でいいぞ。仲間としてパーティーを組んだからな」

「ホント! ありがとルノア!」


 身なりからして金に困ってるのは間違いないだろうしな。

 装備一式は負担してやろう。

 そろそろ俺も剣の一本でも身につけるか。

 果物ナイフはさすがに卒業しよう。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

「うん!」

「遊びじゃないからな。冒険者は常に命の危険がつきまとう」

「わかってるよッ、そのくらい!」

「まずは武器屋に行こう」


 リノの奴、ウキウキしてるな〜。

 本当にわかってるのか?


 あと初日でタメ口。

 手を差し伸べてやったんだし、もう少し感謝しろよ。

 って、10代なんてこんなもんか。

 

「雑用君があのガキとパーティー組むってよ!」

「命の危険って、お前に偉そうに言われてもな〜」

「そんな依頼1度も受けたことねぇじゃん!」

「雑用係とガキ! お似合いコンビじゃねぇか!」


「「「ギャハハハッ!」」」


 相変わらずだなお前らは。

 まぁ、好きに言ってろ。

 俺たちは無視して冒険者ギルドを後にし、武器屋に向う。


−−−−−−−−−−−−−


 武器屋に到着。


「ルノアって本当に嫌われてるね。まぁ、だから声をかけなかったんだけど」

「お前な〜声かけてやったのにそれはないだろ」


 コイツ……人を見て相手を選んでたのか。

 ちょこざいな。


「だって悪口言われても黙ってるし、弱い奴と組んだらオレまで標的にされそうじゃん」

「お前……やっぱりパーティー組むのやめるか?」

「そんなに怒らないでよッ。今は本当に感謝してるんだから!」


 ちょっと舐められてるな〜。

 ……よし、決めた。

 リノをみっちり鍛え上げよう。

 3ヶ月であのバカ冒険者たちより強くしてやる。


 今に見てろよ。

 あのバカ共め。

 子供のサポーターにすら勝てない自分を恥じるがいい。

 そのときは逆に嘲笑ってやるよ!


「フフフフッフ!」

「なにその気持ち悪い笑い方」


 そんなことを考えつつ、リノに合う武器を選んでいく。

 リノに通常の剣は重い。

 かといって殺傷能力の低い短剣も微妙だ。

 間合いも短いし。

 戦闘スキルや筋力も意外といる。

 魔法が使えれば全然いけるが……


「リノ、魔法は使えるのか?」

「使えない。習ったこともないし」

「だよな」


 ならこの武器一択だな。


「ショートソード。筋力のないお前でも経験を積めば扱えるだろうし、攻守のバランスにも優れた武器だ」

「へ〜意外と詳しいんだねルノア。わかったコレにするよ」


 あとは俺の武器だが……

 やっぱりこれしかないよな。

 ずっと使い続けていた武器だ。


 勇者の王道の武器。

 俺はロングソードを手に取る。

 あぁ、懐かしい。

 

 この歳になって新しい武器に挑戦する気にはなれない。

 ラノベなんかじゃサクサク技を覚えるけどさ。

 実際は武術を体得するにはそれ相応の努力が必要だからね。

 それなら魔法と組み合わせて素手で戦う方がマシだ。


 魔法使いならワンチャンありなのだが、魔石が付与されている杖は馬鹿みたい高額。

 今の薄給じゃ、入手困難だから無理。


「ルノアは剣にするんだね」

「あぁ、多少だが剣の扱いを知ってるからな」

 

 リノは『ショートソード』

 俺は『ロングソード』

 あとは収める鞘。

 帯剣するためのベルト。

 

 そのあと道具屋でサポーター役のリノに必要な物を買い揃えた。


 う~ん、今月は節約しないとダメだな。

 けっこうデカい出費だ。


「どうかなルノア? 冒険者に見える?」

「あぁ、見た目は。あとは服だがそれは自分で買え」

「了解。じゃあ薬草取りに行こう!」

「そうだな」


 装備の整えたことだし、エスタリスを出て、近くに群生している薬草採取に向う。


−−−−−−−−−−−−−


 薬草が群生している小川を目指して、草原を進んでいると、リノが大声を上げる。


「うわ! なんかあの雑草動いてるよ!」

「グラスパ(雑草の魔物)だな」

「魔物なの?」

「あぁ、知らないのか? この世界では1番個体数の多い魔物だぞ。知能はほぼないし、一定の距離を保てば襲ってこない」

「知らない。町の外から出たことないし」


 異世界といえば最弱の魔物はスライムを想像するだろう。

 だがこの世界【イデルミリア】では違う。

 むしろ水から魔核が発生して、コア(魔臓)が生成されるスライムは珍しい魔物だ。


 自然物から変異する魔物は珍しい。

 多いのは動物や植物の魔物。


 魔物が生まれる理由は諸説ある。

 教本によって内容に若干の違いがあるのだ。


 まずマナ(魔素)を体内で魔力に変換できるのは人族と魔族だけ。


 自然物や動植物などは吸収したマナをそのまま体内で循環されている。


 だが体内で何ならかの異常が起きたときに魔素が1箇所に集中して魔核(毒)へと変わる。


 人間でいえばガンの腫瘍のようなものだと想像してもらいたい。


 魔核が発生した段階で、ほとんどの生物は死に至るのだが、極稀に耐性を持つ個体が現れる。

 すると魔核はコア(魔臓)へと進化して、魔物へと変異するのだ。


「リノちょっとそこで待機してろ」

「え、どうするの?」

「グラスパの倒し方を今から見せる」

「ルノア、大丈夫なの?」

「あぁ」


 そしてこの世界ではグラスパが1番多い(地域によって個体差がある)


 油断しなければ新米冒険者でも簡単に倒せるが、生命力はやたら高い。


「剣で戦う場合、グラスパは茎を切り裂いても再生するので、上部に攻撃しても倒すことはできない」


 一定の距離までグラスパに近づくと、俺のことを察知し、こっちに向かってくる。


「グラスパの葉はナイフのように斬れ味がいい。でも直線的な攻撃しかしてこないので、子供でも避けるのは難しくない」


 俺はグラスパの攻撃を、軽く横ステップを踏んで回避し。


「で、グラスパの弱点は下部にある根だ。コアがあるので、それを破壊すれば倒せる」


 回避した遠心力を利用し、剣を抜刀してグラスパのコアを切り裂いた。


「とまぁ、こんな感じだ」

「すげぇ! ルノアって本当に弱いの?」

「はは、グラスパぐらいならリノだってすぐに倒せるようになるさ」


 ちょっとは俺を見直したみたいだな。

 目を輝かせてやがる。


「でも油断はするなよ。葉に触れれば斬れて傷ができる」

「うん、わかった!」


 普段はグラスパなんて無視して進むが。

 小川までの道中、リノの戦闘訓練も兼ねてグラスパを何度か退治した。


「ルノア、1人で倒せたよ!」

「あぁ、頑張ったな。基本的にショートソードは中段で構えるんだ。攻守のバランスが1番いい」

「わかった! こいつって倒したら金にならないの?」

「ならないな」


 魔物のコアは色々な用途に使われるので、売れば金になる。しかしグラスパはコアを壊さないと倒せないので、いくら倒したところで金にならないのだ。


「なんだ残念……」

「リノがもう少し戦えるようになったら魔物討伐の依頼を受けるか。コアや素材を売ればさらに金になるしな」

「ホントに! 魔物討伐、早く受けよ!」

「調子に乗るな。まずは戦いに慣れることが優先だ」

「わかった! すぐに強くなってやるよ!」


 なんだろうな。

 先日まで引きニートだった俺が保護者みたいになってて、おかしな気分だ。


 でも……悪くない。

 リノとは上手くやっていけそうな気がする。


「じゃあ、薬草採取してさっさと冒険者ギルドに帰るぞ〜」

「おうよ!」


 仲間か……

 今度は期待を裏切らない。

 自分が決断した選択だ。

 必ずこの子を守ろう。


◆ ◆ ◆


1章  完

  ↓

2章 仲間を大切にする元勇者

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無職の転生勇者はゼロからやり直す 狼しょうねん @aoaoaoao

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