008話 捨てられた親子
ネスタ国はアヌス教を信仰している国民が大多数を占める『七聖連合国』の1つである。
女神アヌスを信仰する7ヶ国は、なにか有事の際は神の下に集うという盟約が交わされている。
ようは「戦争おきたら同盟組もうね〜」ということだ。
ヴァイスヴァルツ王国
北帝ダリア
リシュター王国
七聖連合国
神聖歴1166年。
現在の人族の中で、この4大勢力がバランスを保ち、常にお互いを意識している。
だが、
この4大勢力で弱体の一途を辿っている勢力がある。それは魔王討伐以前までは最大の勢力であった『七聖連合国』だ。
アヌス教の教団内は腐敗していた。
神官たちは既得権益を巡って、地位を獲得することに執着し、周りを引きずり落とすことばかり考えている。
アヌス信者からは莫大な資金を税収として納めさせて、高位神官たちの欲望に使われていた。
聖書にはこう記されている。
・女神アヌスがこの世界を造りし者
・神に仕える国に王は置かない
・神に選ばれし七聖神官が各国に教団を造り、良き国を運営する
まぁ、どの世界でも似たようなものだ。
教団に金が集まる建てつけになっている。
最初は違ったのかもしれない。
崇高な精神があったのかもしれない。
アヌス教を造った教祖が現状を知れば嘆くかもしれない。
だが悲しいかな。
神とは金を集めるには非常に便利な道具なのだ。
今はまだ7ヶ国が集結するという強みは、各国への牽制になっている。
しかしこのまま教団内の腐敗が続き、弱体化が進めば、七聖連合国はいずれ列強国に呑み込まれるかもしれない。
−−−−−−−−−−−−−
さて、アヌス教について簡単に説明したが。
ここからは少し昔話に付き合ってもらいたい。
教団が腐敗している1つの良い例。
これは今から13年前の話しである。
主人公『ルノア・オルティー』とは別軸の過去の話。
【修道女見習い『エレナ』の物語】
ネスタ国の首都ネスタに、教団の本部がある。
そこに修道女見習いの少女エレナ(11歳)が働いていた。赤毛の可愛らしい少女。
エレナは孤児で赤ん坊の頃から修道院で育てられており、幼い頃からアヌスの信仰を教えられ、下女として5歳から躾けられてきた。
教団の本部に修道女見習い候補として連れて来られたのは7歳のとき。
本部の高位神官の男が修道院の視察に訪れたときに、10歳以下の少女を何人か選抜して、本部に連れていったのだ。
その中の1人にエレナが選ばれた。
エレナは喜んだ。
神官様に「本部でさらに徳を積めば、下女から修道女になり、今より良い暮らしができる」と優しい言葉をかけられたから。
その言葉を信じ、エレナは本部でもより勤勉に信仰に準じて働いた。
幼いながらも神官様の教えや言いつけをしっかりと守った。
純粋無垢なエレナ。
その教えの中にアヌス教の信仰とはまったく関係のない教えがあるとも知らずに……
神官は自分が連れてきた中の3人の下女に「清浄な身体かを確認するための検査をする」という言いつけを与えた。
全員にでは無い。
教団内でバレないようにするため。
特に自分のお気に入りの下女を選んだ。
「清浄ならばすぐに修道女見習いになれる」「君たちは特別だから他の者には絶対に言ってはならない」と少女たちをそそのかして。
そこにまたもエレナは選ばれた。
赤毛の少女は神官のお気に入りだったのだ。
もうおわかりだろう。
この高位神官の男は、幼児性愛者のイカれたクソ野郎だったのだ。
地位を利用し、言葉巧みに少女を騙し、自分の欲望を叶えていた。
それから少女たちは週に1度、神官の自室に呼ばれ『身体検査』という名目の性的虐待を受ける。
身体のすみずみまで、イヤらしい手つきで触り。
性知識のない少女たちに自分の性癖をあますことなく試していた。
どんな行為が行われていたかは想像にお任せしたい……
だが少女たちに不満はなかった。
言いつけ通りに『身体検査』を受けることによって、他の下女よりも早く修道女見習いに昇格したのだ。
善い行いをしたのだとエレナも思っていた。
神官はアメを与えて少女たちを洗脳し、その後も『身体検査』を続けた。
だが少女たちも10歳を超えたあたりから月経という現状が起こり、だんだんと性に対する知識を理解してくる。
教団内での性的行為は不浄のものとして固く禁じられていることを知るのだ。
しかしその行為によって、他の下女より早く昇格できたのも事実。
なので少女たちは神官の言いつけ通り「他の者に言ってはいけない」という約束を守った。
告発すれば自分たちも罰せられる可能性もあるからだ。
11歳になったエレナは、神官に迫られていた。神官にとってエレナは1番のお気に入りだから。
残り2人との関係は絶ったが、エレナだけは手放す気はなかった。
少女が女性へと徐々に発育していくこの年頃が、神官の性癖を1番駆り立てる。
そこで神官はエレナにある条件を持ちかける。
「このまま黙って私の言いつけを守れば、私の側仕えに昇格させてやる。君が最も特別だ」と。
「もし断るなら地方の修道院に移動させて下女に降格させる」と脅した。
エレナは前者を選択した。
もちろん待遇の良い暮らしをしたいという思いもあった。下女には戻りたくないと。
ただそれよりも単純に恐怖を感じていた。
誰にも相談はできないエレナ。
そして神官との身体の関係が始まっていく。
神官の側仕えになったエレナは、男の望むような行為をその身に受けた。
何度も身体を重ねた。
徐々に内容はエスカレートしていく。
「神官様……今日は止めて下さい。もし子供ができれば私はどうなるのですか?」
「エレナ、お前は私の物だ。神官の側仕えになれたのは誰のお陰だ? 下女に戻りたいのか?」
「……嫌です」
「ではこっちに来なさい」
「……はい」
神官は結局その夜も、エレナを欲望のまま強引に抱いた。
エレナの精神は疲弊しており、抵抗する気力はなく、魂のない抜け殻ように犯され続ける。
そして12歳の少女は妊娠した。
月経がこない。
でも誰にも相談できない。
頼れるのは神官様だけ。
エレナは神官に妊娠した旨を伝える。
「妊娠しました。神官様のお子です」
「ああ……そうか。ではお前を守らなければならないな」
「え?」
神官の言葉にエレナは動揺する。
自分の想像している返答ではなかったのだ。
男の口から「守る」などという言葉が出るとは思っていなかった。
「本当ですか?」
「ああ、当然だ。だが教団内での性的行為は固く禁じられているのは知っているな?」
「はい。もちろんです」
「だから妊娠を知られるわけにはいかない」
「はい」
「お前は修道女を辞めなさい」
「え?」
「私が住処と金を用意するので心配するな。この国では聖職者でない女性は15歳からの妊娠が認められている。お前は今12歳だったな?」
「はい……」
「3年辛抱しなさい。15歳になれば私が何かしらの手段を使い、再び教団に迎え入れる。それまで自分と子供の存在を隠しなさい」
エレナは理解していた。
この条件をのむしかないと。
信じるしかないと。
「本当に守ってくれますか?」
「ああ、私を信じなさい」
神官はエレナに当面は暮していけるだけの金を渡し、ネスタの東にあるエスタリスという町に家を与えた。
「出産の際は修道院を頼りなさい。もちろん私の子などとは言うな。知らぬ男に強姦され妊娠したとてきとうに理由をつけろ」
「わかりました」
「3年後に迎えに来る」
「はい」
−−−−−−−−−−−−−−
3年後
神官はエレナと子供を迎えに来ることはなかった。
だがエレナは一理の望みを捨てずに男を待った。
「守る」という言葉を信じて……
−−−−−−−−−−−−−−
さらに10年の月日が流れた……
エレナと子供は、エスタリスの貧民街で暮らしている。
赤毛の女性は今もなお男の言葉を信じ、迎えを待ち続けているのかは……知る由もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます