005話 まぁ、バカにしますよね

「あ、冒険者ギルドだ」


 大通りを真っ直ぐに歩いていると冒険者ギルドの紋章が彫られたデカい看板を発見する。


 紋章は剣と杖と盾が描かれており、ギルドの紋章は全世界共通のようだ。


「勇者のときは冒険者を内心ではバカにしてたっけ……」


 心を改めないとな。

 

 ヴァイスヴァルツ王国でもギルドは何度が目にしていたが、俺は魔王討伐のために多額の軍資金を国からもらっていたので、実際に建物の中に入るのは初めて。

 

「魔族との戦いは流れのままだったし、初めて就活してるような気分だ」


 エスタリスはネスタ国でも人口が3番目に多い町なのでギルドの建物もけっこうデカいな。酒場の看板もあったし、ギルドに併設されているのだろう。

 

 俺は恐る恐るギルドの大扉をあけて中に入る。


「まぁ、想像通りって感じだな。さっさと登録を済ませるか」


 大広間には酒場があり、その奥には受付の窓口がズラリと並んでいる。昼時もあってか、たくさんの冒険者が飲み食いしながら賑わっていた。


 ガラの悪そうな奴らもけっこういるな。

 でも俺を気にかける者は誰もいないので、そのまま素通りし、受付で待機しているお姉さんに話しかけた。

 

 いや、なんかテンプレだよね。

 この一連の作業は。


「あの、すいません」

「はい、今日はどういったご要件でしょうか?」


 マニュアル通りの返事ですね、お姉さん。


「冒険者登録したいのですが、いいですか?」

「冒険者登録ですね。かしこまりました。登録にはアヌス銀貨1枚が必要になりますがよろしいですか?」

「えっとアヌス硬貨は持ってないのですけど、ヴァルツ硬貨と換金可能ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 そういえば換金してなかった。

 ネスタは【女神アヌス】を信仰するアヌス教徒が多い国なのでアヌス通貨が使われている。

 王国、帝国、公国などは独自の通貨を使っているが、世界最大の宗教である女神アヌスを信仰している国は多く、アヌス硬貨は世界で1番流通量が多い硬貨だ。


「全てアヌス硬貨に換金してください」

「わかりました。しばらくお待ち下さい。冒険者登録のためのアヌス銀貨1枚を差し引いたものをお渡ししますね」

「はい、それで大丈夫です」


 確か魔王討伐以降の通貨価値でいえばヴァイスヴァルツ王国の方が高くなっているはず、なので俺的にはお得だな。

 

「計算が終わりました。では換金したアヌス硬貨を受け取り下さい」

「ありがとうございます」


 アヌス小金貨が1枚、銀貨が6枚、銅貨が5枚、銭貨が7枚。

 日本円でいえば。

 小金貨が10万円

  銀貨が1万円

  銅貨が1000円

  銭貨が100円


 恐らく所持金は165700円くらい?

 だいぶ曖昧だがそこは気にしない。


「ではギルドカードとタグを作りますので、この紙に貴方の情報を記入してください。あと注意事項もしっかり確認してくださいね。違反しますと登録剥奪になりますので」

「わかりました」


 俺は受け取った用紙に自分の情報を記入していく。と言っても3項目しかないが。


【名前】ルノア・オルティー

【出身】ヴァイスヴァルツ王国

【役割】


 うん?

 役割ってなんだ?

 戦士とか魔法使いってことか?

 なんとなく検討はつくが受付嬢に一応質問してみる。


「あの、この【役割】ってなんですか?」

「あ~けっこうその項目は曖昧なんですよね。よく質問されます。役割は基本的に4つに分けられますね」

「4つ?」

「はい(戦士、魔法使い、治癒士、サポーター)です」


 あ~まぁ、想像通りだな。

 冒険者といえばこの4つだろう。

 

「ただそれ以外に特技をお持ちの方は、それを詳細に記入して頂いても構いません」

「というと?」

「例えば(鍛冶、素材鑑定、諜報)などですね」

「なるほど」

「この【役割】を記入することでパーティーメンバーを募集するときに役立ちます。貴方のプロフィールを掲示板に公開しますので、それを観て必要な人材なら他の冒険者から声がかかり易くなるんです」


 仲間探しのときに役立つプロフィールみたいなものか。

 

「任意ですが新米冒険者の方は経験が足りないのでソロでの活動は基本しません。ですのでパーティー募集のために情報公開する方がほとんどです。ぜひ貴方の得意分野を記入してください」


 まぁ、そうだよな。

 冒険者は常に生死と隣合わせだ。

 パーティーを組んだ方が生存確率は上がる。


 でも俺はあまりパーティーを組む気はない。

 他国だし、恐らく元勇者だとバレることは無いだろうが念のため。

 あとはパーティーを組むと、ゲイルたちと共にした時間を思い出しそうで嫌なんだ。


 そう思い至った俺は、こう記入して受付嬢に紙を渡した。


【役割】特になし


「……特になし? あのこれでは誰も貴方に声をかけてきませんよ」

「ああ、大丈夫。しばらくソロで活動しますので。掲示板に情報公開もしない方向でお願いします」


 そう伝えると受付嬢さんの本音の声が思わず漏れた。いや、だだ漏れた……


「え!? 貴方がソロ冒険者! いやいや、止めた方がいいですよ! 冒険者を甘くみてませんか?」

「そんなことないです」

「いや、ナメてます! 貴方の役割ってサポーターですよね? 一番守られる側ですよ。見つけるの大変かもしれませんが、絶対にパーティー組んだ方がいいです! すぐに死にますよ!?」


 うわ〜この人、完全に見た目で判断してきてるわ。かなりディスられてる。俺の役割はサポーターで確定ですか……


 あと遠回しに(貴方の贅肉だるだるの見た目でパーティー組みたがる冒険者はいません)って言われてるな。


 つか大声を出さないで欲しい。

 館内に受付嬢の声が響いたので、広間にいた冒険者たちの視線が俺に向く。

 あ~最悪。

 無駄に注目されてるよ。

 しかも完全にバカにした目で見てるな。

(え、コイツ冒険者になるの?)

(しかもソロ?) 

(こんなデブが?)

(アホだなw)

 って顔だ。

 口に出さずとも分かるっての。


「あの、大丈夫なので。早く登録を済ませてもらってもいいですか」

「本当にいいんですか?」

「はい。最初は簡単な依頼をコツコツやっていくので」

「わかりました。ではギルドカードと銅級(初級)冒険者の証である銅板のタグをお渡ししますね」


 そう言うと。

 受付嬢は俺の情報を記入したギルドカードとタグを心配そうに渡してきた。


「あの……私の名前はフレーネといいます」

「あ、はい。受付ありがとうございました」

「ルノアさんの初担当は私ですし、すぐに死なれても寝覚めが悪いので、しばらく依頼選定を私がアドバイスしていいですか? 銅級冒険者の中でも危険度が低いのを選びますので」


 ははは、またディスられた。

 すぐに死ぬの前提ですかい。

 茶髪ボブの可愛いらしい顔してるのに、けっこうハッキリと物を言うな〜。


 でもアドバイスしてくれるってことは、一応心配してくれてるんだよな?

 そこは少し嬉しいかも。

 とりあえずどんな依頼でも頑張ってみよう。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

「わかりました。では早速ですが【町で迷子になってる猫探し】の依頼があるのでそれにしましょう! 銀貨3枚! 報酬かなりいいですよ!」


 猫探し……マジか。

 冒険者の初依頼が猫探し。

 せめて薬草の採取とか、ラノベでありがちな依頼が良かったな〜。


「ははは、ならその依頼を受けます」

「はい、数日かかるかもしれませんが頑張って下さいね! 意外と捕まえるの難しいですよ、猫ちゃん!」

「そうですね。頑張ります」


 まぁ、今の俺にはこれくらいが丁度いいのか。

 それに銀貨3枚は、けっこう報酬いいな。


 フレーネさんから、猫ちゃんの特徴が書かれた依頼書を受け取り、冒険者ギルドを出ようとすると、先ほどから俺を見ていた酔っ払い冒険者たちが話しかけてくる。


「兄ちゃん、猫探し、がんばんな!」

「町の外に出るなよ〜。おデブちゃんが魔物に出くわしたら逃げられないからね〜!」

「いつか雑用仕事があればお前に依頼するわ!」

「フレーネちゃんと同じように、おデブちゃんに死んでほしくないんでちゅ〜!」


「「「ギャハハハッ!」」」


 まぁ、そりゃあバカにしますよね。

 ラノベならここで実は俺TUEEEEする展開になるのでしょうが……

 

「はは、死なないように努力します」


「ああ、頑張れよ兄ちゃん!」

「よし、アイツがいつ死ぬか賭けるか⁉」

「お、いいね〜!」


 コイツらは昔の俺。

 調子に乗って相手をさんざん見下してきた自分が偉そうに言い返すことはできない。

 過去の自分とは決別する努力をしていかないとな。


「よし、初依頼がんばるか」

 

−−−−−−−−−−−−−−−


 ちなみに猫はその日のうちに確保した。

 発見し、土魔法で檻を作って、速攻終了。

 

 フレーネさん、ほか冒険者、も少し驚いていたので気分爽快だ。

 ざまぁってやつだな。

 

 性格悪い?

 ま〜いいじゃん。

 このくらい。

 性根はすぐには変わらないよ。

 徐々に頑張るさ。


「さて、金も入ったし。宿を探すか〜!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る