003話 衰えましたが、一応まだ使えますよ
「行くか……最後に母さんに報告しないとな」
ゲイルと再開した翌日。
俺はまだ日も昇らなぬうちに家の扉に手をかける。
村から出て行くと決意した。
「ハハ……最初に家を出たときは確か11歳だったか? その頃より酷い身なりだな。ゲームの初期装備以下かよ。まぁでも、今の俺にはお似合いか」
武器も所持品もほぼない。
あったのは(家にあった僅かな所持金、15年前の世界地図、果物ナイフ、数日分の携帯食、腰につける革製のポーチ、農民の服、ボロの布マント、ボロのブーツ)
駆け出し冒険者でももう少しマシな身なりをしているだろう。
勇者時代に使っていた装備品?
そんなのとうの昔に王都で売っ払ったよ。
まぁ、四の五の言っても仕方ない。
俺は村を一刻も早く出ると決めたのだ。
エメラルダやリリスと顔を合わせたくない。
母アイシャの死で村人たちとの縁も切れたし、俺が消えても誰も気にする者はいないだろう。
「母さん、ごめんなさい。行ってきます。またこの村に帰ってこれるかは約束できないや……でも来れたらお墓参りするよ」
最後に母の墓前で懺悔みたいな言葉を残し、俺は村を出た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺はラダ村を出て、まず最初に目指したのは南に歩いて半日ほどで着く国境沿いの隣町だ。
「今日は曇りか……」
今はまだ深夜。
夜道は危ないので掌から小さな炎を出して草原を進む。
「まぁ、日の出までなら魔力は保つだろ」
え、怠けて魔法を使えなくなったのでは?
いやいや、さすがにこんな初歩魔法なら普通に使えるよ。
あのさ、一応だが元勇者ですから。
現役のときは無双してたんだよ?
無詠唱の全属性を使えてたんだよ?
そこまでバカにしないでくれ。
「火起こし、水生成、なんかで家事の手伝いはしてたしな」
まぁ、確かに魔力量は格段に減った。
魔力操作も鈍っている。
15年前とは比べるまでもない。
あの頃は日々、修練や経験を積んでいたのだから。
でも感覚を忘れたわけではない。
少し魔法に関する知識を説明して、現在の俺の状態でわかりやすく例えようか。
まずは【魔力量】を『2Lペットボトル』で例えよう。
水を魔力だとすると。
ペットボトルは魔力を溜めれる総量だ。
この15年間なに一つ修練してこず、初級魔法以下の家事程度の役立つ魔法しか使っていなかった俺の魔力は減り続けて、ペットボトル中にはあと5ml程度しか残ってない状態。
でもペットボトル(魔力を溜めれる総量)は変わってはいない。
鍛えればまた魔力を2Lの満タンにできる。
補足だがペットボトル(魔力を溜めれる総量)は成長期と同じように20歳頃で止まると言われている。
そういう意味で言えば、3歳から大人と同じ思考で修練を始めた俺は、軽く見積もっても並の魔法使いの100倍以上の器を持っているだろう。
そして運動能力と違い、魔力の総量が衰えることはない。なので魔法使いは戦士より長く現役でいることができる。
ただボケて詠唱を唱えることが出来なくなれば引退だが。
まぁ、無詠唱の俺には要らぬ心配だ。
次に【魔力操作】でいえば『乗り物』だな。
初歩の魔法なら自転車を想像してくれ。
恐らく1度乗れた者ならば30秒もあれば感覚を取り戻せるだろ?
それと同じだ。
上級魔法なら大型トラックくらいかな?
すまん。前世で運転免許を持ってなかったのでここはあくまでも想像。
とにかく上級魔法なればなるほど感覚を戻すにも時間が必要ということ。
「よし、朝になったな」
しばらく歩いていると、日が昇り始めたので炎を消して国境沿いの街へ向う。
「はぁ、でも身体能力の方はどうにもならないな。贅肉だらけの体で歩き続けるのツラい……」
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