第8話 部長と焼肉(其の一、Z世代の小集団活動)

 今晩は部長に焼肉を奢って貰うことになった。


 若い人のオフィス離れが著しい。在宅勤務の方が通勤時間の無駄を省けてタイパが良いし、上司との距離感も保てるのでストレスを感じない。

 でも、会社はそういう若者の将来を危惧している。リモートだと手取り足取りのOJTは難しいし、会社で生き残るためのメンタリティを共有したり、信頼関係を築くのが難しいと感じている。

 そういうこともあって、部長は今年から小集団活動に力を入れている。職制とは違う主任2人と担当者3人の5人でチームを組んで、二つのチームで業務改善を検討して競い合うというものだ。


 小集団活動には三つの狙いがある。まずは通常の業務から離れて業務そのものを改善すること、二つ目はコミュニケーションの活性化、三つ目はチームプレーによる生産性向上と人材育成だ。

 残念ながら小集団活動は上手くいってない。若い人たちはITツール活用や、マニュアル作成、ペーパーレス、無駄な会議をなくすことなんかを、Teamsでサクッと打ち合わせて、当たり障りのないプレゼン資料に纏めてしまう。目の前のことをサッと片付けるのではなく、業務そのものを今のままで続けて良いのか、中長期的に効果があるのか、深掘りして考えない。「何を考えてるのか分からない」、部長はZ世代が理解できないそうだ。


 流行りの生成AIに聞いてみると、「Z世代はワークライフバランスを重視する人が多いのが特徴です。厳しい環境でバリバリと働くよりも、プライベートの時間を大切に、楽しく柔軟な働き方をしたいと考えている人が多い世代といえます。また、Z世代は社会貢献意欲が高く、社会問題への関心が強いのも特徴です」だそうだ。

 まあ、世代で何か変わるのではなく、生きている環境が違うだけだと思うが、部長は「ワークライフバランスやタイパという言葉の裏側には、『効率良くやる≒決められた通りに卒なくこなす≒無駄なことをしない≒リスクテイクしない』という思いが見え隠れする、それは政治や資本主義経済の行き詰りを反映しているのかも知れないが、『世界にはリスクテイクする人もいるし、オンリーワンよりナンバーワンを目指す人も沢山いる』。3年、10年後の自分ではなく、世界を考えるのは大事なことだ」と日本の若い人たちの将来を心配している。


 僕は『余計なお世話じゃないか?リスクテイクしてないのは、年寄りだって同じだろ』と思うし、『それってZ世代の責任か?』と思うが、ともかく部長は僕から後輩がどう見えるか聞きたいらしい。僕だってZ世代の端くれなのだが、帰国子女だからか、部長から見ると違うらしい。まあ、ちょうど焼肉を食べたかったし、奢って貰えるならと、部長の愚痴を聞くことになった。


 ***


 というわけで、定時後、品川の焼肉屋さんで部長と飲んでます。


「RPA (Robotic Process Automation)を導入すれば生産性向上や業務効率化ができます、って馬鹿じゃないのか?RPAは魔法の杖か?ずっと変わらない業務ってどんだけあんだ?」


 さっきから部長が嘆いているようだが、良かった、ビールと焼肉が美味しくて気にならない。部長だって「急ぎの仕事なんてどうせ上が騒いでいるだけなんだから、聞き流しておけば良いんだ」って言ってたよな。そうだな、目の前のことなんてどうでも良い、聞き流すべきだな。中長期的に重要なことに地道に取り組むことの方が大事だ。そのためにも、しっかり食べておかないと。


『よし、部長には勝手に愚痴らせておいて、僕はビールと焼肉に集中しよう!』


「ロボットが出来る業務なんて、単純なルーティン業務だけだろ。複雑な判断が必要な業務は無理だし、業務の目的やプロセスなんて直ぐ変わるから、手直しを重ねるうちにプログラムも複雑になる。マニュアルも作成しておかないと、RPA化した部分がブラックボックスになる。結局、RPAを使った所は楽になっても、RPAの面倒を見るのが大変で、全体としてマイナスになるのが殆どだ」


「ITツールの活用以前に、現状の業務がまだ意味があるのか、今のままで続けて良いのか、あるべき姿を考えるべきだろ?」


「マニュアル化すれば、業務の効率化や属人化の防止ができます、だ?だったら使えないマニュアルのメンテナンスか、廃棄から始めてくれ!いや、会社の業務は家電製品じゃないだろ。読まれもしない、メンテナンスもされないマニュアルばっかり増やして何が嬉しい?マニュアルなんか作るより、業務の目的と誰が何時までに何をするのか、それを絶えず明確にして、詳細についてはOJTで引き継ぐ方が良くないか?」


「ペーパーレスや無駄な会議をなくすのは良いが、コミュニケーションやチームプレーも大事だろ?何でTeamsなんだ?」


「生産性を上げるにはJITだろ?『必要な時に必要なことを必要なだけする』、 Just in Timeで会話したり、状況に応じて協力しあったり、臨機応変に役割分担を変えたりする、チームプレーが大事なのに、リアルタイムでチームの顔が見えなかったら、チームプレーなんて出来ないだろ!リモートワークで効率化、だ?ふざけるな!」


 頑張れ、部長!僕は、やっぱり、カルビーより、タン塩の方が好きです。

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