ドジは甘い味がするらしい

だらく@らくだ

○と×


「む……」

私は朝の教室で一人、蜂蜜の入った瓶を眺めていた。机の上には瓶が二つある、片方は三分の一ぐらい、片方は瓶の底にちょっぴり

見た目はただの蜂蜜だけどこれには秘密があるのだ。それはこの蜂蜜が失敗から生成された蜂蜜である事。ただそれだけだった

私は瓶をそれぞれ片手に持って、それを見比べて見た。

「こっちが綿郎しきろうのドジから出来た蜂蜜、こっちが私のドジから出来た蜂蜜」

私は自他共に認めるぐらいのドジだ。昨日も

道で転んで、テストの解答欄間違えて、水風呂に入って……だから蜂蜜もこうやって三分の一ぐらい出来る。問題はもう片方の蜂蜜、

これも同じくドジから出来たのだろうけどあの完璧人間な綿郎が私みたいにドジって?!

有り得ない、テストは開始十分ぐらいで終わってたし、道で転ぶ事は無いだろうし、水風呂……もある訳が無い。なのに蜂蜜はこうして瓶の底をゆっくりと滑っている。まるで海の波が時間を変えられたみたいに。どろりと

「おはよっーす」教室のドアが開いて、誰か

が入って来た。見ると、それは綿郎だった。

「相変わらず早いなあ、光羽は。よいしょ」

綿郎は自分の席の椅子に通学カバンを置いた

「で、蜂蜜なんか眺めてどしたよ」

「あ!これはその……」

「丁度いいや、その蜂蜜くれ」

「あ……ちょっと!」

彼はバックの中からラップに包まれた一枚の食パンを取り出すと、蜂蜜をそれに塗った。

しかも、塗ったのは多い方の蜂蜜、私のドジ

で作った方だった。美味しそうに食べるな!

「やっぱりこの蜂蜜美味いなぁ。一体どこの

蜂蜜なんだい?探しても同じ味が無くてさ」

「ま、ママが勝手に買ってくるから知らないの。ごめんね」

「ふーん……今度直接聞いてみるか」

「あ!それはやめ、マズイっていうか」

「ならやめとくか」

私は胸を撫で下ろした。ママだってパパだって知らないよ、ドジから蜂蜜作ってるなんて

バレたら家から追い出されちゃうかも……

「そう言えば綿郎さ」

「なーに?」指に付いた蜂蜜を舐める

「昨日……なんか失敗しなかった?」

「はぁ?」

「ほら、例えば道で転んだとかテストで解答欄を間違えたとかお風呂と水風呂を間違えたとかさ」

「それお前の失敗だろ!てか何だ?水風呂と

普通の風呂を間違えたって」

「うぐっ……お湯を出してたと思ったらずっと水を出してて入ったらすっごい冷たくて」

「アホッッ!!!」

綿郎の怒鳴り声に思わず私は縮こまった

「それにお前、昨日家に来た時さ」

彼はバックから何かを取り出し、私の机に置いた

「これ、忘れてっただろ」

「あ」

それは手のひらサイズのクマだった。そう言えばバックを探しても無いなとは思ったけど

「男の家でこんな可愛い物忘れるんじゃない!!この!超ドジ娘が!!」

「ひぃ……」

その時私は蜂蜜とクマにくすくす笑われた様な感覚だった


結局、綿郎のドジは判明しないまま一日が

終わり、私は学校の廊下をとぼとぼ歩いていた

「これじゃ明日は蜂蜜が瓶の半分ぐらい出来ちゃうかも……うぅ」

そんな事を呟きながら校門に向かっていると

「綿菓子坊さー」

「んー何?」

どこからか声が聞こえた。綿菓子坊とは綿郎の事であり、そう呼ぶのは一人しかいない

「したんけ、告白さ」

「ばっか……声がデカいよ」

隣のクラスの男子生徒、二郎だ。どうやらトイレで綿郎と何か話してるらしいけど

「で、結果はどうなったん?」

「そんなん顔を見れば分かんだろが」

「えーまた失敗したの?!」

告白……?綿郎、いつの間に好きな人が出来たのかな。失敗したって事はまさか

「光羽の顔見てると何か……言えないんだよ

好きだって。今朝も言えなかったし」

「えー?!」

こ、こっちもえー?!だった。頭の中で火山が静かに噴火したみたいな感覚だよ!

「全く……そゆとこはドジ何だから」

「うるせぇな……しょうが無いだろ」

つまり……あの蜂蜜の正体は……ああぁ……


夜、寝る前にまた綿郎の蜂蜜をベッドで眺めていた。まさか綿郎が私の事好きだったなんて。道理で最近、ボディータッチが昔より減ったなぁとは思ったけど。綿郎がね

蜂蜜の瓶をぐるりと一回転、薄い黄色が光を食べてきらきらと輝いている。私への告白に

失敗したから出来た蜂蜜、味はまだ不明。

じゃあもし成功してたらこの蜂蜜は……出来なかったのかな?

「お前、下手したら生まれなかったからな。

感謝しろよー」

私は瓶の蜂蜜にだらしなく言った

しかし、告白された時の返事を考えなければ

と思うが、そんな時にも蜂蜜は生み出されそうなんだよなぁ。本とかに書いてあればいいのに……はぁ

この蜂蜜、どんな味がするんだろう?

気になった私は瓶の蓋をゆっくりと開けた。

鼓動が早まる、誰とも手を繋いでるわけじゃないのに。そして、傾けた瓶に人差し指をそっと差し入れ、蜂蜜を付けた。

口にそれを入れると……味は

「普通の蜂蜜じゃん」

余りに普通だった。そう言えば自分のドジから出来た蜂蜜を舐めた事はあったが、他人の

は初めてだった

「でも……不思議と舐めたくなるな」

私は蜂蜜が大好きだ、クマでは無いけど舐め出すと止まらなくなる。パンがほしいな

「光羽、綿郎くんから電話が来たわよー」

マ、ママの声だ。多分こっちに歩いてくる。早く蜂蜜隠さなきゃ

「光羽……?」

「あ」

部屋のドアが開き、蜂蜜の瓶を抱えた私とママがばったり視線を合わせた

「ちょっと!それ蜂蜜じゃないの、歯磨きした後に甘いものはダメだって言ってるのに」

「ごめんなさい……」

無様にも蜂蜜を取り上げられ、もう一度歯磨きする羽目になった私であった



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