第46話 番外編 怪異と古川祥一郎とアオの日常 真白の羽ばたき 2
「僕がいなくなったら父さんの後継が兄さんに決まるって、刀で僕を切りつけたんだ」
継羽紗はその時のことを思い出したのか、体を震わせて涙を溢した。
「馬鹿馬鹿しい。兄さんがそんな性格だから後継にするのためらってるのに、思い違いも甚だしいよ」
羽瑠夏は継羽紗の肩をそっと撫でた。
「怖かった。僕はもう、あそこに居たく無い。兄に関わらず誰もが僕達を色が違うだけで馬鹿にする。母さんは少し髪の色が茶色だって理由でだよ?あそこを出て、母さんとどこか遠くに行って暮らしたいんだ」
「でも、お前身体弱いじゃないか。二人きりでは暮らしていけないだろ?」
「そうなんだけど」
古川は黙って聞いていたが徐ろに言った。
「そもそも引きこもっていたお前が悪い。自分でできるだろ、身体鍛えるなんて!片羽切られても此処まで飛んで来れたんだ。やればできるんだよ」
二人はびっくりして古川を見つめた。
「ここで稲荷神社の神使二人も修行させて強くなった。お前も暫く此処にいれば?強くなるぞ」
うっそりと古川は笑った。
「僕は強くはなれないよ。羽も治るかどうかわからないし」
「葵光丸様に傷を縫ってもらったんだろ?それに継羽紗が作った薬湯飲んだら大丈夫だよ!また飛べるようになるって」
羽瑠夏は精一杯励ました。
古川は笑顔のまま言った。
「そんな悠長な事言ってる場合か?強くならないと、もう直ぐ死ぬかも」
「「えっ⁈」」
「お前のお兄様が子分連れて来ている。今度こそ死ぬな」
「そんな!」羽瑠夏は半泣きになった。
「腹を括れ。自分自身を強く頼れ」
古川は継羽紗の額をつんつん突いた。
継羽紗は口を引き結んでじっと古川を見た。
「ほら、行くぞ!立て」
「駄目だよ、継羽紗は重症なんだよ」
古川は継羽紗を布団から引っ張り出すと、無理矢理立ち上がらせ、外へ連れ出した。後ろから羽瑠夏が止めようとしたが、吸血鬼の力がまだ強い古川には二人がかりでも勝てなかった。
外へでると天狗達が次々とやって来ていた。
「性懲りも無く現れたな、天狗!見返りは持って来たんだろうなぁ?」
結界の直ぐ外にまで来た十人ほどの天狗達に凄んで見せた。
その中の一人、鼻から上を天狗面で隠し、金糸が入った上等の小袖に袴姿で髪を長く伸ばした天狗がせせら笑った。
「小判で良ければ持って来たぞ。早くその白いのを寄越せ」
懐から小袋を出した。チャリチャリと金属が擦れる音がする。
「直ぐ金に頼るとは情けないやつだ」古川はせせら笑った。
「何だと?お前が言い出したんだろ!」
「コイツが兄か?」古川は継羽紗に首だけ振り返った。
「そうです。
「お前に兄と呼ぶ資格はない、色無し!」
「僕もあなたの事はどうでもいいです。僕は遠くへ行きます。後継とか興味もありません。見逃して下さい」
継羽紗は深くお辞儀をした。
「お前がそんな事する必要は無いよ」
羽瑠夏は継羽紗の肩を掴んで首を振った。
「遠くに行くんなら死ぬのと変わらんだろ!」
射干羽は酷薄に笑った。
「母と暮らしたいので死にたくはありません」
気丈に言い返した。
古川は割って入った。
「面倒臭いな!ここでする話か?天とお前達で話せよ。僕は全く関係無いから、迷惑料としてそれは置いてけ」
射干羽は呆れて言った。
「金だけ取って渡さないと言うのか?がめつい奴め!しかも5人も殺しかけといて関係無いだと?」
「お前は継羽紗を殺そうとしたくせに」
「天狗一族に軟弱者の色無しは必要無い。親父がとち狂って女に産ませた子供に後を継がすような名前付けやがって!」
古川はにっこり微笑んだ。
「ふふっ、つまり、お前は、それ以下の価値しかないのさ。気付けよ、馬鹿天狗ねばねば!」
射干羽の顔が怒りで真っ赤になり、手を振ると錫杖が現れた。
「殺す」
錫杖を古川の結界に叩き付けた。結界がそこから砕け散る。
そのまま突っ込んできた。
「兄さん止めて!人間を殺めてはいけない!」
継羽紗は咄嗟に脇差しを出すと古川の前に出ようとした。
二人の前にいた古川の姿がふっと消えた。
「え?」
次に見た時、射干羽の身体は空中で古川の伸びた爪に刺し貫かれていた。
古川が一瞬で射干羽の所まで飛び跳ねて刺したのだ。
地面に着地して、爪が刺さったまま宙ぶらりんになった射干羽の身体を、無造作に投げ捨てた。
残りの天狗はいつの間にか複数伸びていた金色の手でそれぞれ首を絞められている。
「後継候補でもこんなものか?自称なだけに、思ったより弱いな」
「古川様、あなたは人間では無いのですか?」羽瑠夏は恐々尋ねたが古川から答えが無い。
「咄嗟に爪伸びちゃったよ。切るの大変なのに」
「古川様!」継羽紗が思わず叫んだ。
「何だよ⁈」
古川は二人の方へ振り返った。
「キャー!!」
金色に光る目で睨まれて、天狗二人は抱き合って悲鳴を上げた。
「そんなに驚くことか?爪なら誰でも伸びるだろう?」
「伸びません伸びません」二人はブルブル首を横に振った。
「古川様、目の色も変わってますけど」
あー、それもか、と古川は呟いた。
「前に吸血鬼に噛まれてから、偶にその能力が出てしまうんだよ。さっきは爪じゃなくて力を叩き入れるつもりだったのに、勢いで両方叩き込んでしまった。死んだかな?」
「そんな!兄さん!」「吸血鬼…⁈」
二人は思わず射干羽に近付いて様子を調べた。
「良かった、息してるよ」羽瑠夏が泣きそうな声で言った。
射干羽は白目を剥いて気絶していた。服を脱がせると力を叩きつけた大きなアザが胸の真ん中にできていた。爪自体は細かったので貫通はしていたが致命傷にはならなかったようだ。
古川は射干羽には見向きもせず、二人を羨ましそうに見た。
「お前達も、葵光丸も、何も無いところから武器出すよな。ずるいぞ」
「古川様は武器要らないですよ。その爪があるでしょう」
「その方が格好良いじゃないか、どうやるのか教えろ」
「言うのは難しいですね。小さい頃に父さんが武器を選んで術をかけてくれるんです」
「怪異のみの能力か」古川は残念がったが、小判の入った袋を見つけたのでちゃっかり拾った。
「おーい」
「弱々って言う割に、継羽紗も脇差出して、僕を庇おうとしてくれたじゃないか。お前は勇気もあるし、身体も弱くない」
「おーい」
「もっと鍛錬すれば強くなる。自分を卑下するな」
「はい、古川様、頑張ります」
「こらー、皆を離さんかー!」
「ん?」
上を見ると飛んでる天叔父が怒鳴りながらこっちへやって来た。
と同時に古川は先ほど首を絞めたまま、中空で留めている天狗達をやっと思い出した。
「しまった、忘れてた」
と、思わず手を消してしまったので、捕まっていた天狗達はそのまま落下していった。
「何をしとるんじゃー」
仕方なく下に柔らかい結界を張って衝撃を緩和させた。
慌てふためく天叔父と、次々に地面に転がってくる天狗達に恐れ慄く二人を前に、微笑みながら泰然と構える古川は対照的だった。
その横にアオと葵光丸が現れた。
「ごめん、天叔父と入れ違いになっちゃった。来てる?えっ!天狗達なんで寝てるの?祥一郎また血塗れになってる。あれ?爪も伸びてる。目も金色だよ?最近やっと治ったのに」
「それだけわかったら、もういいだろ?説明面倒なので帰る。爪切ってくれ。後片付けよろしくね」
古川は継羽紗達を連れて家へ戻ろうとした。
「大人しくしててって、言ったよね?」
アオはガックリして言った。
「端金で継羽紗売れって言うから、仕方無く」
「それなら仕方ないか」とアオはため息を吐いた。
天はようやく到着すると怒り出した。
「アオ、古川に甘すぎるぞ!金寄越せって言ったのコイツじゃ!あ⁈何だその懐に入れとるのは!」
「これはネバネバから貰った。天叔父にも別に請求するからな。お前がさっさと来ないから、神聖な地を天狗の血で穢しやがって許さん」
「え、それは古川様が」
「何?」キラッと金色の目が光る。
「いいえ、何でもありません。僕達が悪いのです」二人は古川にすっかり萎縮し切っていた。
そうだ、そうだろうと古川は満足そうに頷いた。
「あの…」後ろで女の人が声を掛けた。
「母さん!」継羽紗が叫んだ。
「そうだ、亜耶さん連れて来たんだった!」アオが亜耶の手を取って継羽紗の元へ連れて来た。
「良かった、無事だったんだね」
「継羽紗、怪我は?」
「葵光丸さんに縫ってもらったし、薬湯飲んだから」
「無理しないで。顔色が悪いわ、休ませてもらいましょう」亜耶はそっと縋って泣いた。
取り敢えず四人は家の中に入った。
古川は玄関から部屋に入るとバッタリ倒れた。
「古川様!!」
「この事言ったら殺す」
古川は呻くように言うと、直ぐ寝てしまった。
「え、どう言う事?」
三人が慌てているとアオがやって来た。
「また、こんな所で寝て!風邪引くよ!」
アオは古川に付いた血を拭き取った後、布団を敷いて運び、要領良く着替えさせた。
「あの…これは?」
アオは古川に布団を被せるとにっこり笑って言った。
「良くあるんだ。全力出すから力切れで寝ちゃうんだよ」
言う間にアオの目が赤く変わった。「え?」
「でも、この事誰かに言ったら酷い目に遭わすよ?」
「言いません!!」
三人は抱き合って震え、継羽紗は空元気が無くなって、また寝込んだ。
亜耶は継羽紗に付き添い、アオと羽瑠夏は外へ手伝いに行った。
首を絞められて気を失っている者のうち何人かは二人で両肩を支えて持ち上げ、飛んで帰っていたが、人手が足りないので、アオが繋いで応援を呼んだ。
天狗達が去った後は、残った羽瑠夏が神殿の周りを掃き清めた。
それから1週間後、天叔父がやって来た。継羽紗は羽ばたく練習をし始めていた。
「この子は羽が真っ白で天狗らしくないと言われて、天狗を継いでるんだ!と名前に込めたのだが、射干羽の誤解を生むとはな」
「紛らわしいんだよ!」
「そうか。でも族長の後継は息子とは限らんし、そんなに思い詰めてたとは知らなんだ」
「あの取り巻きは?」
「射干羽の母の実家の一族でな。前から増長して手を焼いておった」
「え?つまり、ネバネバと継羽紗は異母兄弟⁈」
「そうじゃが、ネバネバじゃない、射干羽じゃ!」
「どっちも似たようなもんだ」
古川の言い草に諦めた天叔父は、継羽紗の方を向いて尋ねた。
「お前はこれからどうしたい?射干羽にはきつく言っといたから、もうお前を襲うことは無いだろう。傷が良くなったら帰ってこい」
継羽紗は首を横に振った。
「僕は、もう帰りたくありません。元々一族の中でも疎まれていたし、射干羽にも会いたくない。外へ出たいです。母も付いて行くと言ってくれました」
天叔父は苦しげな顔をした。
「亜耶には苦労をかけた。継羽紗の事で自分を責めて、ワシにも申し訳ないと何度謝られたか。無用な情けをかけてしまったワシが一番悪いのにな」
「亜耶さんは奥さんじゃ無いのか⁈」
「あの色のせいで一族は認めてくれなんだ」
「どう仕様も無いな。でも、お前達外で暮らすって人間社会で暮らすのか?羽隠せる?」
「まだ、できないですけど修行します」
天はうーんと唸った。
「じつはな、葵光丸の所はどうだと思ってな。あそこならワシも安心だ。ここは狭いし、人間が来るから落ち着かんじゃろ。これ以上古川殿の世話になるのも癪に障る」
「ふふふ、本音が出たな。狭いのはこっちも我慢してるんだ。宿泊料も請求しようか?」
古川は天叔父と睨み合った。
「ははは」天叔父が先に折れた。
そして懐から直径10cm位の透明な丸い玉を取り出した。
「水晶だ。磨いたのはワシじゃが、いい物だ。受け取れ」
「現物払いは…」
「まあ、持ってみろ」
古川が渋々受け取ると、水晶の中心が淡く七色に光り出した。
「ついでに力の状態がわかる。お前さん、腹黒なくせに力の色は綺麗じゃ」
「腹黒は本当だが、怪異に言われたく無い。この光は状態で変わるのか?」
「おう、開き直りおって!力の調子が悪かったり少ないとあまり光らん。今のお前は絶好調だな」
「アオとか真っ赤や真っ黒になるのかな?」
試したい、と古川はにっこり笑った。
「貰うよ。毎度あり!」
「兎にも角にも、ありがとう古川殿、継羽紗を助けてくれて」
「捨てるつもりだったがな」
「やっぱり返せ」
「やだ」
ふざけて獲り合ってると、古川はつい、天狗の面の鼻を掴んでしまった。
「あ」「うぬっ?」
面を結んでいる紐が緩んで天の顔からズレた。
何気に素顔を見た古川は思わず叫んだ。
「なにぃ!この男前⁈お面と全然違うじゃないか!」
「え、いや、その」
「鼻は普通じゃないか!」
どちらかと言うと高いがすーっと鼻筋が通っており、日本人離れした彫りの深い顔だ。
天狗の面とは少しも似ていなかった。
「このお面は祖先から伝わる物だ、離せ壊れる」
「詐欺だこんなの!」
「これで視線を遮ってるのに、ワシの目を見ても何ともないのか?」
「青っぽい目だなと思うが特に何も」
「ならいいが、人や時に怪異によっては幻覚を起こさせるんじゃ」
「え、皆それでお面してるのか」
「うむ、まあ、今では普通の目の者のほうが多いが」
「じゃあ、要らないだろ」
「下界へ行く時や祭り事等では必ずつける決まり事じゃ。女子供はそうではないが」
「要らない真実を知ってしまった。声を大にして言って回らねば」
古川は天狗の面の鼻を掴んで振り回した。
「こら、やめろ」
今度は天狗の面の奪い合いをしだした。
「何遊んでるんだ!天叔父も祥一郎も!僕と葵光丸が家の準備してたのに!」
アオが葵光丸と帰って来た。何故か葵まで付いて。
「葵光丸様、この度は一族の事であなたにまでご迷惑をお掛けして」亜耶は二人の後ろで切羽詰まった様子で言った。
「あー、止めてくれ。俺達は昔からの馴染みなんだ。遠慮や詫びは要らん」
亜耶は涙を溢しながらも
「お世話になります」と頭を下げた。
葵は継羽紗の元へ行くと、珍しく自分から声を掛けて
「何も遠慮しなくていいからな。ウチの親父は鈍感だから、言わなきゃ気付きもしねーから」と助言していた。
祥一郎はアオに
「これ、天叔父に貰った」
とだけ言って天からの水晶玉を渡した。
「わあ、水晶?綺麗だね」
と透かしてみたり、覗き込んでいたが、水晶は透明なまま何も変わらなかった。
「あれ、てっきりドス黒くか、赤くなると思ったのに」
「あ、死んでる者には反応しないかも」「なーんだ」
「え、何?何か害があるの?」
とアオは怖がって投げるように古川に返した。
「持った人の力の様子がわかるんだって」
虹色に光り出した玉にアオは目を丸くした。
「祥一郎の力って、やっぱり凄い!」
暫く眺めていたが「死んでるから、か」アオは悲しそうに言った。
「忘れそうになるけど、僕死んでるんだよね。何十年も前に」
「まあ、今は残滓だな」古川は苦笑した。
「何でもいいや、祥一郎の傍にいられるなら」
アオは葵光丸と継羽紗達を送って行った。
その後も継羽紗は古川の所にしょっちゅう来たので、いつも通りこき使っては少し教える修行をさせた。アオの同情の眼差しを受けながら継羽紗は真面目に頑張った。
それから半年後…
「どういう事じゃ!」
天が珍しく面を外して葵光丸に詰め寄った。
ついでに来た古川は、横でゲラゲラ笑っている。
二人の前には小さくなっている葵光丸と亜耶がいた。
「やる事やってたら、当然だ。葵光丸、節操無さすぎ!」笑いながら古川は歯に絹着せずズバリ言った。
「その通りじゃ!どうするんだ!子供ができただと⁈」
天は天狗の面のような赤い顔で怒鳴った。
「そんなつもりで預けたんじゃ無いぞ!」
葵光丸は真面目な顔になった。
「俺達は真剣に想いあっている。夫婦になる」
「略奪愛だー。2回目だぞ?少しは反省しろよー」
古川はヒーヒー笑いながら揶揄った。
「いや、亜耶も俺の事を…だよな?」
少し遠慮がちに確かめた葵光丸に、亜耶は頷き、膝の上で拳を作っている葵光丸の手の上に自分のを重ねた。
「はい、葵光丸様の優しさに心打たれました。この方と子供達も一緒に生きていきたいと思ってます」
はーっと長いため息を吐いて、天叔父がぼやいた。
「つまり、ワシは振られたのか」
「ごめんなさい」
「やーい、情けないなあ、族長の癖に振られて」
「うるさい、黙っとれ」
古川は笑い過ぎて痛くなってきた腹を摩りながらニヤニヤしている。
「うわあ、お世話したい!性別とかわかるの?」
アオは嬉しそうにはしゃいでいる。
「わからないけど女の子がいいです。お兄ちゃん達が可愛がってくれそうなので」
「女の子!いいね!」アオはうっとりしている。
「僕はどっちでも可愛がるよ」継羽紗は勢い込んで言った。
「俺も、もちろんだ!一番上の兄として責任が有る」
葵は嬉しそうに、偉そうに言った。
「お前まだ3歳だろ!継羽紗の弟だ」古川が突っ込んだ。
「鬼ならもう大人だ!」
「いいよ、僕が弟でも。どっちもお兄ちゃんになるんだから。楽しみだね」
継羽紗は母が幸せそうで嬉しく思った。
古川がじっと亜耶の腹を見た。
「天狗と鬼の子ってどんなんだろ?それは興味ある。くるくる回る二つの不思議な力を感じるよ」
「そうなんですか!実際生まれてみないとわかりませんね。初めてですし」
「どっちでも親から愛されるなら良いよね」
古川は寂しそうに言った。
いつの間にか傍にやって来たアオは古川を抱きしめた。
「僕は祥一郎が何者でも大好きだ」
「はいはい。怪異や悪霊からは好かれる僕だから。もう諦めた」
本当は両親からの愛情が欲しかったのかもしれない。長い年月で親とも関わっているが、その世界で色々な反応をされた。
愛情がわからず、ずっと他人のように接してきたけど、寂しいのはわかった。
愛する事はできないが、愛して欲しかったのか。
古川は漸く両親の事を思い出す事ができた。
連絡してみよう。例え邪険にされても、この世界の親を何となく確かめたくなった。
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