第42話 番外編 怪異と古川祥一郎とアオの日常 真紅の夕暮れ 1


何か、騒ついている。



長く影を落とす夕陽が照らす中、古川が棟上げ式の祈祷の帰り道、ついでに夕凪の通学路上の怪異達を祓い飛ばしながら歩いていた。

怪異達がいつもの様に古川の方へ向かってくるのだが、密度が濃い。向かい風の様に流されてくる。


しばらく歩いていくと、原因がわかった。

100m位先に男がいて、それの近くにいる怪異が、一旦男に寄って行くのだが、次には慌てて逃げる様にこちらへ向かってくるのだ。


『迷惑な悪霊だ』と不愉快に思った。もう少し近くなってから祓おうか、それとも、ここから殺るか。立ち止まると身体の後ろにした右手に力を集める。


男はゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。

近付くと、全容が見えた。

身長はひょろっと高く180㎝位はあるだろうか。古川より明るい茶色の髪と、同じく金色に近い茶目。顔の造作は日本人と違って彫りが深い。



「ほお、珍しい人間だな」

男が呟いた。


古川の真後ろで。


「⁈」

そのまま抱きしめられた。


「何だお前?」手に集めた力を霧散させてしまい、古川は力を背中から後ろに放った。

なのに全く手応えが無く、古川の力は男をすり抜けて行く。

「私に相応しい伴侶だ」

「はあ?」


もう一度、今度は渾身の力を込めて振り向こうとしたら、襟を引っ張られて首筋に息を感じた。冷たい息に、ぞくっと悪寒がした。


がぶり。


そのまま首の根元に噛みつかれた。

「痛だあぁぁぁ!!!」

鋭い痛みに思わず叫んだ。

齧られたのではなく、尖った物が刺さった感じだ。


離れようと暴れたが、締め付けられた身体は動かない。更に刺さった牙のような物ががっちり食い込んで噛まれた方の肩が痺れてくる。

「〜〜〜〜!」

そのまま抵抗できずにいると、気が遠くなるほど力を吸われ始めた。


いや、血も吸われていた。

『極上の味だ』頭の中で声が響いた。


「吸血鬼?だと⁈」

叫んだつもりだったが、小さな掠れ声しか出なかった。

まずいマズイ!普段から貧血気味なのに、こんな事されたら…ますます身体に力が入らない。


これで死にそうになったら転移される!

この世界、吸血鬼のせいで終わり?嘘だろ⁈


古川はされるがまま首筋に冷たさと熱さと痛みを感じながら、なす術無くぐったりして意識を失った。




「祥一郎!祥一郎!目を覚まして!」

ふわふわと雲が浮かんでいくかのように、意識が上がってきた。

肩を掴まれて揺さぶられている。


『動かすな、気持ち悪いんだ、吐きそう』

相手に思念をぶつけた。

「ごめん!」

重い瞼を開けると祥一郎を抱いたアオと目が合った。

上に鳥居が見える。

「アオか…此処は、神影さんか?」

アオはホッとした様子で言った。

「そうだよ、良かった!祥一郎は鳥居にもたれて寝てたんだ。凄く顔色が悪いよ。貧血でも起こしたの?」


貧血?この頼りない感覚はそうか。それより??

「どうしたんだろう、どうしてここに居たのか、記憶が無い!」

古川は額を押さえた。

「ええー!どうして」

「何だろう、何があったんだ。あー、気が進まないが、後で催眠かけて聞き出してくれ」

「わかった。立てる?上で早く休もう」


結局古川は目眩を起こして立てず、仕方無く、止むを得ず、恥を忍んで嬉しそうなアオに抱えられて階段を上った。体力無いのが悲しい。


「家に居てテレビ見てたんだけど、遠くから神影さんに近付いていた祥一郎の気配が急に消えたんだ。暫くしたら下の鳥居の辺りで感じて、力がとても弱くなってたから急いで降りて来たんだ」

「気配が消えて、また現れた?アオじゃあるまいし」


家に帰っても古川は焦燥していた。何だろうこの違和感。今尚身体を弄られているような不快感。思わず身体を掻きむしりたくなる。


「アオ、早く催眠を」たまらず言った。

アオは慌てて首を横に振った。

「それは後!先ず休んで!力もかなり無くなってる…」

「力?…本当だ、何故?体調が悪いのは、そのせいもあるのか。仕方ない」


「布団敷くよ」

「何なんだ一体?」

布団に横になった古川は不満そうに目を閉じたが、意に反してすぐに寝てしまった。

顔色も悪く、疲労困憊の様子にアオも戸惑った。

「一体あの時何があったんだろう??」




夜遅くに古川は目を覚ましたが、辺りの様子がおかしい。真夜中で灯も付いてなかったので真っ暗なはずだが、やけに明るく見える。

「アオ」と呼ぶとテレビを見ていたアオが振り返った。

「あ、起きた?灯付けるね」

スイッチを押す音がした。

「うわ、眩しい」思ったより明るい光に目がしょぼしょぼした。


古川は無意識に目を擦ろうとして、驚いた。

「うわっ!何だこれ⁈」「祥一郎、その爪!」

両手の爪が30cm位の長さになっていた。


「あからさまにおかしい。そんなに爪切ってなかったっけ?」

ふざけて言うと、まじまじと手を見つめた。

爪は固く厚みがあり、先は鋭利だ。当たり前だが付け爪では無い。


「爪は4日前に切ってたよ。ヤスリかけてあげたもん」

何故本人よりアオの方が爪切りの日を把握している…いつもながら怖い。

「そうか。こんなに伸びる訳無いよな。取り敢えず、切ろう。不便だ。アオ、爪切りとヤスリ」

「はーい…ん?」


アオが古川を覗き込んでいる。

「何?キスでもしたいの⁈」

「いつもしたいけど、落ち着いて聞いてね」

アオが古川の両肩に震える手を置いた。


「目の色が金色になってる。力使ってないよね」

「目が金色?全く使ってない。どうなってんだ?」


アオが持ってきた鏡を覗くと、力を出している時の茶金色とは違う、透明に輝く金色で、瞳孔も白く変わっている。

「ひえー、明らかに人間じゃない。宇宙人みたいだ。見た事ないけど」

古川は何回か瞬きしたが、変わらず金色のままだ。


現状変えれるのは爪だけだ。

伸び過ぎて何も掴めず、不便でどうしようもないので、アオに片方の爪を切って貰って、自分で反対側の爪を切った。

普段より数倍分厚くて切るのも一苦労だった。


「うぇっ気持ち悪いっ」

そして軽いが目眩と吐き気が治らない。お茶は飲めそうだったので熱いのを少しずつ飲んだ。

「祥一郎の力は戻ってるけど、身体の中で勝手に渦巻いてる。それで不調が出てるのかも」


アオが古川の身体をあちこち観察して触りまくっている。

「気を付けないと、手足の力が異常に高い。今なら素手で何でも壊してしまいそう」

古川は身体をあちこち捻りながらアオの手をかわした。

「触るなって!手足の感覚がおかしいと思ってた!物理的な力も⁈よし、これで鬼にも勝てる」

「そんな事言ってる場合?」

「動揺を鎮めようと頑張ってる」

古川は右手を握ったり離したりしてふふっと笑った。

「精神は大丈夫そうだね。身体が落ち着くまで横になってた方が」


「元気なのは元気なんだが、まだクラクラするし、自分の身体なのに慣れない。ああ気持ち悪い。何故かわからない。構うなアオ、催眠かけろ!記憶が無いのが一番イライラする」

「うーん、止めといたほうが…まあいいか」


アオは深刻そうな顔で承知して、もう一度古川の目を覗き込み、催眠の力を強く注いだ。

古川が全く警戒してないので素直にかかり、上半身が布団に仰向けに倒れていくのをアオが素早く受け止めた。


古川は力無く半目になってぼうっとしている。

『目の色は変だけど、やっぱり可愛い』

思わずアオは軽く口にキスすると、「ん?」と呻いて古川が僅かに顔を顰めた。

『病院にいた時を思い出すなあ』

そのまま、あちこちにキスしたくなったが、古川は催眠が解けるのが早いので、布団の上にそっと寝かせると、我慢して質問した。


「祥一郎、今日は専務さんの紹介で棟上げ式って言ってたよね」

古川は少し考えた素振りを見せ、ぼんやり答えた。

「そう、無事終わって、お祝儀が意外に多くて。明日何かお菓子買おうかな、何が良いだろ?」

「祥一郎、それは後で考えよ?」

アオは笑いを堪えて更に聞いた。


「神影さんに帰ってたんだよね?」

「そう、帰っていて夕凪の登下校の道だったから、夕凪の為に怪異を祓って、祓って」

古川は目を閉じてしまった。

「祥一郎?祓ってどうしたの?次は?」

「…」


「痛っ!!」

突然古川は首筋を押さえて叫んだ。


「!!!」アオはびっくりして催眠を解いてしまった。


「そうだ!やられた!!首、首、ここら辺見てアオ!」

起き上がった古川は興奮気味に襟を緩めて首の根元を晒した。


何気なく見たアオがギョッとして言った。

「二つ丸く傷ついて、結構深くまで開いてて、そこから血がちょっと出てる!あ、襟が血で汚れてるよ…分厚めの襟の内側だったから気が付かなかった」

「もしかして」


「「吸血鬼⁈」」二人で叫んだ。


「うわっ」古川は貧血もあって、くらっと目眩がきて布団に突っ伏した。

「もうやだ、この世界はなんで変な奴等ばっかり関わり合いになるんだ。怪異でお腹いっぱいだ」

「本当に!あれ?変な奴等の中には僕も含まれるの?」

「そりゃそうだろ⁈変な奴等って言ったぞ。まともなの夕凪だけだ。良かった夕凪がいて。日常がかろうじて残っている」


アオは大きな溜息をついた。

「夕凪は友人で、僕は恋人だから良いんだ。今の発言は許す」

「いや違うから!どっちかと言えば逆だから。別に許しは要らないし」

古川は顔だけ上げると断固として言った。

「夕凪と恋人ではないよ、今の調子じゃ。僕の方がお世話いっぱいしてるし」アオは言い返した。


古川はどうでも良いことを言ってまた気を紛らわせている。

「それにしても!僕は死ななかったが、吸血鬼になったのか⁈怪異共から人外人外と言われ続けたが、遂に本物の人外と成り果てたか。昼間普通に歩けるのだろうか。」

「今、夜だからわかんないね」


「あと、何だ?コウモリになる?どうやってなるんだ?変身したら戻った時、裸か。それは嫌だな…」

「僕が服持って追いかける。それで、全部思い出した?」

「大体」古川は頷いた。


「変な外国人に、一瞬で後ろ取られて、私の伴侶に相応しいとか言われた。で、ガブッチューっと、力も血も吸われて気を失った。僕の力が効かなかった」


「だ、誰が伴侶だ!力と血を吸った⁈祥一郎の⁈」

「思いっきりな。死にかけて転移するかと思った」


一気にアオが殺気立って豹変した。


「吸血鬼の野郎!!ふざけるなあぁぁぁぁ!!!」

ギラギラと赤くなった目が不気味に輝き、噴き出た力が赤く渦を巻いて身体の周りにまとわりついてきた。


「早く殺りに行こう祥一郎!!!吸血鬼には銀の杭が、あとは十字架とニンニクだよね⁈」

「こらこら、鎮まれ悪霊。そうとは限らないよ。噛まれた時まだ日があったけど平気そうだったし、目にも止まらぬ素早さだった。そんな奴捕まえて刺せないよ」

言いながらアオの周りの邪気を手で祓う。

「そんな、嫌だよ。吸血鬼なんかに僕の祥一郎取られるの!断固抵抗して!殺って!」

「そりゃするけど、対策がなあ…」


「そうだ」アオが不意に元に戻り、ニヤリと笑った。

「助っ人を呼ぼう!今夜から祥一郎狙われるかも!ちょっと行ってくる」

「こんな時間にどこ行くんだ?」

アオは古川の返事も待たず、大急ぎで蛇腹を出すとどこかへ行ってしまった。


古川は暇になって吐き気が治まったので、何か食べようと冷蔵庫を覗いたら、りんごが入っていた。

よく力自慢のやつが片手で潰すやつだ。

力を試したい誘惑に負けて古川はりんごを持って流しに立った。


「せいっ!」掛け声と同時に物理的な力を入れて握りしめた。

ぶしゃ。

本当に軽く片手で潰れた。実に食い込んだ指の先に真ん中にある種の感触があった。慌てて残骸を口に入れてもぐもぐ食べた。りんごの汁が滴り落ちてきて、いつもよりジューシー!

吐き気も消え、普通に食べ物もおいしく摂取できるのに安心した。吸血鬼だから血だけとか嫌すぎる。

「あのヤロー!なんて事をしてくれたんだ」

手を洗って怒る。


いや、待てよ。これはこれで良いかも。お陰で非力返上だ。

自分の力を探ると違うモノを感じた。

この異物感は覚えている。あいつだ。追い出そうとしたがしつこく絡みつく様に離れない。

駄目だ、やはり本体を殺るしかないか。



どうしてやろうか、と考えていると、不意にその異物感が増幅して、気分が悪くなってきた。


「だいぶ馴染んだようだ。どうだ?調子は良くなったか」

あの男が急に現れた。


今回は反応でき、狭い家の端まで一気に後退した。

自分の跳躍力に内心驚いたが押し留めて怒鳴った。

「今度は何だ?吸血鬼みたいな野郎!」

男は笑って言った。

「元気でなにより。みたいじゃなくて、吸血鬼だ。そしてお前は俺の眷属になった」


「ふざけんな!僕は誰の下にも付かない!天上天下、唯我独尊だ!」

「それは何語だ?もう良いだろう。伴侶にしてやるから一緒に来い」

「もっと嫌だね!誰にも従わないって意味だよ!」唯我独尊をザックリ都合よく解釈した。

「中々意志が固いな。あれでは足りなかったか?来い!」


「ふぁ?」古川は気が付くと吸血鬼の前に居た。

「お前も催眠使うのか!勝手に操るな!!」

古川は力と物理の力を併せて思い切り相手の胸を両手で突いた。


「ぐあっ」男は飛ばされて壁に激突した。壁がメキッと音を立ててひび割れ、横にかけてたカレンダーが落ちた。

「こらー!僕ん家壊すな!借りてるんだぞ!」

「お前が押したんだろうが!」ふらふら前に出た男は口から血を流していた。

「お前、その力は何だ?」

「ふふふ、思ったより強かった。りんご潰すしか試してなかったから加減がわからん」


古川は助走をつけて飛び上がって今度は男の胸の辺りにに蹴りを入れた。

「だから常に全力で行く」

何か言い返す前に男はまた壁に激突したが、今度は壁が耐えきれず陥没して、男は中にまで入ってしまった。


気分はまだ悪く、頭がくらくらしているのだが、怒りの方が上回った。


「よくも、勝手に、血を、吸って、吸血鬼に、してくれたな!!」

古川は男を掴み出すと馬乗りになって頬を両手で交互に思い切り殴りながら言った。


「あー、手が痛いと思ったら血が出てる」

抵抗しなくなった男から離れて血まみれになった拳を眺めた。

「あいつの血もあるけど大丈夫かな?舐めたら治ったりして」

ぺろっと舐めてみるとあまり鉄臭い血の味はしない。

手に付いていた血を舐め終わると、本当に傷が治って綺麗になった。

「凄いぞ吸血鬼!!また殴れる!」

言ってから古川は首を傾げた。

「いや、違う、殴っても死なないよな。やはりグッサリ心臓をやってみるか。鉄の包丁しかないが」


古川は台所の包丁を持ってくると気絶している男にまたがり、躊躇無く真上から胸に突き刺した。

包丁は勢い余って下まで刺さってしまった。

「あ、しまったー、畳まで行っちゃった!しかも抜けない!てか、畳が血だらけだよ。どーすんだこれ?」

我に帰ると気分が悪くなってきた。


そこへ、葵光丸を連れたアオが張り切って帰って来た。

「祥一郎、ただいまー!助っ人連れて来たよー。え、何これ、壁が崩れてる!血が飛び散ってる!やだ祥一郎も血まみれ!」

アオは一人でパニックを起こしていた。


「落ち着け。状況説明ありがとう、アオ。僕は全く無傷だ。吸血鬼は壁に飛ばして、蹴り入れて、馬乗りして頬をタコ殴りして気絶させて、最後に包丁刺してみた」

「俺来る必要無かったな」葵光丸は溜息をついて言った。


「え、いないよ?」

「え?」

乱闘の跡と包丁が畳に刺さってその周囲は血塗れだが肝心の吸血鬼が居なくなっている。

「まさか、鉄の包丁で致命傷だったのか?でも灰も残ってない。僕は何と戦ったのだろう?」


「お前を噛んだ奴が来たんだろ?」葵光丸は少々投げやりになっている。

「そのはずなんだけど、確かに感触あったのに。それが吸血鬼の能力なのかな?」


アオは改めて家の中を見渡した。


「これ、片付けないと、寝られないでしょ?前に祥一郎から切り付けられた時思い出しちゃった」

「殺して死んだと思って欲しくて動脈かなんか切っちゃった時か。心臓も刺したし、お互い血塗れになったな、ふふふ」「ふふっ、ほんと。あの後服洗わせてごめんね」

「いいさ、洗濯場にいた奴にさせたから」


葵光丸は二人の会話について行けない。

「何だその状況⁈なぜ笑える?お前等仲良いのか悪いのかわからん。それで、何だこの凄惨な光景。俺でも戦さ場でしか見たことないぞ」



「助っ人葵光丸、片付け手伝え」

軽くシャワーを浴びて返り血を落としてきた古川は当然の様に言った。

「手伝う内容が違うぞ」

「細かい事は気にするな。包丁抜いて、壁の片付けを頼む」


「壁に大穴開いちゃったね」

アオは溜め息をついて穴を覗いた。

「ボードごと抜けた。明日直して貰おう。老朽化したという事で」

「すごく無理があるぞ。新しそうにしか見えないぞ」葵光丸は壁の断片を拾い上げて目の前の高さに持ってきた。


「あー、どうせなら血も消して行って欲しかった」

古川は漂白剤と雑巾を持って来た。雑巾であちこち飛んだ血を拭き取ったが畳に染み込んだのは全く取れない。


「かけちゃえ」

雑巾にたっぷり漂白剤をかけてそのまま血の上に落とした。

少し置いてから見ると、血が茶色になっただけだった。

「これでカレーこぼした事にできるかも」それを見たアオが思いついて言った。

「気持ち悪いから、ついでに畳も全部替えたほうがいいかな。吸血鬼に請求書を渡そう」


「何処にいるんだ?その、吸血鬼は」

葵光丸は文句を言っていた割には、壁の欠片をせっせとまめに拾ってゴミ袋に入れている。

「わからん。こっちの居場所は知られていた。でも、もう来ないでほしい。被害甚大だ」


「話を聞く限りは、祥一郎より吸血鬼自身が一番被害を受けている気がする。家壊したのも結局祥一郎だし」

アオが箒で畳を掃きながら突っ込んだ。

「加減がわからなかったから、全力出した。死んでないなら、どうって事ないだろ」

「絶対また来るよ!どうする?」


「一時的に引っ越すか。でも稲荷も竜のとこも、他人を巻き込んでしまうな。はあ、人外が人外に人外から遠ざけてもらうしかないのか。で、葵光丸、よろしく」

「そうくると思って、葵に客間を掃除させている」

「意外に気がつくな。明日畳変えて、壁の修理してもらって明後日行くか」

「そんな、悠長なことでいいの?」

アオは心配で気が抜けない。もうスポーツバッグに古川の服を詰め出した。


「待てって!」

古川はにっこりした。

「あんだけボコっといて次の日来たら褒めてやる。そしてまた返り討ちだ」

「何で普段非力な癖に容赦なく闘えるんだ?」

葵光丸は古川の貧弱な身体をジロジロ見た。


古川は笑顔のまま恐ろしい事を言った。

「僕は敵には全身全霊をかけて滅殺する気満々だからね。躊躇したらこっちが殺られる」

「お前と敵対しなくてよかった」

葵光丸はしみじみ言った。



何とか片付いて、へなへなと古川は座った。

「力無くなったのと貧血だ。もう寝る。後はよろしくお二人さん」


古川はさっさと布団に入って目を閉じた。

「もう寝ている。キモが座ってるな、お前の旦那さんは」葵光丸が感心して言った。

「旦那サン⁈」とアオはびっくりして、盛大に照れた。

「多分、また全開だったから失神に近い寝方だと思う」

「失神⁈ギリギリだったのか!そうは思えなかった」

「死んだら転移しちゃうから無理するんだよ。可哀想な旦那様」アオは早速言ってみて喜んでいる。


葵光丸は伸びをすると言った。

「外に居る。何かあっても出てくるなよ。ショーイチローを守れ」

「当たり前だ!ありがとう葵光丸」

「お前等のいちゃつく所なんざ見たかねーからな。見張っとく」


アオは早速古川の後ろに潜り込むと抱き寄せた。

ゆっくり少しずつ力を送る。

古川の身体の中で渦巻いていた力は放出された事で落ち着いた様だ。

古川の体の強張りが解けてくる。

「無茶しないで、祥一郎」ぎゅっと抱きついたが、古川は寝たままだった。

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