第41話 番外編 怪異と古川祥一郎とアオの日常 小さな世界 3

「じゃあ、我々が仲良くしたら神様は帰って来てくれるのですか?」

押さえつけられた一人が言った。

「もうこのままお前等全部祓って消してもいいんだぞ。神も心置きなく出て来るだろうよ。な、友吉」


「そうだね。そうも言ってたけど、やっぱり可哀想って。馬鹿な子ほど可愛いとか」

いつの間にか友吉の目が金色に輝いている。

「だから、祓うの止めてあげて」

「どうしようかなぁ。本当にそれでいいの?神様」

もったいぶって古川は小さい人達を見回した。


「もうしません、許して下さい。一緒にやっていきます」

「皆んなで反省して神様に謝ります。祓うのは待って」

よくわからないけど泣いているようだ。


ちっと舌打ちをしてから小川は力を治めた。

小さな人達に安堵が広がる。

「大変な神様を呼んでしまった。荒ぶる神様だった」

「恐れ多い」

白も黒も皆揃って土下座したようなので、少しは古川の溜飲も下がった。


「出してやったら?」

「うん、そうだね。神様じゃなくて貴方に謝ってるみたいだけど反省はしたようだし」

友吉は古川に言った。

「出してくれる?一体化しすぎて、どうすればいいかわかんないんだ」


「やれやれ、手間掛かる人ばっかりだな」

小川はそう言いつつも右の掌を友吉の胸に当てた。

「ほら、出てこいよ、皆お待ちかねだ」

グッと握ってから引っ張る仕草をすると、白いものが友吉の体の中から出てきた。


それは実体化すると、白い髪に白い髭の爺さんが現れた。

小さい人達がワッと声を上げた。

「神様、神様だ!」

「神様が戻られた」

「友吉の中にいらっしゃったなんて」


「すまんかったの、ちと放ったらかししすぎたようじゃ」

「全然僕と似てない!どうして間違えるんだ!」

古川は怒りで震えた。

「力で見てるからだよ。あなたは神の力を持ってる」

友吉が言った。

「そうじゃ、人が持つには過ぎた力じゃ。よく何とも無いな」

「知らないが大丈夫だぞ?神の力は最近手に入れたが、快適だ」

古川は似ていると言われても納得できなかったが

「観知帰るぞ」

と手を引っ張った。

観知はそれを振りはらった。

「ええっ嫌だよ。友吉優しいんだ。いつも遊んだり、勉強見てくれたり」


「帰ったほうが良い。僕はもういなくなるから」友吉は静かに言った。

「えっ!!」

「神様が居てたから、何とか持ったんだ。別になったら無理だよ。僕が消える前に帰らないと観知一人で此処に居なきゃならなくなる」

「そんな!友吉はどこへいくの?」

「わからない。輪廻に乗っかれればいいけど」

「嫌だよ、友吉に会えないなんて」


「お前は、一緒に帰るんだ!全く人の事心配してる場合か!お前のせいで此処の世界に穴が空きそう…あれ」


「祥一郎〜!」蛇腹が此方に広がって来たかと思うと赤い目をしたアオが鬼気迫る表情で現れた。

「よくも僕を閉じ込めたな!こんな所に逃げたって無駄だ!祥一郎の気配は消えやしないんだから!」


「丁度良かった、アオ」

「何?」

「此処から出るから連れてけ」

「え?出るの?」

「取り敢えず神社出て村長の所な。荷物置いてるし、こいつも連れていくぞ」

「お前さんは此処に残ったほうが良いんじゃが」

神様はおずおずと言った

「何でだよ!」

「その力終いに持て余すぞ。現世に災いをもたらすかもしれん」

「そんなの僕が居ても居なくても起きる時は起きる。気にするな」

「いや少しは気にしてくれ」


古川はアオに向かってにっこり微笑んだ。

「結界は最初からそんなに保たないようになってた。来てくれて嬉しいよ。そんなに僕のこと好きなんて」

アオの表情が一変して顔が赤くなり目が元に戻った。

「そんな、嬉しいなんて、思ってもいないくせに!」

古川は手招きした。アオが近付くと引き寄せて耳元で言った。

「じゃあ、後でアレやってあげるよ」囁くとカプっと耳たぶを噛んでから離れた。

「祥一郎、また、そんな、誤魔化したな〜」

アオは言いながらも想像してしまい、赤くなって照れている。


「ねえ、この人誰?」観知が唐突なアオの登場と態度に思い切り引きながら言った。

「僕に取り憑いてる悪霊」

古川がしれっと言うと

「「「「ええー!!」」」」」

その場にいた全員が叫んだ。


「え、退魔師なんでしょ?何で悪霊くっ付けてるの?」

ビクビクしながら観知は尋ねた。

「それがさ」とアオを指差した。

「こいつ強いんだよ。それで祓うのが面倒で」

「違うよ。一緒に居たいってお互い想いあってるんだ」

アオは嬉しそうに言った。

「あー、はいはい、そう言うことにしとこう。サッサと帰ろう」

否定するのも面倒になった。


「観知、元気でな。相手してくれてありがとう」

「そんな!僕だって、お父さんの都合でこっち来て、友達できなくて寂しかったんだ。友吉のお陰で楽しかったよ」

観知は泣き出した。


「なるほどね、それが此処に来た理由か」

「上代の血が入ってたから呼びやすかったんだ。彼らが家に道を作ってくれたし」

友吉は小さい白い人を抱き上げてよしよしと撫でた。白い人は見えないが得意そうだ。


「お前達が行った後は完全に閉じる。生贄も取らん。気をつけてな」

神様は手を振った。

アオは蛇腹を繰り出して向こうへ伸ばした。

「じゃ、行くよ。この上に乗って」

古川、観知、友吉が乗ると勢いよく滑り出した。

「わあ、面白い!」観知は楽しそうだった。


元の神社に戻って来た。古川は今回は力も余り使わず楽だったが、この後最後の仕事が残っている。

友吉を祓うのだ。


友吉と観知はお互い向かい合って両手を繋いでいた。

「同じ上代の先祖と言うだけで、観知を巻き込んで悪かった」

「そんな事無いよ。小さい人達可愛かったし。ねえそれより、僕の中に入って一緒に居られない?退魔師さんみたいにさ!」

観知は手を繋いだまま古川の方を向いた。


「お勧めできない。観知にどんな影響があるかわからん。精気吸い取られてしまうかも」

「でも退魔師さんは」

「わがまま言っちゃ駄目だよ。あの人は特殊なんだ」

友吉は寂しそうにでも、きっぱり言った。


「僕はまた生まれ変わって、そうだな、君の子供になるかもしれないよ?そうなったらまた、遊んで?」

「わかった。言う通りにする」涙声で観知は答えた。

「じゃ、祓うぞ」古川は素っ気なく言った。

「さよなら、また会おう!」

友吉は最後にそう言うと、古川が手を払うのに伴って消えていった。



「上代の家まで送るよ」

古川は観知の肩を軽く叩くと歩き出した。観知は一緒に歩いた。

「悪霊さんは?」観知がこっそり尋ねると、

「その辺に隠れてるから気にするな」

と適当に指差した。

一瞬手首を掴まれたが、何も反応せずに歩き続けた。


家に着くと案の定母親が飛んで出てきて観知を抱きしめた。

「良かった観知!帰って来てくれて。どこも怪我してない?気分悪くない?」

「大丈夫だよ、何ともないよ」

「どれだけ心配したか!」

「ごめんね、もうあっちには行かないし、行けなくなっちゃった」

「もう行かないで!母さん貴方が死んじゃったかと思ったんだから!」

「ごめんね、心配かけて、本当にごめんなさい」

親子で泣いているのを見て、古川はそっと家を出た。


「本当にあっちへ行けなくなってた」アオがやってきて言った。

「試したんだ」また閉じ込め先を確保しようとしたな?

「うん、蛇腹最大限強くしたけど跳ね返された」

「悪霊も神には敵わないか」

「単なる霊だし」

古川がアオを見ると泣いていた。

「僕、こんなだけど、生まれ変われるのかな?」


古川は微笑んだ。

「さあ?僕はそのまま何処かの世界にいる。もしできるなら生まれ変わって、探しに来れば?」

アオは泣きながら頷いた。


「じゃあ、祓って良い?」古川はにっこりして言った。

「まだ駄目!」即答だった。

「祥一郎が転移する時に祓って」

「えー、それどころじゃないよ。夕凪としっかりお別れしたいし」

「夕凪とは転移したら会えないの?」

「当たり前だ。此処とは違う世界なんだから、会う人も違うよ。同じなのは古川祥一郎と言う存在だけだ」


世界の誰もが、古川祥一郎が変わったことに気が付かない。


村長の家に戻ると、何故か騒々しい。

沢山の人々が家に居た。

「古川さん!聞きましたぞ!みんな帰ってきたと!」

「さすが古川さん、聞いてた通りですな」

「良かったです。もう神隠しは起こりませんよ。道を封じてもらったから」

「一体何故神隠しなぞ」


「あ!」古川は叫んだ。

「どうしました⁈」


「すみません、子供を攫ってた奴らの正体を暴けませんでした。あいつら一体何だったんだろう?」

「あいつらって?」

「なんか、すごく小さな白いシルエットの2頭身の生き物で普通に異界で生活してました」


「もしかして、しょうにん、さんでは?」

「何ですか?」

「そのまま小さい人と書いて小人さんです。村のお伽話に出てくる神のお使いです」

「それだ!やっぱり昔から居たのか!今回の事はソイツらのせいでした。神様が一時的に居なくなったので代わりを探して、その遊び相手として常時二人攫ってたのです」

「神様が居なくなってた⁈そ、それで今は⁈」

「帰ってきて、あの神社の奥の異界に居ますよ」


ざわめきが一層激しくなった。

「大変だ!神主に連絡して奉納を」

「こうしちゃおれん、すぐに手配を」

「村の者に、氏子連中に皆連絡を」

口々に言い合って、やがて潮が引くように人々がいなくなった。


村長は神棚に備えていた白い封筒を下ろして古川に恭しく渡した。

「この度のこと本当にありがとうございました。お陰で村にも活気が戻りました。後日神社で奉納の祭りを行いますので是非ともご出席を!」

「お気遣いなく。忙しいところ申し訳ないのですが、家まで送ってもらえるとありがたいのですが。少々疲れました」


「それは申し訳ない!すぐ連絡します。取り敢えずお菓子とお茶でも」「頂きます」


夫婦だけなので食べきれないからと上等なお茶菓子を大量に貰い、内心ほくほく顔で帰宅した。


家に入ると、途端にアオが後ろから抱きついた。

「お風呂の用意できてるよ。何か食べる?」

「ご飯はいい。風呂入りたい」

アオは嬉しそうに出て行った。


風呂から上がってトランクスの上にバスローブという格好で家に戻るとまたアオに抱きつかれた。

「頭拭いて」古川が文句を言うと上機嫌で拭き始めた。

「置いて行ったのに上機嫌だな」

古川が言うと

「ご褒美もらえるからね」

と顔を赤くする。

「ご褒美?僕から?」

「そうだよ」

アオの髪の毛を拭く手が止まった。

「まさか、忘れた?」

「え、何?」

アオはタオルを落とした。

「祥一郎、僕に、僕に、その」その後がゴニョゴニョいって聞こえない。

「何?聞こえないよ?」

「あ、あれしてくれるって」

「あれって?」


「この前、スイスイの祠でしてくれた、の」アオは真っ赤になって俯いた。

「あ、あれね。いいよ、布団敷いてよ」

古川はうっそり笑ったがアオはすぐ押し入れへ行ったので気が付かなかった。 


「じゃあ、裸になって横になって」

「え?何で裸?」

「上だけでいいよ」

アオはゴクリと唾を飲み込んで固まった後、古川の「早く」の声におずおずとシャツを脱いだ。

上を向いて寝ると古川が足の間に強引に入ってきて両脇の下に手を付いた。

すーっと古川の顔が近付いてくる。アオは焦って目を瞑った。

チュッと音を立ててキスされ、舌が入ってきた。夢中で絡ませて古川からの唾液と力を飲み込む。


古川の片手が頬から下に動いていく。ヘソを指で撫でられてぞくっとした。

首筋をぺろぺろ舐められた。


スラックスの中に手が入っていく。

「そこはいいよ!」

慌てて古川の名前を呼ぼうとしたら身体が動かない。


「アオは、下手なんだよ」口を離すと怪しい笑みでアオを見下ろして、手を怪しく動かし始めた。

「え、身体動かない、祥一郎、何触って…」

「こうしたかったんだろ?」

「え、あ、あ、祥一郎、これ、もしかして」


アオは古川の催眠にかかってしまい、硬直している。

「昨日アオがしてくれたでしょう?僕もやってあげるから、僕の前でたっぷり気持ちよくなってね」

「や、やだ、ごめん、許してえ」

「ふふふ、霊でも、ちゃんと感じるんだね?可愛いよ、アオ。もっと素直になって」

「は、恥ずかしいよ」


「わかった?昨日の僕の気分?葵光丸の言う事は絶対信じないようにね」

「わかったから〜やあん、それ駄目〜」

アオは真っ赤になって涙をこぼし始めたが、容赦しない。


古川はたっぷりアオを仕返しに弄んだのであった。

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