第33話 番外編 怪異と古川祥一郎とアオの日常 口の悪い竜とヤンデレ幽霊3
御前を堪能した後、スイスイが古川を気に入った事にして神主を下がらせた。
二人は緑竜の側に行く。
「葉っぱ、全力でスイスイを潰しにかかってたな。あちこち恨みを買うなんて、いったい何したんだ?」
「だーかーらー、誰からも買っとらん!」
古川は緑竜を見たが力が殆ど無くなっていた。これでは目覚めるのにどの位かかるのかわからない。
そこまで待ってられないので、いつもの手段に出た。
手のひらで力を練って凝縮させる。
「おい、何して」「起きろ!葉っぱ!」
ダン!と思い切り打ち込んだ。竜なので加減無しで大丈夫だろう、と容赦ない。
げぶっ。嫌な音がして緑竜はくの字になって黒い血を吐き出し、そのまま起き上がった。
「やっぱり何か憑いてたな?」
素早く後ろに下がった古川はにっこり笑った。
「?!?」緑竜は力を入れられた胸を押さえて呻いた。
緑竜は嫌な咳を何回もして、その度に中から黒い血を吐き出していた。
「大丈夫か?コイツの穢れやべーぞ!」
スイスイは思い切り引いていた。《《》》
「そのせいで僕らを襲ったんじゃない?」
「そうか、だよな、緑竜は穏やかな性質だって聞いた事が、誰からだっけ?イワか?」
「どこが穏やかなんだよ、締め殺されかけたぞ。祠壊されて良かったけどな」アオの監禁計画を潰せた。
「良いわけないだろ、俺の家…」
「あの、ここは、何処か聞いても?」掠れた声で緑竜がおずおずと言った。
「ここは、碧滝の
「水竜、スイ様?」
「そう、スイスイ!スイスイ、スイスイ…おい!これ解除しろ!」
「良いじゃないか、スイスイで。水曜日の水竜!」あはははっと古川が声に出して笑った。
緑竜は胸をさすった。
「岩竜の予備の神体を壊そうと、ここまで枝木を伸ばして。いや、何故私はそんな事を?」
「俺も居たんだけど」
スイスイは祠の事を思い出して不機嫌にぼそっと言った。
「怒りに我を忘れて、気が付かなかった。でも、そこをスイスイ様に反撃されたのだな、あの水と雷の威力は凄かった!」
「いや〜それ程でも」とスイスイは古川を横目で睨んだが笑顔で返されて尻すぼみになった。
葉っぱは古川の方を向くと
「先程はお主が力を入れたのだな?有難いが、かなり強引で痛かったぞ」
と胸を押さえた。
「葉っぱがいつまでも寝てるから起こしてやったんだ、文句言うな。そして、僕を襲うとはイイ根性だ。次やったら息の根止めてやる」
どんな竜でも容赦ない傲慢な態度で接する古川。
「葉っぱ?それって私の事?」
緑竜はあまりの呼ばれた名前の酷さに先程と同じようなショックを受けたようだ。
「私の名は葉っぱなどでは」
「葉っぱだ」
「私の名は、葉っぱ…」
『葉っぱ』と言う緑竜は完全に古川の催眠に嵌ってしまった。
「やられたな、葉っぱ殿、それで、どうして俺を襲ったんだ」
スイスイは苦笑しながら尋ねた。
「岩竜様を完全に消す為だ。スイスイが守ってる本体が祠に有ると聞いた。」
「何故イワを攻撃したんだ?アイツ良い奴だぞ?」
「私の宿木の有る木を岩で潰そうとしたからだ。今も木に伸し掛かって中で粘っている」
「宿木に保存用神体が入ってるのか?頼りないな」
「木の虚に入れていたのだ。その上から押さえ込まれた」
「アイツが理由も無くそんなことするかよ!」
「葉っぱが何かに取り憑かれて暴れて、それを通りかかったイワンコフが抑えようとしたら、酔ってて力切れ起こしたんじゃないの?」
「イワンコフ??」
「そうだ、葉っぱ殿は黒い血吐いてたな、大丈夫か?」
「取り憑かれた?黒い血だと?」
葉っぱは自分の周りに飛び散って渦を巻いている黒い血煙がやっと見えて悲鳴を上げた。
「何だこれは⁈」
血煙は次第に長くなり、三匹の黒い大蛇の形に固まった。
尻尾を細かく振って口を開いて威嚇し始め、今にも飛びかかりそうだ。
「これが穢れか!」スイスイが水を出そうとするのを古川は止めた。
「うるさいな、消せば良いだろ」
古川が右手を払うと、あっと言う間に霧散していった。
「お前、何者なんだ?竜に憑いた穢れを一振りで消すとかあり得ねー」
「退魔師だからね」
その一言ではスイスイは信じてなさそうだった。
「だからって強過ぎだろ、さっき俺に入れた力も神力混じってたぞ」
古川はうっそりと笑った。
「なるほど、まだ残ってたんだ、この前貧乏神から吸い出したんだ」
「そんな神いるか!」
「例えだよ。本当は元土着神だった神使」
「「神だった神使!」」
スイスイと葉っぱは同時に叫んだ。
古川は軽い調子で続けた。
「別の神使は消滅させて、ショボ神は殺してやろうと全部の力を抜いてやったつもりだったんだ。それごと僕の力も乗せて思いっきり潰してやったのに、まだ足りなかった。やっぱり神殺しは難しいね。まあ、次迷惑かけられたら必ず殺る」
両手をそれぞれ握って胸の前にかざし決意表明した。
横にいたはずの竜達を見ると居なくなっていた。
「あれ?」
上を見ると両方とも竜になって浮かんでいる。
二人とも5メートル位の大きさで、枝のような角が生え、ぎょろつく金色の目と鋭い歯の生えた口を持つワニのような顔は双子のように似ているが、スイスイは鱗が銀白色、葉っぱは茶色で、光が当たると緑色に光っている。
「取り敢えず、世話になった!イワを助けに行く。後は我々で何とかする」アオが早口で言った。
「「さらばだ!」」
声を合わすと、そのまま二人とも壁を突き抜けて去って行った。
「逃げ足早いな」
竜の姿も見れたとまた感激している神主に挨拶した。
神主は古川に、どのような霊験を積めば竜に気に入ってもらえるのかを尋ねられたが
「波長がたまたま合ったようです」と適当に答えて誤魔化した。
外へ出るとアオが少し拗ね気味だった。
「みんな、入れない僕を放ったらかしで!スイスイ達は僕を無視して凄い速さで行っちゃうし」
古川は自分に恐れをなして逃げたと気付いていたが、のんびり言った。
「急にどうしたんだろ?イワンコフはアイツらだけでどうにかできるとは思えないけど」
「これ以上祥一郎に迷惑かけたくなかったんだろうね」
「アオがスイスイ出してあげたんだから、約束は果たしたしな」
「葉っぱが来なけりゃスイスイ追い出せば済む話だったのに」
アオが残念そうに溜息をついた。
「もう、いい加減忘れろよ」
古川はうんざりした。
「その他の事はしなくていいのなら帰ろうか。美味しいご飯無料で食べられたし」
「僕何も貰えてない」
古川はアオにほら、と手を差し出した。
「一緒に帰るぞ」
それだけでアオは「祥一郎から手を出された」とジンワリ喜んで手を繋いで従う。
「アオ、単純すぎ」古川はふふっと笑って神社を後にした。
神影神社に戻ってきたら夕凪から神社の前にいるから会いたいと連絡があって、蜻蛉返りに勇んで降りた。
夕凪を見ると手に怪異を付けて泣いていた。
「どうしたの?階段上がって来たらいいのに」
「重くて一歩も入れなかった。友達に憑いてたのを手刀で切ったら自分に移っちゃったー」
「何故この怪異達繋がってるんだ?しかも長いね…」
「だから切ったのに」
片手の甲に怪異がくっついて長い列になっており、先が見えない。
クスクスと笑っているのを夕凪が恨めしそうに見る。
「切っただけじゃダメだよ、全部消さないと!」
古川は夕凪の憑いてる手をしっかり握ると力を入れた。
導火線の様に金色の光が伸びて怪異達を一瞬で消しながら先へと進んでいく。
具合を確かめながら力を送っていくと100メートル先位でやっと終わった。
夕凪はほっとして手を抜こうとしたが、離してくれない。それどころか反対側の手まで掴まれている。
そして口元へ持って行かれて、両手の甲に何回もキスされた。
「何するんですか!!」
古川はにんまりと笑った。
「怪異避けのおまじない」
「嘘ばっかし!!」
結局騒ぎを聞きつけてやってきたアオが嫉妬して夕凪を引き離してくれたので、夕凪はお礼もそこそこにさっさと帰ってしまった。
古川は「みんな薄情だなあ」
と言いつつ、ケロッとして階段を登っていく。
「夕凪はまだ子供なんだから、あんな事したら駄目だよ」
アオは不機嫌に言った。
「ああして、唾付けといたらもう二度とくっつかないし。さっきの中々強力だったよ?最後は切られて逃げられた」
「祥一郎から⁈信じられない!」
「ちょっと離れ過ぎたから届かなかったんだ。でも逃げた怪異、覚えがあるし」
「え?どこで?」
「葉っぱに憑いてた穢れの主、大蛇だよ。馬鹿馬鹿しいが、竜を真似たら長くなりすぎたようだ」
「こんな所までやって来たの?まさか、僕達を狙ってるの?」
「偶々と思いたい。追いかけるの面倒だから、やってきたら祓うよ。アオも一応警戒よろしく」
「わかった。祥一郎が寝てる時の監視は任せて」
「適当でいいよ。但し、僕で遊ぶなよ」
「夕凪ちゃんにあんな事しといて、よく言うね」
「それとこれとは全く別物だから!!」
この日は、葉っぱの攻撃を防ぐ結界と、回復の為に力を叩き込み、最後に夕凪に憑いてた長い怪異を消したので、やっぱり疲れていた。
夕飯は食べずに早々に風呂に入り、アオが敷いてくれた布団に横になった。
アオがうつ伏せになって両手を枕にしている古川の髪を拭いてやっている。
段々私生活が怠惰になっていく。
普段力を使いたくないと、アオに世話を任せることが多い。これと言うのもアオが尽くしたがりだからだ!
「スイスイ達、上手くイワンコフを元に戻せたかな?」
「その前に穢れの主に殺られるかもね」
古川は目を閉じて口をにんまりさせた。
「そんなに強かったの?夕凪に憑いてきたやつ」
「夕凪が離せなかった位だから、多分しつこいと思う」
アオはタオルを外すと、背中を軽く撫で始めると、古川は更にリラックスして息を吐いた。
「次は土曜日まで行かないの?」
「勿論。それまでには片付いているだろう」
「気になるんだよね、あの二人鈍臭そうだから」
古川は欠伸した。
「駄目だったら竜の蒲焼きが三人前できてるかもね」
「うわー、食べたくないな」
「気にするな、眠い…」
古川はうつ伏せのまま、すうっと寝てしまった。いつもながら寝つきがいい。
アオは普段警戒しているのに、横で無防備に寝てしまう古川が愛おしくて暫く背中を撫でていた。
気が済むと横に添い寝して古川の背中に手を回した。
『力が半分くらいになってる。使うとなると加減しないから』
この位なら一晩経たずに元に戻るだろう。
敢えてアオから少し力を入れてみると反発することなく吸収していく。やはりアオと古川は力の相性バッチリだ。
「んん」と古川が少し身じろぎしたが、すぐに寝息を立てる。多分気付いてないだろう。
今夜は出かけずに側に居た。古川と違って遠くの気配は探れないので、時々は怪異を警戒して神殿の上から辺りを見回したりしたが、何も現れなかった。
朝かっきり5時に目が覚めた古川は、珍しく横で寝ているアオを起こさない様に布団から出た。
「アオじゃないけど、嫌な予感がする。朝から鬱陶しいな」
身支度を整えていると、アオが慌てて起きてきて古川の後ろから抱きついた。
「起こしてくれたらいいのに!」後ろから古川の頬にキスをした。
「珍しく寝てたからさ。昨日力貰ったから疲れたのかと思って」
言いながらやんわりと引き離そうとしたが動かない。
「え、バレた?」
「?祠での話だよ?」
「何だ、それか。大丈夫だよ」
古川はアオの手をやっと解いて
「寝てる間に何かした?」と尋ねたが、「何もしてないよ」とアオは首を振った。
「怪しい」と古川は更に言ったが
「寝顔見てただけだよ」
と返す。嘘は言ってない。
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