第28話 番外編 古川祥一郎とアオの日常

〈登場人物紹介〉

如月夕凪

うっかり古川が祓い損ねた怪異に取り込まれそうになった時に古川に助けられる。

一般人だったが、古川と力の質が同じで、怪異にも多少免疫があった事が古川に知られて執着され、古川が転移するまでの「暇つぶしの時間」の相手になって迷惑を被っている。

古川の正体を知っても恐れずに同情している。

中学1年生。


古川祥一郎

退魔師。幼少時から霊や怪異が寄ってきやすい体質で、過去の修行や年月の積み重ねで強い力を持って祓うことができる。


古川祥一郎は並行世界に無限にいる古川祥一郎の一人だが、26歳までに不可抗力で別の世界へ転移して、その世界の古川祥一郎と入れ替わる人生をずっと続けている。


ある程度過去の事を覚えているが、自分の意識上の歳は数えるのをやめたので二百年くらいと適当に思っている。


死に至る状態に陥っても転移する。それを避ける為に自分に害意を持って近付くモノは全て消す、他人には興味を持たない、関わらないと言う信条だったが夕凪に会って初めて手放したくないと思った。


今いる世界の古川祥一郎は宗教施設にいたので逃走、無人の神社の管理者を催眠でだまし、身内と思わせてそこに住み、神主を代理でやっている。


古川祥一郎はどの世界でも全く外見や声は同じ。年齢はまちまち。乗り移る古川の記憶を受け継いでいる。

身体がインターセックスで名前から男性として過ごしている。性器が男女とも発育不全。太ると胸が出てくるので、それを嫌って素食で痩せ細っている。無性愛者。

18歳


鹿波 碧(アオ)

病(おそらく結核)の末期症状で、療養施設に入院していたが、死ぬと又入院した時に時間が戻り、それを繰り返す世界にいた。たまたま廃墟になっていた病院の世界(古川や夕凪がいる所)に行き来できるようになり、自分の世界を保つ為に人や怪異を呼び寄せて力を奪い、病院の維持要員としていた。

催眠が古川に匹敵するほど得意。空間を歪ませたり、世界を繋ぐ事ができるが長時間維持はできない。自分を実体化でき、一方で気配まで消せる。

古川に一目惚れし、縛られていたループする世界から古川の世界にやってきて、初めて自分が悪霊に近い霊だと認識したらしい。

今は古川に取り憑いている。元は優しくて我慢強い人間だった。ループ世界にいる内に、万能感に囚われ、勝手気儘な性格になっている。古川が全てで、彼の言う事はある程度聞く。

古川と力の質が同じで、古川がアオを古川祥一郎と間違えてしまった。

死亡時19歳だった。幼馴染にひ孫がいるところから、90歳超えてるはず…




古川とアオの日常生活


古川は毎日朝5時にパキッと目が覚める。


「お早う!」待ち構えていたアオが古川の上から覗き込んでいる。

最初顔をくっつくほど寄せているのに驚かされたが、もう慣れた。

と言うか口をくっつけてくる…

古川は毎朝「終わり!」と言って押し除けながら起きている。


アオは自分の居た世界では、昼間は散歩に出る時を除いてほとんど寝て、夜こちらの世界で活動していたので、丁度古川の生活と反対になっていた。

こちらでは病人ではなくなったので、別に眠る必要は無い。


入院してた病院でもこちらでも、身体は実体化できるので、自分が完全に死んでいると、どこかまだ納得できてない。

わざと浮いたり、障害物を突き抜けたりして、やっぱり霊だったと受け入れる過程を楽しむ?ことにしている。



古川は起床後、歯を磨いて、お茶を飲んで、着替えて外に出る。箒を持って境内と階段を掃き出す。

アオが居る居ない関係無い。


掃除ついでに古川が怪異を消すのを見てアオもやってみたが、長年吸収ばかりしてきたので、消すイメージができないのだ。

アオは周りを彷徨いて、最小限自分の維持する為の力を怪異から吸収している。


「吸収し過ぎると悪霊化し易いんだ」と説明すると

「アオ、既に悪霊だろ。何今更気にする?」

と古川のツッコミが入った。

「反省したので普通の霊です!人に迷惑かけないし、自我保ってる」

「アオの場合、普通って定義が幅広いな。普通の霊は神様脅さないぞ」

「ちょっとからかっただけ」


自我を失ったら即消滅させると、古川ははっきり宣告して、アオも納得している。

「僕が僕で無くなったら存在してる意味無いから」


掃除する傍らでアオは話しかける。

「朝ごはんは?」

「アオは要らんだろ」

「祥一郎のだよ。食べないの?昨日炊いたご飯そのままだったからお握り握ろうか?」

「そんなのできるの?」

アオは両手で握る仕草をした。

「いや、見た事はあるが、やった事は無い」

古川はくすっと笑って言った。

「後で一緒に作ってみよか」


アオは時代が「男子厨房に入らず」と家事が男性に推奨されず、溺愛された一人っ子なので家事全般ができない。今は機械が肩代わりしてくれる事が多いので、尽くしたいアオは古川の苦手な料理をやりたがる。


階段を掃き出すと、横に来たアオがいつも身震いする。

「はあ、この結界、祥一郎に包まれてるって感じがしていいな」

「気持ち悪いな。そのまま中に居たら消えるのに」


階段の上に展開しているのは怪異と霊を消す結界なのに、アオは敢えて中に入って堪能している。一回長居しすぎて消えかけているのに、懲りずに出入りしている。

「麻薬のようなモノさ」

「霊の考える事は理解不能だ」

ちなみに、稲荷神社の結界はアオには全く効果が無い。


掃除が終わったら、風呂場へ行って冷たい水を頭から洗面器で3杯被る。冬はつらいがシャキッとして感覚が鋭敏になるし、禊ぎは必要だと決めている。


バスタオルで軽く拭ってバスローブを引っ掛けて家に戻ってくると、アオが頭を拭く。

最初は断っていたが、催眠をかけ、硬直させてまでしたがる。

朝からアオに対抗するのに最大限に力を使うのは疲れるし、面倒になってされるがままになった。


アオに言われたので、残りご飯でおにぎりを握る。

具は坂木の奥さんに貰った梅干しや漬物など。


神殿の中も、もちろん掃除する。

アオは中には入れないので、部屋の掃除をしている。

神殿の中は昔からある独自の結界に加えて古川のもあり、二重結界が張られている。


途中で布団を干す。洗濯は二日に一回。


アオは洗濯機に興味津々で初めて見た時は終わるまでずっと覗いていた。電子レンジも同様だ。

冷蔵庫は氷を取り出して遊んでるが、よく開けっぱなしにするので古川に怒られている。

炊飯器も炊けた電子音にいちいち驚いている。


ガスコンロも、あらかじめ簡単に使い方を教えておいた。

何を思ったのか顔ををガスコンロの真上に置いて火を直接当てていた。平気なのはわかっているが心臓に悪い。変にいじられてガス漏れすると怖いので遊ばないように厳重注意した。

アオはやかんを火にかけてお湯を沸かす事を覚えたので、進んでお茶を入れてくれる。


掃除の後は、護符を作っている。

和紙に怪異避けの文言を書き連ねる。

お守りに入れる小さなのも書く。


アオは横でずっと様子を見ている。消えたくなかったら触らないよう言われてるので見るだけだ。


午後は祈祷や、退魔師の仕事を入れている。

無い時は必ず夕方に夕凪が通りかかる前に下へ降りて声をかける。

何か憑いてる時は、すぐに祓う。

ついでにスキンシップを一方的にする。


夕飯は6時頃。アオは食事を作るのに興味が出てきて、邪魔者扱いされながら下準備を手伝っている。

8時頃風呂に入って9時に寝る。


寝る前に結界を張り直していたが、アオが出られなくなるので止めている。

滅多に無いが大物の怪異が来た時は、アオが居れば知らせてもらうが、大概起きるので問題は無い。



古川が布団に入ると、いつもアオはするっと横に滑り込み、顔のあちこちにキスをして、抱きしめている。

力の質が似ているせいか、寄り添われても不快感は無くリラックスできるので、古川は抵抗せず、「おやすみ」と言ったら直ぐに眠ってしまう。


アオは自分に対する古川の性的反応が全く無いのが悲しいが、気が済んだら外へ散歩しに行く。


飽きたら帰ってくるが、その時は既に古川の寝相が悪くて添い寝できない。


乱れた浴衣をできる限り元に戻し、布団をかけ直した後は横に転がって古川を意識しながら、起きるまで微睡んでいる。


微睡む時間が長くなれば消えるのかな、となるべく起きてはいる。


一分一秒でも長く古川といたい。

何故そこまで好きになってしまったのか。


人の気配に最初に自分の病室だったところのドアを開けた時に、こちらに必死に走って来た古川を見た瞬間、衝撃を受けた。普通は逃げるのを催眠をかけて捕まえるのだが。


「古川祥一郎か?」尋ねられたあの時の切なそうな顔は忘れられない。

金色に光る髪と目。白い細い顔と顎。薄めの淡いピンクの口。自然光の元で見た髪と目は薄茶色だったが、雰囲気に合っていた。


病院に連れ込んでから、いつも不機嫌で尊大な口調、アオの具合を気遣いする時の平坦な言い方、どちらも好きになった。

こちらを向いて欲しくて催眠をかけたり、担当にさせたりした。

常に不機嫌だったが、次第に甘くなって、抱きしめたりキスまで許してくれた。たとえ憐憫でも嬉しかった。


死ぬ時間が近付いて、アオの願いに応じて側に居ると言ってくれた時、ループし始めて、ずっといて欲しい人になった。


請われて病院を出て、古川の世界で存在できた事は、アオの残りの人生(霊生?)を彼と過ごそうと決定づけるものだった。


古川が霊と怪異が嫌いで、面倒な事は避けるのは知っている。

アオを祓おうとしてるが妨害すると機嫌が悪くなるのに、完全に突き離したりしないし、話も聞いてくれる。

それだけでも嬉しい。


これからも古川とは一緒にいるし、彼の仕事も手伝いたい。



朝5時前に、最後の寝顔を堪能して、古川が綺麗な薄茶色の目を開けた瞬間にキスする。

「新婚夫婦かよ、はい、終わり!」とか古川はぼやきながら身を起こす。


また1日が始まる。

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