第27話 約束と友?

ザザッ。

よろめいて踏みしめた足元から砂利のような音がした。


古川はゆっくり目を開けた。

足元を見ると病院へ通じる脇道に立っていた。


恐る恐る振り返る。


廃屋となった病院だった。


「やった、帰れた、帰れたよ、夕凪!凄いだろ、やってのけたぞ」

思わず大声を上げた。

周囲を見ると行方不明だった者達が、目を擦りながら呆然と立っていた。誰も声を発さない。

全員連れて帰れた。

ぐるっと見渡してあることに気付いた。


手を繋いでいた筈の夕凪が、いない。


「夕凪、夕凪どこだ?」古川は真っ青になった。

連れ帰った行方不明者達の中に夕凪が見当たらない!


「嘘だ、夕凪、夕凪!」

辺りを探そうとした時、片手を握りしめて引っ張る感触があった。


「夕凪!」喜んでその方を見る。


アオが手を繋いで横に立っていた。

古ぼけた浴衣ではなく、白いワイシャツとダークグレーのスラックスの格好だ。

亡くなる直前の痩せて青白い顔付きではなく、普通の健康そうな青年だ。


「アオ、夕凪は?夕凪は何処?居ないんだ!夕凪も連れてきてくれたんじゃないのか?」

古川は激情のまま遂に泣き出した。泣くなんて何十年ぶりだろう。


「ヤけるな、そんなに夕凪を気にかけるなんて」

アオは静かに笑った。


「夕凪は僕のなんだ。僕の、だ」

構わずアオに必死になって言う。

「祥一郎、落ち着いて」

アオは古川の頭を撫でた。


「夕凪は僕が別に呼んだんだよ?今頃あの子を連れてきた元の場所にいるよ」


「本当に?」


「あの時は調子が最高に良かったから。夕凪は手紙を持ってもらってるんだ。一緒に連れてきたよ」


「ああ、良かった」

きまり悪そうな顔をして、袖で涙を拭うと手を握り返した。

「アオを信じて良いのか?」

「後で連絡してごらん」


周囲の人達も、最初は呆然としていたが皆して泣いていた。

「戻って来れた」

「辛かったよ」

「お母さん、御免なさい」

「帰りたかったよ」

「もう絶対廃墟なんかに行かない」

「肝試しもしない」


古川はずっとアオに手を繋がれていた。

「泣いた事、夕凪に内緒だからな!」

「分かってるよ。僕達だけの秘密だ」

2人は顔を見合わせて微笑んだ。


不意に手の感触が無くなり、アオの姿が消えていた。

気配も無くなり「アオ?」と呼んでみたが返事も無い。

まさかいなくなった?


口々にお礼を言われ、握手をしてきた皆を置いとくわけにもいかず、少し落ち着いたところで、連れ立って国道まで出た。

携帯を持っている者はいたが、揃って充電切れだった。通り過ぎる車を呼び止めて、警察に連絡してもらった。


最寄りの警察署まで護送車で行き、事情聴取の後それぞれ迎えを待って帰宅していく。

早速古川は夕凪に連絡して、こちらに居ることを確かめられてホッとした。


一月も向こうでは経っていたのに、戻ってくれば1日しか過ぎていなかった。

もちろん、行方不明者達はそれぞれ消えた日から現在までなのでまちまちだったが。


建設会社の専務に電話すると、喜んで社員2人と古川を迎えに来た。

アオが付いて来ているか、分からなくて周りをキョロキョロ見ていたが、専務に促されて慌てて車に乗り込んだ。


専務は半泣きでずっと古川に感謝の言葉を述べ、社員達にも謝った。

社員達も泣いて平謝りで、お互い止まらず、古川は運転が疎かになるから帰ってからにして下さいと苦言を言うほどだった。


一応他の元行方不明者達には彼方の世界の事は口止めするように頼んだ。

古川が皆を連れ帰ったが、原因となった廃墟病院の霊が今も古川に憑いている。

古川が抑えているが、余計な事を喋ると、また連れて行くそうだと告げた。あの場所は大切な場所だったから踏み躙られたくないと。


あの時端部屋で入院してた人だと告げると、アオは見覚えのある顔なので、恐怖で震えながら、もしくは泣いて言わないと約束してくれた。


そうして、やっと神影神社まで連れて帰ってきてもらった。

報酬や祈祷などの打ち合わせは後日にしてもらった。


移動でほぼ力を使い果たしたので、立っているのも辛かった。なんとか階段に残っていた気を使って階段を登り、家の中に入ったら、すぐに気を失った。



なんか、いい匂いがする。

古川はぼんやりと目を覚ました。


「あ、起きたよ?夕凪ちゃん」

「えっホント⁈古川さん!!」


古川が辺りを見渡すと、布団に寝かされており、夕凪とアオが両側から覗き込んでいた。


「此処って?」

「祥一郎の家だよ。玄関開けて入った瞬間倒れたんで、支えて家の中に入れて布団敷いて寝かせてたんだ」

アオはにっこりしながら答えた。

「僕も生前は非力だったけど、幽霊になったら力持ちになって、祥一郎を運べたんだ」

「1日寝てたけど、もうすぐ起きるってアオが教えにきてくれたから様子見にきたの」

「夕凪ちゃんの家の結界で入れなかったから外で待ってたら、とっても驚かれたけど」

「だって、また連れて行かれるかと思ったんだよ」

「ごめんね、もう二度としないから」


古川は安堵しながらも眉を顰めた。

「…なんでアオが此処にいるの?ここの結界は?さっき消えたはずじゃ」

「僕、謎に進化して、自由に気配も消せるようになったんだ。神社は鳥居の下と階段を避けたら何とか入れた。それでもきつかったけど、一日居たら慣れたよ。神殿は無理だけど」

「慣れる、ものなのか?僕の結界に弾かれずに入れたって?」

「弱くなってる所から入れたよ!僕と祥一郎の力の質はほぼ同じだからじゃない?若しくは僕の祥一郎への愛を結界が認めてくれたとか」

「自分で言ってて恥ずかしくないか?」

「ちょっと恥ずかしい。それよりさ、さっき、みんなに口止めしてる時、後ろで顔だけ出したんだけど気が付かなかった?みんな怖がってくれて、結構反応良かったよね」

「あの時一瞬だけ変な気配があったの、アオか!力が殆ど無くなって感覚が鈍くなっていたのかな」


「それにお願いした手紙の宛先人を探して一緒に行ってくれる約束でしょ?」

「ソウデシタ」もう忘れていた。

「まあ、僕も此処まで実体化できると思わなかったけど、祥一郎のお陰かな?」

物にも触れるよ!と布団をすりすりして見せた。


「いや、お前の力が凄いんだ。あの世界を維持し続けながら、みんなに催眠かけて思い通りに動かせたんだから」

「あはは、死ぬ前はいつも必死だったけど」アオは古川に言われて照れていた。


「あ、焦げる!」

夕凪は慌てて火を止めに行った。


「ねえアオ!今日位夕凪と2人きりにさせて」

古川はアオに当然とばかりに追い出しにかかった。

「病院相部屋にしてあげてたでしょ?いいじゃないか」アオは不満気に言った。

「アオにしょっちゅう呼ばれて、殆ど一緒に居られなかった!仕事多すぎて部屋に在られたの、疲れて何もできずに寝る時だけだったよ」うんざりして古川は言った。


「何するつもりだったんですか⁈」

「え、そりゃ…ね」古川はにっこり笑顔になった。

「単に仲良しと思ってたけど、まさか、そういう関係」

「そういう関係」

「違います!それに私まだ13歳です」

「婚約者?」

「そうなる予定」

「違います!!」

アオは古川と夕凪のやりとりに最初不安を感じていたが、夕凪の態度を見て安堵したようだ。


食べさせたいと言うアオを即断り、古川は起き上がり、食卓について夕凪特製雑炊、ちょい焦げを食べた。

「うまー、夕凪の手作り久しぶりだ!生き返るー」

「泣くほど美味しい?」

アオに揶揄われてギロっと睨んだ。

「マズイ飯で、一生分肉体労働したからね!おやつも無く!!」

「大袈裟だなあ、ご飯出るだけマシだよ。仕事は散々サボっていたじゃないか」

「そうでもしなきゃ僕が入院してた」


「仲良しだね、古川さんとアオ君」

「違う」と言おうとした古川をアオが横から抱きしめた。

「そうさ、祥一郎、大好き」


「死んだ奴から言われても。次いでに夕凪も言って」「なんで?」

「「つれないなあ」」古川とアオがハモった。

古川は夕凪に、アオは古川に対してだ。


「疲れが取れん、夕凪抱っこして」

「僕が抱っこして寝てあげるよ」

「それじゃ、あっちにいた時と変わらない!」

「今度は安眠できるよ。病持ちじゃ無いから」

「病持ちは自称だったろ!独寝の方がぐっすり眠れる」

「え〜、催眠かけていい夢見させてあげる」

「必要ない。どうせアオに都合のいい夢だろ。は、な、せ!何でこんな力強くなってんだっ、元死にかけ病人!」

「冷たい素振りでも、どう呼ばれようとも、僕は変わらず祥一郎が好きだよ」

アオは古川にベッタリ引っ付いたままだ。


「良かったね、古川さん!こんなに愛されて」

夕凪はニヤニヤしながら器を下げた。

いつも夕凪が古川に遭わされているセクハラを古川が体験できて、痛快だ。



結局、古川の力もまだ元通りではなかったので再び横になった。

夕凪は死にそうな顔になった古川を嬉しそうにアオに託して帰った。「お憑かれ様〜」


アオは古川が諦めて眠るまで一緒に抱きしめて横にいた。


『こいつ、いつまで居座る気だ?』

少し不安になりつつ眠りに落ちていった。



後日。

建設会社の今回の報酬は上乗せして貰った。が、これだけでは無い。

古川の言動(ほぼ脅し)を恐れた元行方不明者達は我先にお祓いを古川に頼んだので、それぞれの祈祷料がいい収入になった。もちろん護符とお守りも売りつけた。


心置きなく屋根の葺き替えを頼んだ。


「一石二鳥とか、転んでもタダでは起きない、を遥かに上回るね。あ、これは濡れ手に粟か!」

自身のお陰で古川が儲けているのを見て、アオは呆れ顔だった。

「好きに言いたまえ。それだけの苦労はしたんだ。当然の、少ないくらいの報酬だよ」



廃屋の病院を壊す前の正式の祈祷では、古川と一緒に付いてきて、中や外を歩き回って見納めていた。

自分の部屋だった所を最後に訪れ、それで満足して関心が無くなったようで、それ以降は行かなかった。


アオはホテルができたら行きたいな〜とあっけらかんとしていたが、古川は二度とごめんだときっぱり言った。




帰って来た一週間後には古川とアオの2人で稲荷神社に行くと、迂迦が渋い顔をして出迎えた。今迄、笑顔で迎えられた事はない。

2人は異界の住居ではなく表の普通の部屋に通された。

「お前の紹介というやつが何人も来たぞ。霊を見た紫都と流が怖がりすぎて使いもんにならんから、豊と2人で大変じゃったんだぞ!」


本日も2人は、アオがワザと古川の中からはみ出て手を振る姿を見ると、奇声を上げて飛ぶように逃げて行った。ダメンズ神使だ。


「ちょっとは慣れろよ」

次に来た時アオに驚かせて取り憑いて貰おう。きっと愉快に違いない。神使に取り憑けるのかは疑問だが。


「さぞかし儲かっただろ?感謝していいよ」とにっこり微笑んだ。

「誰が誰に感謝だって?」

と部屋に入ってきた豊も渋い顔してお茶を出した。

「お前もちょっとは神使らしくなったか。抜いた力はまだ元に戻らないんだ」

古川はからかった。

「君には敵わないな。元々神使を200年はやっていたのだけど」


そうだ、と豊は一転笑顔になって、手提げの紙袋を持ってきた。

「はいこれ、夕凪ちゃんに渡して?やっとできたんだ。夕凪ちゃん欲しがってたし、お詫びの代わりに」


「何だこれ」

中を覗くと可愛らしい狐のぬいぐるみが入っていた。20cm位の大きさで、狐面付きだ。


「夕凪ちゃんと初めて会った時提案してくれただろう?完成して少し売り出したらお陰様で即完売だったし、予約が殺到して追加発注してる。ありがたいよ。うちのマスコットにしようか考えている」

「いや、それお前が、勝手に、苦し紛れの夕凪の考え読んだだけだろ!それに、なんでお前達兄弟の写真まで付いてんだよ!」

「それも夕凪ちゃんの提案だからね。今度会って、他の商品のアイデアを聞かせてもらう約束しましたよ」


「ロリコンめ!絶対許さん!要らん!!」

古川が祓おうとした手を豊は先読みしてヒョイっと避けた。

「もう、そんな気有りませんよ。単なるビジネスパートナーです」

「関係無い!今度こそ再起不能にしてやる」


アオが後ろから古川の両腕ごと巻き込んで抱きしめた。

「そんなに、嫉妬しないで?僕がいるでしょ?」

「だーっ、鬱陶しいな。放せアオ!」


「せっかくの御好意なんだから夕凪ちゃんに渡してあげよう?きっと喜ぶよ!でも、祥一郎、こちらの方達への口調がぞんざい過ぎ」

アオが見かねて嗜めたが古川は聞く耳持たずだ。

「ちぇっ、いいんだよ、こんな奴ら!」

「神使と神様にその態度は無いんじゃない?」

アオは古川の態度にちょっと引いた。


アオは昭和初期の人間なので、家には当然神棚があって毎日お供えしてたし、初詣も毎年参っていた。

神に平気で文句を言い、当たり前の様に下に置く古川に、罰当たり過ぎて、ある意味尊敬した。


「お主もそう思うじゃろ?もっと言ってくれ!」

迂迦は激しく主張した。

「ひどいですよね、稲荷様」豊も大きく頷いた。

「霊に頼んな!」


「ところで、古川に憑いとるその霊は、強力過ぎてワシらには祓うの無理じゃぞ。自分で何とかしろ」

迂迦は嬉しそうに古川に言った。

「この用事で憑けてるだけだから、その気になれば直ぐ祓える」

ふふん、と鼻で笑った。


「そんなつれない事を言う皆様には、境内で裸踊りをさせる事もできますけど?」

自分の扱いにムッとしたアオは、人差し指をくるくる回して意地悪く言った。


「止めてくれ!」

いつの間にか迂迦にしがみついていた皆で悲鳴を上げた。アオに誘導されたようだ。

「えー、楽しそうなのに」

アオはコロコロと笑った。


元々才があったのか、催眠はアオが一番得意で、古川や神と神使の中にあっても、その力が最上だった。

あらゆる所へ道を繋げられるから、結界も簡単なモノなら素通りできる。


一方、古川は霊や怪異にとって破壊神だ。神を弱らせ、神使まで消せるとなれば、もう誰も手出しはできない。


つまり、この2人が組めば最悪のコンビになる。



この日は、彼らにアオの手紙の宛先人について調べてもらうよう、こんな態度で迂迦に頼みにきたのだ。

それでも古川の態度は相変わらずだったが、迂迦は広い心で引き受けてくれた。


別に裸踊りを恐れたわけでは無い、多分。




時間はかかったが、迂迦は宛名の居場所の大体の位置を探り当て、そこから古川が探偵に頼んで詳細に調べて貰った。


「弥生さん、生きてたんだ」

アオは感無量である家の前で言った。


手紙の宛先人は藤樫弥生とうがしやよい。養子を取って結婚したらしく、苗字も変わっていない。


アオの幼馴染で元婚約者が住む家だった。


「言っておくが、もうおばあちゃんだからな。容姿は期待するな」

インターホンを押す前に古川は念を押した。

「分かってるよ。あれから何十年経ったと思ってるんだ」


あらかじめ連絡していたので、インターホンを押すと直ぐに本人がやって来た。


「お話ししていた古川祥一郎です。この手紙は病院の跡地で見つけました。お渡ししますね」

跡地では無いが、同じ場所なので嘘はついていない。


「わざわざありがとうございます。なんて親切な方なんでしょう」

品のいい老女、弥生は差し出された封筒を丁寧に受け取り、封が開いたままの封筒から便箋を出した。

「ここで読んで下さいますか?」

「いいですよ」気さくに言った。


しばらく熱心に読んでいた弥生の目から涙が溢れてきた。

「アオさんは、諦めてなかったのですね」

「そうです」

「必ず御病気を治して会いに来ますって。なのに、私は早々に諦めて、別の方と…幼馴染でしたのに、薄情な人間です」


「仕方ないですよ、当時は不治の病と言われてた。病状が進んでいたから、僕から弥生ちゃんの御両親に婚約を解消して下さいと申し入れたのです。実際、入院してからまもなく死にました。いつまでもあなたを縛り付けたくなかった」


弥生は驚いて、微笑んでいる古川を見た。

「碧さん?」

古川に取り憑いたアオは頷いた。

「でも、入院してからも弥生ちゃんを忘れられなくて。そんな当時の僕の本当の気持ちを伝えられて本望です。又会えたし、あなたが幸せそうで本当に良かった。どうか、これからもお幸せに」


頭を下げて去ろうとしたアオに

「ちょっと待って」

と慌てて家の中に入って行った。


やがて戻ってくると大切そうに何かを抱えて戻ってきた。


「ひ孫です。先日生まれたんですよ」


アオは目を見開いた。

しばらく赤ん坊をまじまじと見つめた。


「可愛いですね。あなたの子供の頃にちょっと似ている気がする。僕達が結婚してたら、こんな感じの子が生まれてたのかな」

「そうですとも。碧さんにも似たはずですよ」

2人は顔を見合わせて微笑んだ。


アオは恐る恐る赤ん坊を受け取ると、思わず頬擦りした。

「ああ、生きている。柔らかくて暖かいな」

しみじみ言うと、そうっと弥生に返した。


「ありがとう。もう思い残す事はないよ。弥生ちゃん、お元気で。さようなら」

「碧さん!さようなら。またあの世で会いましょう」

「そうですね、待ってます」

古川は深々とお辞儀をして去っていった。



「はあー終わった終わった!長かったし、大変だったなー今回の依頼は!」

帰り道、古川は両腕を天に突き上げて伸びをした。

「ああ、この開・放・感!」


「今度からもっと考えてから受けたほうがいいよ」

「それ!当分受けない。次は…⁈」

古川はぐいん、と後ろを振り返った。アオがにっこりと笑って立っている。


「何でまだいるんだ⁈思い残し無くなったろ!身体貸してまでお願い聞いたのに!早く成仏しろよ!!」


「思い残しは無くなったけど、成仏するって言ってないよ」

「婆さんにあの世で待ってるって言った!」

「旦那さんがいるのに、差し置いて会うのは失礼だよ。あれは社交辞令だ」

「そんな社交辞令が有るか!!」


「第一、成仏ってどうやってするの?」アオは首を傾げた。

「はあ?そんなの死んだ事ないからわからん!その辺の寺行って聞いてこい!それか、僕が消してやってもいいぞ」

古川はサッと右手を上げた。


「えー、祥一郎は僕と一緒にいるって約束したよね」

「うっっ、あれは、あの時だけの…その場限りの…」

「なあに?」アオの目が一瞬キラッと赤色に光った。

「何でも無い」

祓いを妨げられて肩を落とし、先ほどと違ってトボトボと歩く古川にアオは寄り添い、手を繋いだ。


「ずっと一緒だし、やっぱり祥一郎が好きだ。夕凪の次でいいから好きになってね」

「僕は誰も好きになれないよ。夕凪は好きとかいう次元じゃない」


否定しながらも古川はアオの手を無理に離さなかった。


「ずっと一緒?お互いいつ消えるかわからないのに」

「それまで決して離れないから!」



そして、また居候ができた。

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