第10話 後日談
外に出ると、坂木が近寄ってきた。
「外からじゃ全然見えなくて!如月大丈夫か?」
夕凪は苦笑しながら
「何とか」
と答えたが、急に疲労を覚えて古川に背中から抱き抱えられた。
古川は
「僕がいるのに危ない目には遭わせませんよ」
と言って、それから人間の骨があったことを告げると、坂木は急いで警察に連絡した。
警察が来ても抱かれたまま、質問に答えてたが、夕凪のぐったりした様子に古川が明日にして下さいと頼んで、二人で帰ることになった。
坂木とも別れて歩いていたが、女の子のことが思い出されて涙が溢れてきた。
「夕凪は優しいね。僕はもう、何も感じないや」
生きてきて色々あり過ぎて反応する感情が希薄になってしまった。
デイパックから手拭いを出すと涙を拭いてやってから渡した。
「古川さんも、容赦ない時あるし、意地悪だけど優しくないことはないよ」
「それは褒めてる?まあ、いいけど」
「明日からはまた、普通に戻るんだよね」
「うん?そうだね」
「あの子のこと、誰も知らないまま逝かせちゃった」
古川は片手で夕凪を抱き寄せた。
「普通はそうだよ。まあ、事件になるからそう言う意味では明るみに出る」
そのままポンポンと軽く肩を叩いた。
神社の前まで来たが古川は送ると言ってついて来た。
夕凪の家に着くと、母親が出てきたので、古川は学校にお祓いに行ったら人間の骨を見つけてしまい、警察に事情を聞かれて遅くなった、と言ってくれた。
母親はショックを受けて、夕凪を抱きしめた。
明日また事情聴取があるかも、と言い置いて帰っていった。
夕凪は古川が帰ると、どっと疲労感が押し寄せて部屋へ入るとベッドにダイブした。
おそらく古川が支えてくれたので帰ってこれたのだろう。
そのままの格好で寝てしまった。母親が一度様子を見にきて着替えなさいと揺さぶったが起きれず、朝までぐっすり眠った。
次の日も学級閉鎖だったので、朝からシャワーを浴びたが、その後はダラダラして働きに行く母親を見送った。
その後古川から電話があって、警察官がそちらへ向かっていると教えてもらった。
「昨日と同じこと言えばいいから」
「私が見た事は?」
「僕も見えたよ、胸糞悪い。言う言わないは、どっちでも。信じてもらえないだろう」
「そうだよね。骨になっちゃったから証拠も残って無いだろうし」
夕凪は悔しそうに言った。
「家に来ても、玄関のドアを開けたままで対応するんだよ。部屋に入れちゃ駄目だ。人間だとちゃんと確認してから返事するんだよ?御守りと護符持っとくんだ」
古川はくどくどと注意事項を並べ立てた。
「御守り昨日のジーパンにつけっぱなしだ。すぐ取らなきゃ。洗濯出さずに良かった。護符はカバンに入れてる」
「早く準備して。もうすぐ着くよ」
それじゃ、と夕凪は電話を切った。
ホント、夕凪は警戒心薄いよな。初めて会った時もそうだった。
苦笑していた古川は警察官と入れ違いに神社へ登ってくる男達を感知した。
知ってる気配だが、思い出すのに時間を要した。
あいつらか!
古川がこの世界に来た時にいた宗教施設にいた連中だ。
そんな事すっかり忘れていた。
放り出すこともできたが、取り敢えず会って目的聞こうか。
家に入れるのが嫌だったので表に出て階段の上で待った。
スーツを着た三人組がぜいはあ息をつぎながら登ってきた。
古川の姿を認めると、階段の途中で三人揃って深いお辞儀をした。
古川は二十段下に差し掛かった頃に片手を伸ばし、手のひらを相手に向けて
「それ以上来るな。何の用だ」
無表情で冷たい声で言った。
「お迎えに参りました。まだ、修行中のご身分ながら昨今のご活躍、教祖様もお喜びに…」
「はあ?何言ってる?あいつが何喜んでるって?」
「あいつとは随分な…」三人がムッとした。
「関係無い。帰れ、消されたくなかったらな」
「無理にでも連れて帰って下さいと仰られました。最高の名誉である神代理長の地位を与えるとのことです。私達
「あ、そう。僕を追いかけて来た奴らはどうなったと思う?」
「…行方が知れず」
「だろうな、僕が途中で見つけた怪異にやったからな」
「出鱈目を!帰りましょう!」
三人が上に来ようと一段踏み出した。
「黒沼!ご馳走だ!」
古川がニヤッと笑うと最後に言った男の真下に黒沼が現れストンと落ちた。
残された二人が黒沼を見て悲鳴を上げた。
「そうそう、本当はこうなって消滅するんだよな」
古川は満足そうに言った。
「僕が神な訳ないだろ、どっちかというと邪神だ」
独り言を言う。
「もう一人喰っていいぞ!残り一人だけ下で吐き出せ。伝令だ。二度と関わるなと馬鹿に伝えろ!」
黒沼はさっきの倍の大きさになると、残った二人を落とし込んで消えた。
「黒沼便利だなあ。手放せないや。あとで力吸っとこ」
古川は何事も無かったように家に戻った。
今度は教祖かな?この古川祥一郎、施設の事ばかりか過去もあまり覚えてないんだよな。教祖なら逆に知ってたりして。
ついでだから暇な時に行って聞いてから黒沼にやろう。
暗い笑みを浮かべる古川祥一郎だった。
彼は気まぐれで親切心を出す事もあるが、基本、他人には冷淡で優しくは無い。
頼まれても助けない時もある。長く生きてると、段々億劫になってしまった。感謝されて喜ぶ事もない。
夕凪は観月と加賀谷にメールして無事帰った事を報告した。昨日のうちに向こうから来てたのだが、返信する気力も無かったと詫びた。
二人とも経緯を知りたがったので、昼ごはんの後、家に来てもらうことにした。
「リビング掃除機かけよかな」ついでに自分の部屋も、万が一見せてと言われたら困る。せめてベッドメイクしなきゃ!と重い腰を上げた。
最初に加賀谷が来たのでリビングのソファーに案内した。お茶は観月が来てからでいいと言われたので向かいに座った。
「あれからは、何とも無かったよ。やっぱり夜ちょっと熱っぽかったけど、全然大したことなかった。本当にありがとうな」
「破けてても自然に治るんだって。良かったよ、治すのはできないし」
「明日からは登校できるけど行く?」
「わっ、課題途中で終わったまんまだった!夜にしよう」夕凪は嫌なことを思い出してしまった。
「間に合わなかったらノート写してもいいぜ」
加賀谷は持って来たデイパックからノートを出して前のローテーブルに置いた。
「加賀谷〜さすが学級委員!駄目なんだけど。間に合わなかったら使う」
「俺の持ってくるの忘れないように」
「それ忘れたら最悪」
観月もケーキを持ってやって来たので、喜んでお茶の用意をした。
昨夜の話になった。
「古川さん、一人で百匹以上いた本体から出てたオタマジャクシみたいなのを潰しまくって、本体もしめ縄と自分の力で編んだ縄を足してぐるぐる巻きにして消してしまったんだよ」
言葉にしてみると、余計古川の所業の異常さがわかる。
「すげーな」
「古川さんはその後大丈夫なの?寝込んで無い?」
夕凪は自分の事しか考えていなかったので、観月に感心した。
「電話してきた位だから大丈夫と思うんだけど、後でもう一回してみるよ」
頭蓋骨を発見した事とその持ち主に取り憑かれたと話したら観月と加賀谷は二人で同時に叫んだ。
だから、昨日警察呼んで事情聴取され、今朝も家まで来て聞かれたことも言った。
「お疲れ様です」二人は揃って頭を下げた。
夕凪は『この二人いい感じかも』と思ったが言わなかった。
しかし、心には止めといたので、加賀谷にとっては手痛いミスになった。
「バレちゃうかも知れないけど、私もついて行ったの内緒にしてくれたら助かるんだけど」
「言わないよ!大騒ぎになっちゃうよ!」
「そうだな、踏切の事もどうしようかと思ってたんだ」
夕凪と観月は顔を見合わせた。
「お地蔵さん!」
夕凪は言いにくそうに
「古川さんが、なんかもう駄目だとか言ってたの。忘れてた。元々少なくなってたのに、あの時力使い果たしたからって」
「帰りみんなで見に行かないか?」
「あ、お菓子あるから持って行く」
三人で、地蔵の祀ってある祠へやってきた。
「「「あっ!」」」
同時に声を上げた。
地蔵は崩れ落ちていた。
観月は駆け寄ったが、触れる事も躊躇っている。
二人も後ろからやって来たが、観月が泣いてるのを見て何も言えずに立ち止まったままだ。
「お供えするね」
夕凪は持って来たお菓子を前に置いた。
三人は揃って手を合わせた。
「お蔭様で三人とも助かりました。本当にありがとうございました」観月が言った。
「お地蔵様のお陰で二人から憑き物剥がせました」
「俺、あんまり役に立たなかった。お地蔵さん、ありがとう」
しばらくそのまま手を合わせていて、夕凪は帰ろうと言いかけて祠の横に異様な雰囲気がした。
思わず後ろに飛び退いた。
「ク、黒沼!」黒くて丸いお馴染みのものが地面に現れたのだ。
「下がって二人とも!!」
夕凪が叫ぶと慌てて二人が夕凪の側に駆け寄った。
「古川さん!」夕凪は上へ向かって呼びかけた。
ブォン、みたいな音がしたかと思うと黒沼が何かを吐き出した。
「「「きゃー」」」
さらに三人が飛び退くと黒沼は浮かび上がって、夕凪達の周りを房を動かしながらクルクル回った。地面にはスーツを着た男が倒れていた。
三人は固まって動けない。
そうしてると、男の方が目を覚ました。
彼は黒沼を見るとガタガタ震え出し、夕凪達には目もくれないで
「化け物〜」と言って走り出した。
「どうするの⁈夕凪」
「俺達代わりに食べられるんか?」
二人に迫られて夕凪が恐る恐る言ってみた。
「黒沼、食べずに偉いね、もう古川さんの所に戻って」
黒沼は名残惜しそうに?回転していたが、地面の中に吸い込まれるように消えていった。
「良かった〜戻ってくれた〜」夕凪はへなへなと座り込んだ」
「今の何?」「あの男、あいつ、くろぬまから出て来たぞ!」
二人はパニックになって夕凪を引っ張り上げた。
「古川さーん⁈降りて来て!!」
夕凪は必死に叫んだが、彼は現れなかった。
「多分、絶対面倒だから、知らんぷりしてるんだ」
夕凪が呆れて言った。
「もう、帰ろうぜ。なんか、どっと疲れた」
加賀谷が言ったのに賛成して、観月とはそこで別れた。
彼とも最後の横道で手を振って別れた。
何か言いたそうだったが、夕凪は気が付かない振りをした。
夕凪も面倒臭くなったからだった。
古川さん絡みだと特にそう感じた。
その晩、嫌な予感がして寝る時間になったが頑張って起きていた。
2時間ほど気を紛らわせていたが、何も起こらないし、眠くて我慢できなくなってついにベッドに潜り込んだ。両手で布団を首までかけようとした時、掴まれた。
夕凪はそれを渾身の力で押し返して起き上がった。
「あれ、寝ないの?もう遅いよ?」
案の定古川がベッドの横に立っていた。
「あなたが来そうな悪い予感がしたので起きてました」
「悪い予感て」
「こんな時間に何ですか?また、吹っ飛ばされたいの?」
「今、夕凪にそんな力は残ってないよ。だって、また足しに来たんだから」
「え、また何かあるんですか⁈」少し驚いた。
古川がふふっと笑った。
「何かあった時のための用心だよ。僕、ちょっと行く所があって一週間位留守にするからさ、明日いつでも良いから神社に来てよ」
「ここで、じゃないの?」
「そんなことしたら帰れなくなる。此処には練習しに来たんだ。本体は別のところに置いて幽体と力だけ移動する実験さ。ほら」
古川は手のひらを夕凪の顔の前に近付けた。
よく見ると端の方が境界が曖昧だ。
「凄いですね。それを使うお仕事って何?」もう、反応できない。
「仕事じゃ無いよ、単なるお出かけ?ついでに軽く妖怪退治かな?」
彼はうっそりと笑った。
何だか不気味な気配を感じて急いで言った。
「明日行きますから、もう帰って下さい。寝ますので」
「このまま、帰ると思う?夕凪ちゃん」」
「思いません」夕凪は素早くベッドから出ようとした。
「動けない」「うぇ?」
身体が動かない。
「古川さん?」焦って目を見開いた。
彼は笑顔のまま顔を近付けた。
「ああ、縛ってみた」
きょろきょろと自分を見るといつの間にか金色の紐のようなもので身体を巻かれている。
「動けないでしょ?この前あの子に使ったやつ」
夕凪は唸りながら身体に力を入れていたがびくともしない。
ちゅっと音がして夕凪の頬に古川が口付けた。
「ね、縛ってるから、動けないよ」
耳元で囁く。
「僕の言いなりだ」
夕凪は違和感を感じた。どうして、こんなに何回も同じような事を言うんだろう?
「静かにしてね」
ぱふん、と音がしたと思ったら押し倒されている。
「今日は何しようかな?」パジャマのボタンを一つ二つと外した。
「動けないから、裸見ちゃおうかな?」
ほんと、この人は捻くれている。本当に見たい訳じゃない。さっきからヒントだけくれている。
「動かせます!」夕凪はきっぱり言った。
そして腕を伸ばして古川さんの肩を掴んで引き剥がした。
ベッドから抜け出るとドアに向かい、にっこり笑った。
「動けないのは、小川さんでしょ?」
古川さんはキョトンとして彼女を見た。
「催眠術かけてたでしょ?紐は目眩し!私にはあなたからの攻撃が効かないんだから」
「嘘だろ?催眠もこれだけ強くしても解けちゃうの?」
「そして前回も今回もベッドのそば。離れられないんでしょ?」
古川は笑い出した。
「どんどん知恵つけちゃって、可愛くないなあ。動けないけど、伸びるんだよ。まあ、見た目が気持ち悪いからやらないけど」
「伸びる…それは見たく無い」夕凪は引いた。
「じゃあ、残念だけど帰るよ。おやすみ」
ふわっと浮いたかと思えばそのまま消えた。
「やった、やったー!自力で追い返した!」
嬉しすぎて興奮が冷めず、結局睡眠不足だった。
次の日行くと、また不意に力を入れられた時ディープキスされた。
「少しなら催眠効くね」全く懲りて無い古川はにっこりと笑った。
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