飛んだ日。
お題:俺のパイロット 制限時間:15分 読者:177 人 文字数:489字
昔から、空を飛ぶことに憧れていた。
くるくると旋回するとびを見て、いつか自分もああなりたい、空を飛んでみたいと、畦道で昼寝をしながら思ったものだ。
真っ白なセイタカアワダチソウに囲まれて、とびの鳴き声をすっとずっと聞いていた、そんな日々が懐かしい。
ある日、
「色覚異常、ですね。」
医師はそう告げた。
航空会社の採用は、色覚正常が条件だ。そのことを、私は航空機博物館の、資料室で知った。十三歳の時だった。
どうしようもなく、つらかった。多感だった、それだけではないだろう。私は塞ぎこむようになり、唯一の友人が家までプリントを届けてくれても、部屋には入れなくなった。
資料室での絶望から半年。眩暈がするほど真っ白な世界の、青い空を見上げた中学校の屋上。
フェンスを跨ぎ、胸ポケットのボールペンで、右目を抉った。
黒い血が流れた。屋上の扉の開く音。友人の声。
私が、飛べなかった、友人の誓いを聞いた日。
「エンジン、回転数正常、離陸します。気分はどうだ?」
前の操縦席から聞こえる友人の声。
「最高だ」
あの日の誓いどおり、私を後部座席に乗せて、友人の飛行機は、舞い上がった。
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