逃げて、走り出した。いつの日より早く。
お題:ぐちゃぐちゃの経験 必須要素:酢
逃げて、走り出した。いつの日より早く。
人生は、長い長い上り坂のようで上っている間はとても長い。
おまけに見通しがきかず、どこまで上ればいいのか分からない。突然平坦になったり、ぬかるんでいたり。ぬかるみにはまると簡単には抜け出せない。根性で無理やりに抜け出すか、早々にあきらめて荷物を投げ出してしまうか。
「それで、結局、根性で抜け出したの?」
十年前、私はぬかるみにはまっていた。もがけどもがけど前には進まない。
朝起きて、天井を見つめる。学校も、仕事も、ない。出かける理由も人に会う用事もない。もぞもぞと起きだして、パーラメントに火をつける。
ゆっくり煙を吸い込んで目を覚ましていく。
自殺未遂を繰り返すこと数回、紹介された精神科で処方された薬を飲む。
こんな薬を飲んだところで人生が前に進む訳もなく。
大学で就活がうまくいかず、そのままアルバイトを転々としながら生きていたが上がらない時給と良くならない暮らしに、日に日に心はすり潰されていった。
ある時のオーバードーズは意識を失う事すらできず、どうしようもなく惨めだった。
自分の人生に希望も何もなかった。
アルバイトでは安定した暮らしは望めない。
長く生きることはできない。
体を壊せば残りの人生には見向きもされず、捨てられる。
自分も多くの人間関係を捨ててきた癖をして、私は捨てられるのが怖いのだ。人に捨てられるのは、途方もなく惨めだ。
何をしてもうまくいかない。誰にも認められない。自分で自分を認められなくなり、何度も自殺を試みた。
結局、自分で自分を捨てることができず、残念ながら今なお、私は私を捨てられなかった。
「他の人に引っ張ってもらうことにしました」
考えてみれば簡単なことだった。私は私の人生に希望を持つことができない。なら残りの人生をすべて悪魔に売り払ってしまえばいい。魂さえあれば悪魔は私の残りの人生を喜んで買い取るだろう。
私が選んだ結論はサラ金で借りられるだけの金を借り、フルローンで買った車を即座に売り払い、さらに身の回りの物をある限り売り払って、作れるだけのお金を作った。
「だからここがあるんです」
昼間はカフェ、夜はバー。
「今夜も、ヴルストを」
「はい、かしこまりました」
皿にゆでたソーセージとキャベツの酢漬けを盛り付ける。z
悪魔に追い立てられ、ぬかるみから逃げ出しておこしたこの店は、思いのほか賑わった。
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