春のデートは、暖かい。
お題:愛、それはサーカス 制限時間:30分
四月も下旬、袖をまくった生徒もチラホラと目立つほど暖かくなった頃。
「ねえ、佳代子。明日の土曜どこか行かない?」
私の友人はいつだって唐突に出かけに誘ってくる。
「どこかって、どこよ?」
ぶっきらぼうに返しながらも、その反面私は彼女との外出を楽しみにしているのだ。
「どこでもいいよ。佳代子といっしょならさ」
「由香里はいっつも恥ずかしげもなくそんなこと言えるよね」
「だって私は佳代子の事、愛してるもんね!」
「はいはい。わかった、わかった。じゃあ、明日ね。10時にいつもの駅前でいい?」
軽く流して、カバンにノートと教科書をしまう。私は少し顔が火照っていたが、それが日にあたっているせいか、 由香里の言葉のせいか分からなかった。
「佳代子ー、おはよう!」
「うん、おはよう。今日はどこ行くの?」
目的地を決めるのが由香里、そこまで連れて行くのが私。それが私たちの役割だ。
「昨日ちょっと調べたんだけど、こことかどうかなって。」
由香里がスマートフォンの画面を突き出す。そこには、白と金で花のあしらわれた真っ赤な着物が映し出されたいた。
「これ、美術館の特別展?」
「うん、佳代子、たまに和服着てるし、こんなの好きかなって」
「いい、とってもいい。最寄り駅ははこっから1時間くらいだよね、次の電車調べるよ」
「よろしくー」
スマートフォンの上を私の指はスキップのように跳ねた。
「高校生2枚で。由香里、学生証だして」
「はい」
美術館の建物に伸びる階段を登ってゆく。
「楽しみだね」
「うん」
館内に入ると、まずは常設展を見て回る。おそらく価値のある美術品が並んでいた。
「全然わからんねー」
由香里はつぶやくように言った。
「こっちならわかるかも!」
そう言って由香里は特別展に足を進めていった。
「あんまりはしゃぐと転ぶよ」
聞こえては、いなかったけれど。
「うわー、すっごい綺麗!」
思わず声を上げたのは意外にも私だった。色とりどりに着物や帯が並べられ、それはサーカスのパレードにも見えた。
「でしょ。一緒に来て良かった。」
由香里の顔が、とても嬉しそうだった。
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