白の便箋、ローファーの足跡。

お題:遅すぎたいたずら 制限時間:30分


白の便箋、ローファーの足跡。

「おはよう、諸君」

国語の先生は、少し変わった人だった。

「今日も雪ですね、足元が悪い中通学本当にお疲れ様です。怪我などなければ良いのですが」

二月。雪なんてめったに降らない私たちの地域にも、珍しく雪が降った。たった数センチの積雪で町は見たこともない姿に変わり、私たちははしゃいでいた。雪だけではなかった。

バレンタインデーで、そりゃ私たち女子高生なんてその日に向けて大忙しな訳だ。

「先生はチョコ、貰いました?」

一限の終わりに、私は努めて先生をからかっているように装って、聞いた。ぼさぼさ髪に地味な眼鏡の先生のことだ。身だしなみなんて最近ハンカチが案外おしゃれだって気が付いたくらい。

きっと、きっと貰ってないに違いない。

「ええ、貰いましたよ」

優しく笑って返事を返してくれた。そしてそのまま付け加える。

「祖母が毎年、送ってくれるんです。我が家の恒例行事です」

少し、ほっとする。

「先生、それ、貰ってないって言うんですよ!」

それだけ言って、私は自分の席に戻る。

やった! やった! 先生はやっぱりチョコ貰ってないんだ!

私だけがそのことを知っているような、大きな秘密を天から教えてもらったような、いや、本人から教えてもらってるんだけど、そんな気持ちでいっぱいになっていた。

後は放課後を待つだけだ。

「ねぇ先生!」

電車は雪であと一時間で運転を見合わせるので、速やかに帰るよう指示が出ていた放課後。

「これチョコ、先生にもあげる!」

たまたま会った風に、私は先生にチョコの包みを渡す。

手紙付きの、本命チョコレート。

「じゃあさよなら!」

それだけで私はその場を離れた。

私はまだ高揚感でいっぱいだった。


ホワイトデーに、先生から返事の手紙が来て、告白の勇気をたたえてくれたこと、その気持ちを忘れないで欲しいこと、そして婚約者がいること。先生の直筆の丁寧な手紙は、私の大切な、大切なお守りだ。

「先生、私、今度結婚するんです」

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