第5話 想う思い出

 シャワーの下に落ちていた包丁を手に取りながら、思い出す。


 共に過ごした時間を。


 大学で初めて出会った春の日。


 同じ学科で、少しずつ仲良くなっていった日々。


 貴女が俯きながら告白してくれたあの日。


 私の返事に、頬を赤らめながら向日葵みたいに顔を輝かせてくれた日。


 一緒に暮らし始めた日。


 靴下を放りっぱなしにした私に怒った貴女。


 食器を洗わず、流しに放置していたことに怒った私。


 何度も喧嘩をしたけれど、その度に仲直りをした。


 遊園地に行ったり、旅行に行ったり。


 過ぎ行く季節を共に過ごした日々。


 楽しかったことも、喧嘩をして口をきかなかった時間も、全てが幸せな思い出だよ。


 目覚める度に貴女がいて、仕事から帰ると貴女がいて。


 愛に溢れていた。


 だからね、日向。


 私はこんな終わり方嫌なの。


 これから独りぼっちで生きていくなんて御免なの。


 貴女がいない世界はモノクロだろうから。


 同じ道を選んだ私を、日向は怒るかな。


 包丁を手首に当てながら、瞼を閉じて想像する。


 怒るんだろうね。


「なんで死んじゃったのよ!」


 って、顔を真っ赤にしながら。


 残念ながらそれはこっちのセリフ……じゃないね。


 お互い様。

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