第5話 想う思い出
シャワーの下に落ちていた包丁を手に取りながら、思い出す。
共に過ごした時間を。
大学で初めて出会った春の日。
同じ学科で、少しずつ仲良くなっていった日々。
貴女が俯きながら告白してくれたあの日。
私の返事に、頬を赤らめながら向日葵みたいに顔を輝かせてくれた日。
一緒に暮らし始めた日。
靴下を放りっぱなしにした私に怒った貴女。
食器を洗わず、流しに放置していたことに怒った私。
何度も喧嘩をしたけれど、その度に仲直りをした。
遊園地に行ったり、旅行に行ったり。
過ぎ行く季節を共に過ごした日々。
楽しかったことも、喧嘩をして口をきかなかった時間も、全てが幸せな思い出だよ。
目覚める度に貴女がいて、仕事から帰ると貴女がいて。
愛に溢れていた。
だからね、日向。
私はこんな終わり方嫌なの。
これから独りぼっちで生きていくなんて御免なの。
貴女がいない世界はモノクロだろうから。
同じ道を選んだ私を、日向は怒るかな。
包丁を手首に当てながら、瞼を閉じて想像する。
怒るんだろうね。
「なんで死んじゃったのよ!」
って、顔を真っ赤にしながら。
残念ながらそれはこっちのセリフ……じゃないね。
お互い様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます