第18話 赤と黒のサンタ
時間を三時間前に戻す。
リリーと黒龍に変化した月姫は仲良く空を飛んで遊んでいた。
すると赤い服を着たサンタと黒い服を着たサンタが喧嘩をしているところに遭遇した。
「なんでいつも儂ばかり悪い子相手にせにゃならんのだ!いいとこ取りばかりしおって!次はお前が黒サンタやれ!」
「無茶を言う。成績上位がこの赤いサンタ服を着る資格を得るんじゃよ。貴様だって知っておるだろう?全く、なのに何故、儂が黒サンタをやらなきゃいかんのだ!そんなんだから、お前はミスばかりするんだぞ?んん、クォンよ。何件、プレゼントを届け忘れた?何件、住所を間違えた?今回も貴様が配達リストを失くしたせいで配送が大幅に遅れてるんだぞ!一軒一軒名前を確認しながら頭を下げて配ってるせいで、こんな時間までかかってるんじゃ!何処のサンタに昼間プレゼントを届ける馬鹿がいる?謝罪の為に玄関からやってくるサンタなんて初めてじゃ!バツが悪い顔をしながら、プレゼントを受け取る子供の顔ったらありゃしないぞ!子供の夢をぶち壊すから、貴様は黒サンタから昇進できないんじゃああ!」
「あああ~!やめろ!思い出させるな!トラウマが!トラウマがフラシュバックする!」
「さあ、解ったらさっさと町一番の悪い子に行ってプレゼントを渡してこい」
「だから、もう勘弁してくれ!あいつ等、感謝の言葉一つもないんだ!もってきて当然みたいな顔してその場でプレゼントを確認して、挙句クレームつけてきやがる!やれ、安物だ。やれ、古臭い。やれ、少ないなどどぬかす!挙句の果てに、現金を要求する始末。あいつ等に夢ってもんがないのか?頭きたのでプレゼントに漢字ドリルを渡したら、喧嘩になったわい!まあ、ボコボコにして返り討ちにしてやったがな!」
「な、馬鹿か!サンタが子供に暴力などあってはならんぞ!」
「ふん。どうせ儂はブラックサンタよ!世間から外れたアウトロー。子供が怖くてサンタが務まるか!馬鹿もん!」
「馬鹿は貴様だ!ああ、親御さんからクレームがくるぞ。そしたら二度と煙突を使えんぞ?それが原因で置き配にでもされてみろ!サンタの有難みがなくなるぞ!そのうち、影が薄くなってただの配送屋になってしまう?‥恐ろしい事だ。わし等は安く見られるわけにはいかんのだ!」
「知るもんか!サンタの事情など。とにかく、もう黒サンタは嫌なんじゃ!」
「あの~喧嘩はよくないですよ?」
月姫は何だかいたたまれない感情が込み上げてきて二人の間に入って喧嘩を止めに入った。今、夜姫も自身の為に戦っている。そう思うと喧嘩している時間がもったいない気がした。
「ん?ああ、すまん。つい、大声を上げてしまった」
「どうされたんですか?」
ちょっと困惑しながら藁をも掴む思いで赤サンタは事情を説明し始めた。
「そうですか‥それは困りましたね」
「だったらリリーが黒サンタやる!」
「え”!何言ってるんですか!リリー?そんなの無理ですよ」
「だって、お手伝いしたら夕日の街への案内頼めるかもだよ?」
「‥リリー」
困った顔をする赤サンタは自慢の髭を撫で回す。
「気持ちはうれしいがそれはちと無理じゃ。残念だがサンタ以外が煙突からプレゼントを配る事は禁止されとる。このようにライセンスが必要だ!」
赤サンタは胸ポケットからライセンスをリリーと月姫に見せる。名前の欄にワンズと書かれている。ワンズは少し誇らしげな顔になって腹を突き出す。
「ええ~つまんない‥」
「リリー、サンタさんは別に遊んでるわけじゃないのよ」
「そんな事、わかってるもん」
「遊びじゃない?ああ。そうだ。遊びじゃない。玩具を渡すサンタ本人が遊びじゃないとは、こりゃどういうことだ?フフ‥アハハ‥見ろ!アイツ等にプレゼントを渡すと考えただけで手に震えがくるのだ!いやじゃ!あのクソガキ共が!ぶち殺す!何がこの世にサンタ何ていないだ!ふざけるな、目の前にいるだろ!儂の目見て言い切りおって!なんでサンタを信じてないガキ共にまでプレゼントを渡さにゃならんのだ!もういやじゃ。儂は帰るぞ!」
クォンは手綱を引いてトナカイは走り出した。
「あ”!こら!戻って来んか!あと、二十件配達が残ってるんだぞ!このままでは最後の兎の国は明日の配送になってしまうではないか!戻ってこんか!馬鹿モン!兎の国だけは絶対に今晩中に配らなければいけないのだ!」
「あの、クォンさんの事は私達で任せて下さい。ワンズさんは引き続き子供達にプレゼントを配って下さい。行きますよ。リリー!」
「うん!行く!またね~サンタさん!」
逃げるクォンを追いかける為、月姫は黒龍となった。リリーは月姫の頭に乗って黒サンタが逃げた方向を指差して叫ぶ。
「行け―――!」
「掴まっててくださいね。リリー飛ばしますよ!」
月姫はあっという間に空の彼方へと飛んで行ってしまった。
「ぬぬ‥まずい事になった。このまま配達が遅れて今晩中に届けられなかったら‥バニュラ姫に何と説明すればよいやら‥最悪、殺される!」
顔を青くしたワンズは仕方なしに配達の続きに戻った。
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