第17話 サンタ祭り
時間を潰してから、ヴェルは兎達が賑わう中央広場へと翼を広げて降りた。早速、舞台の中心へと大勢の兎を割って最前列へと進んだ。
舞台にはサンタ祭りの垂れ幕が2本左右にぶら下がっていた。
そして、開始の合図に盛大な花火が打ち上がった。
火の玉は何発も一直線に空へ登って行く。ドンバラバラ‥と音をまき散らしなから、何度も花が咲いては落ちた。
タイミングを見計らって舞台の上手から勢いよく出てきた司会者の兎はマイクを強く握り締めて、出っ歯とサングラスを光らせて喋り出した。
「さあさあ、今年も始まりました!年に一度のサンタの日!良い子にしてたかい?良い子の家にやってくる待ちに待ったサンタの日!だ・け・ど!皆も知ってると思うけど、悲しい事に赤サンタが会えるのはたったの一人だけ!そう、この町で一番良い子だけが赤サンタからプレゼントが貰えるぞ!更にそれとは別にサンタ祭り委員会からも特別な豪華賞品が貰えるぞ!さあさあ、誰が選ばれるか賭けちゃって!単勝、五倍の人参が当たる。但し、一番悪い子には黒サンタがやってくるぞ!キャ~怖い!悪い子は煙突閉めて窓閉めろ!黒サンタが選んだ兎を当てるとマイナス十倍の人参が没収されるときたもんだ!さあ、我こそが一番良い子だと自信がある奴出てこいや‥って毎度いないので、はい、こっちで有力候補探しました。スタッフ、一生懸命探しました。では、今年のサンタ祭りの有力候補五名を紹介します!」
司会の兎は舞台を縦横無尽に歩いて盛り上げた。
「ま~ず、エントリ~ナンバー‥一番!」
垂れ幕の後ろからドラムロールが鳴り響く。
「スラム街に住む、人参売りの白兎ことナンシーちゃんだ―――!アピールタイムをどうぞ!」
垂れ幕が上がり、前に出てくるナンシーはクルリと回って観衆にウインクした。瘦せこけた体と震えた手でマイクを持って皆に両手で手を振った。
「は~い!皆~元気~?私は‥元気じゃないよ。‥だってね、持病で余命あと一年だって‥ハハ。今日にも死んじゃうかも?マジでショックって感じ?それにママも病気で寝たきりで~きゃ~どうしよ~って感じ!ママの介護で日々金欠で、売り歩く人参は細いものばかりで全然売れないの。これじゃ三人の妹達は餓死しちゃう。もう、絶望通り越して天国が見える今日この頃で~す!こんな良い子ならきっとサンタは来るよね?皆、私を応援してね!」
ナンシーに対して観衆から黄色い声援が上がる。ナンシーはフラフラしながら手を振って答えた。
「はい、ありがとう!寿命短い親孝行な子兎ちゃんでした。きっと来る!サンタは君の不幸を救ってくれるさ!サンタに選ばれたら収益の一割の人参がもらえるぞ!頑張って!次のエントリーナンバー二番は誰もが知ってる我らの王!次期国王候補のバニュラ姫だ!」
舞台のカーテンが上がると観客がざわめいた。白い毛並みは上品に輝いて美しかった。サラサラと揺れる毛並みに対して表情が乏しい兎は薔薇の刺繍が施された高級ドレスの裾を床に滑らせて舞台に出てきた。
一つ一つに動作には高貴な振る舞いが目を惹く。育ちが良いのが一目で解った。
「御機嫌よう。皆さん。国王候補のバニュラ姫です。私の部屋へサンタはやってきます。なぜなら、貧困国への外交と惜しみない支援をしています。個人においては貧困兎への炊き出しボランティア活動!誰もが私を、聖母バニュラと称えます。本命は私である事は間違いありません。さあ、皆様の一本がこの国の命運を決めるのです。誰がこの国に相応しい兎であるのか!皆さんならお解りでしょう。サンタにしっかり教えてあげるのです!」
バニュラ姫は両手を広げて笑うが、それは機械仕掛けの人形にゼンマイで巻いてニッコリの笑わせる感じに似ていた。
バニュラ姫はお辞儀をして一歩下がった。一部の観衆は拳を突き上げてバニュラ姫と名前を連呼した。その声に応えるバニュラ姫は手を振った。
「さあ、バニュラ姫を国王に!我らが聖母バニュラ王!姫の願いは決まって、一つ!民の安寧だけ。この国は絶対人気のバニュラ姫で決定だ!皆さんの清き人参を姫様に!」
声援は更に広がって拳を突き上げる。バニュラ姫の名前を連呼した。
「皆さん落ち着いて!さあ、続いて、エントリーナンバー三番。がり勉兎のベベボ。さあ、アピールタイムだ!」
下がった眼鏡をくいっと戻して鋭い目つきで観衆を睨みつけながら舞台に上がるとマイクを奪い取って叫んだ。
「この世にサンタなんているか!ふざけんな!コツコツ勉強してきて希望の大学に受からず気づけば5浪‥。この世は地獄。でなけりゃ納得がいかねえ!サンタがいるなら叶えて見せろ!俺を希望の大学に受からせてみせろってんだ!」
ベベボはマイクを地面に投げつけ下がった。以外にも観衆は盛り上がって拍手喝采だった。
「あーあー、出た~アンチサンタが現れた。どうするサンタ?サンタはこの願いを叶えるのか!楽しい事、やりたい事を切り捨て、勉強漬けの毎日。努力だけなら三倍!ギリギリまで追い詰められたこの少年兎にサンタは微笑むのか?さあ、続いてエントリーナンバー四番引きこもりのコロロ!‥?」
垂れ幕の奥からスタッフが手紙を持ってきて司会の兎に何か耳打ちして渡した。
「え~どうやら本人は帰ったらしく代わりに私が手紙を読み上げます。え~とですねぇ~あ~はいはいっと。コロロさんからです。え~‥もう限界。親に言われて無理やり出たけどやっぱ無理。帰る。サンタなんて知るか!私みたいな兎は幸せになれないから。別にあてにしてないし。一人がいいから邪魔しないで。サンタなんて迷惑。勝手に生んで勝手に育ててわけわかんない。‥だそうです。拒絶されてもサンタは来るのか!続いてエントリーナンバー五番。何処からともなくやってきた赤毛の美少女リリー!さあ、アピールタイムスタート!」
「何?リリーだと!」
空から舞い降りた赤い髪の天使は舞台に着地すると観衆の手を振って無邪気に笑顔を振りまいた。驚天動地のヴェルは身を乗り出した。毎度、予想がつかないリリーの行動にヴェルも開いた口が塞がらなかった。
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