第13話 私はヴェルの娘よ!

 

 リリーの手の中でジタバタする小さいトンビ。


「ひ~助けて!俺に愛玩労働させる気か!芸仕込むんか!お手させるんか!」

「え~どうしようかな~?籠に入れて~餌与えて~!」

「えっ!働かなくっていいの?ならいいかな〜?」


 本体の大きいトンビは、光の如く一瞬でリリーの後ろに回って、本体のトンビを取り返して素早く安全な所まで離れた。一瞬の事で、少しの間、リリーは取られた事に気づかなかった。



「あ!あれ?」


 トンビは一瞬ヒヤリとしたが安堵の表情がつい出てしまった。トンビは口を大きく開ける。


「ひや~拘束労働は嫌だ!好きな時間に起きて寝るんだ!」

「意見があるなら、義務を果たせ!」


 そして、本体のトンビは飲み込まれた。

 それを見たヴェルは月姫とロンド船長にアイコンタクトを送る。そして、お互い理解した。あの核を捕らえれば勝てると。

 月姫は黒龍となってトンビに火を吐くが回避された。

 その隙に、トンビの背後に回った、ロンド船長は、刀を振り下ろしたが手ごたえがない。

 それもそのはず、斬られた箇所は直ぐに繋がってしまったからだ。

 ならばと、トンビは手足を伸ばしてロンド船長と月姫を殴って光の矢を放つ。

 矢は命中してロンド船長の腹部と月姫の肩に刺さった。

 がロンド船長と月姫は怯まなかった。傷を負いながらも、必死に両手を伸ばして、ロンド船長はトンビの腕を、月姫は足にガッシリとしがみついた。

 トンビはふらついて身動きが取れなくなった。


「離せ!」

「ヴェル様!今です!」

「いけ!ヴェル!」


 トンビと向き合ったヴェルは、骨の左腕を伸ばしトンビの肩に触れた。

 触れた箇所から銀河が侵食していく。トンビは苦しそうに悶絶するとチビトンビが口から出てきた。宿り木だった体の大きいトンビは銀河に侵食されて消えた。

 

「ひ~!」

「おい、大人しくしろ」


 ヴェルはチビトンビを捕まえようとするが小さい上にすばしっこい。

 何度も空を切って掴めない。チビトンビは隙を突いてヴェルの懐に入り込んで腹にパンチした。

 ヴェルは油断していた。体が小さいから大した攻撃ではないと侮った。

 しかし、衝撃は波となって胃を圧迫した。

 ヴェルは息が詰まって気を失った。そして、そのまま月面に落ちて行った。


「やれるじゃん‥俺!はは‥」


 チビトンビは己の拳を見てギュッと強く握る。光はより強く輝きトンビを発光させた。


「俺だってやれば出来るんだ!‥そうだよ?やってやる!やってやるんだ!俺は強い!お前等を見返してやる!」


 チビトンビは月面に降りて白兎を次々と襲った。特にトンビをイジメてた白兎達を襲った。

 兎達の白い毛は赤く染まる。交互に入り交じる快感と虚無感に苛立ち、より巨大な暴力を求めてた。 

 次第に目の色が変わっていく。トンビはドロシーの前に立った。


「よう!」

「やってくれるじゃない」

「ドロシー、お前だけは俺をイジメなかった。だから、お前は見逃してやるよ!」

「それりゃ嬉しいけど、やられっぱなしは嫌いでね!」


 ドロシーは餅つき杵を握る手を強めてトンビに構える。


「それは俺のセリフだぜ!」


 トンビはドロシーに向かって手の平を広げる。手の平は輝き光が増す。


「はい、ド~ン!」


 リリーがトンビに対してドロップキックを食らわして吹き飛ばした。


「もう!怒ったんだからね!ヴェルと兎ちゃん達、怪我させて!」


 赤い髪の小さな少女リリーは腰に手を当て胸を反らして仁王立ちする。リリーは風の力を自分の翼に付与してブーストさせた。真っ白な翼は大きく広げ、つま先に力を入れた。

 突然の事で唖然としたドロシーではあったが、リリーの小さな背中が何故か大きく見えた。腰まで伸びた癖ッ毛の赤い髪は手入れされていない為あちこちに飛び跳ねている。だがそれが真っ赤に燃え上がる炎に見えた。


「ヴェルをイジメるヤツは許さない!覚悟しなさい!」

「お‥俺がイジメ?ふ、ふざけるな!やり返しただけだ!それの何が悪い!」

「じゃあ、もう気が済んだでしょう」

「いいや!まだだ!」


 リリーは力を爆発させて一気に加速した。リリーの拳はトンビの頬を捉えて殴った。トンビは地面に転がる。


「この、チビ‥」

「ド~ン!」

「がは!」


 今度は真上から急降下してきたリリーはトンビを踏みつける。押しつぶされたトンビは体をくの字にして悶絶した。


「俺は光に選ばれた使者だぞ!気安く触れるな!」

「ふふん!私はヴェルの娘よ!いいでしょう!凄いでしょう!羨ましい?譲ってあげない!」

「意味わかんねえ!これだからガキは!」


 トンビは光の矢を雨の様に飛ばした。

 リリーも負けじと風の矢を飛ばしてお互い相殺する。  

 次に10mくらいの馬鹿でかい光の矢を作ってリリーに飛ばした。

 もう‥と頬を膨らませながらリリーは気泡から鏡亀を産んだ。光の矢はリリーに向かって飛んできたが鏡の様にキラキラと反射した甲羅で、光の矢を跳ね返した。


「なんだ、その能力!ふざけんな!反則だろ、あんなの!」

「へへへ、鏡亀のシズカちゃんだよ!可愛いでしょう!」


 リリーは人先指を銃の様に構えてトンビに標準を合わせた。

 周囲の風が渦巻き状になって指先に集まっていく。


「降参する?」

「悪いのは奴らだ!正義は俺様にある!」

「だとしても、やり過ぎ!」


 リリーは、指先に集まった風の弾丸を撃った。

 風の弾丸はトンビの胸に命中した。衝撃破は体中を駆け巡った。そのお陰で光の玉はチビトンビの口から出てきて何処かに消えてしまった。


「お前、無茶苦茶だ‥クソ」

「黒兎ちゃん!絶対飼う!」

「ひぎゃ~助けて!」


 逃げるトンビをリリーは急いで捕まえた。もう絶対逃がさない様に、強く握り締めた。

 



 

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