第12話 スケヴェル
ロンド船長は力強く立ち上がって拳をパキパキと鳴らす。
「何いってやがりますかってんだ!目覚めねえなら打ったたくまでだ!」
「チッチッチッ!」
トンビは人差し指を左右に振って舌を出す。
「違うな!今までが寝てたんだ!今やっと起きたんだよ!」
トンビは足に力を溜めて一気にジャンプした。
そこには光の虹が出来た。放物線を描いてロンド船長に向かってくると回し蹴りを放った。
ロンド船長の丸い体はコロコロ転がっていく。
「おいおい、旦那!少しは痩せろよ。これじゃあ豚じゃねえか!猫には見えねえぞ」
「止まらん!回る~!これでも痩せたのに~」
「やれやれ、厄介だな」
ヴェルとリリーと月姫がトンビ囲んだ。
「ヒーローのピンチってか!」
「そうだとも。出来れば降参してほしいのだが?」
「ば~か!ヒーローはピンチに強いんだよ!」
「だったらリリーの方がもっと強い!」
「ぬかせ!チビ!」
「あまり、娘の悪口言わんでくれ。貴様の面に鉄拳食らわすぞ!」
「ヴェル様‥」
月姫は初めてヴェルの怒った顔を見た。そこまで娘を愛しているのかと少し嫉妬した。
もし、立場が私だったらあんなに怒ってくれるだろうかと考えたが、直ぐに首を振ってた。
今のはいけない感情だった。私は何も考えていない。何も感じてなかった。そう思う事にした。
「リリー、チビじゃないもん!立派なレディだもん!」
リリーは風を巻き起こして竜巻を作る。
「直ぐ怒るヤツがレディなもんかよ!」
トンビはその場で回転して竜巻と一緒に飛び上がると光の矢を雨の様に降した。
次々と降って来る光の矢に、ヴェルは光の盾を作ってリリーと月姫を守った。
ただ、ロンド船長の分は間に合わなかったのでロンド船長だけ、自力て避けら事になった。
「ヴェルてっめえ!ワザとか?そうだよな!猫差別だ!女ばかり助けやがって!このスケベ!」
「ス、スケベとは心外な!そこに直れ!ロンド船長!」
「うっせ!スケヴェル!」
「ス、スケヴェル?私の神聖な名を‥」
「プッ‥ククッ‥」
「リリー駄目です!笑っては!」
リリーは体をプルプルと震わせて必死に口を押さえて笑いに堪えていたが、駄目だった。思わず吹き出してしまった。
「もう~駄目!スケヴェルって面白い!アハハハハ~」
リリーは腹を抱えて笑った。ヴェルは言葉を失いこの世の終わりを味わった絶望の顔になった。
ヴェルの落ち込んだ顔を見て月姫は、ヴェル様もあんな顔するのかと思うと、ちょっと可愛いと思った。この感情は大切に心の片隅にしまった。
「邪魔だなアイツ‥」
トンビはヴェルを睨むと舌打ちして自身の毛を抜いてフ~と息を吹きかけてミニサイズのトンビが大量に現れた。
ミニトンビ達は不敵な笑みを浮かべる。
「ヴェル!ちょっと、あれ!可愛い!欲しい!捕まえて!」
「リリー、場を弁えなさい」
「‥駄目?」
リリーは上目遣いでヴェルを見るとヴェルは両目を
「‥う」
ヴェルの目にはリリーがキラキラと光って見える。
それは犯し難い神々しさで、この子の笑顔が見たいと衝動が突き上がる。
「ヴェル様、迷う事では‥?」
「月姫‥駄目?」
リリーは月姫にも涙目で訴えてきた。リリーの可愛さに月姫は目が眩んだ。
ああ、どうしましょう!ヴェル様の気持ち、解りました!きゃ‥きゃわいい!ああ、リリー可愛すぎです!両手で口を押さえる月姫は即決した。
「捕まえましょう!ヴェル様!」
「うむ!」
ヴェルと月姫はお互いの目を見て頷いた。ロンド船長は呆れてものが言えないとはこの事かと思った。
「親バカ夫婦か!」
「夫婦!」
月姫はロンド船長の言葉に耳の奥が痒くなった。傍から見たら私達は夫婦に見えるのだろうか?不覚にも口角が緩んでしまった。そして、繰り返し押し寄せる後悔の波に月姫は溺れた。
ミニトンビ達が襲い掛かってきた。一つ一つがすばしっこく捕まえるのは困難を極めた。
ミニトンビ達は二手に分かれて一方が光の矢を放って、もう一方はヴェル達に高速移動で蹴って来たり殴って来る。
ヴェルが光の盾で矢を防ぐ。月姫が後ろから来るミニトンビ達を火を吹いて退けるが次々と襲ってくるので埒が明かない。
「たくっ!何やってんだ!時間がないんだろ!」
ロンド船長は刀を振り回しミニトンビ達を切り付ける。
ヴェルと月姫はハッとした。いつの間にか本来の目的を見失っていた事を恥じた。
「すまない。失念した!リリー悪いが諦めてくれ」
「そうでした‥私ったら。リリーごめんなさい」
「うん‥私もゴメン‥あれ?」
ミニトンビ達の中に一匹だけサボっている兎が混じっている事にリリーは、気付いた。
リリーは風を巻き起こして攪乱させた。ミニトンビ達は目を回した。そして、一気に飛び上がりサボりトンビを捕まえた。
「やった!捕まえた!これ私飼う!」
「コラ!離せ!労働反対!拘束労働撤廃!」
ミニトンビ達は司令塔のサボりトンビを失って消えた。
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