第10話 光と夜の銀河

 月面へと飛び出た月姫は黒龍の姿となって暴走した。

 我を忘れて火を吐き月面の所々に火の玉を落とした。

 その度に、ふっくらと餅は焼き上がり餅は弾けて噴火した。

 兎達は噴火した餅山に群がりお餅パーティーで盛り上がった。

 ヴェルとリリーは空を飛んで月姫に説得を試みた。


「月姫しっかりしろ!落ち着くんだ!」

「お願い!もとに戻って月姫!」


 しかし、ヴェルとリリーの声は月姫の耳には届かなかった。月姫はうわ言の様に光を恐れ発狂した。


「光!いや!来ないで!駄目‥」


 月姫の目の色が変わり白く光り出した。夜空の様に黒い黒龍だった月姫は内部から光が溢れ出し太陽の如く輝く光龍となった。


「駄目!ヴェルどうしよう!」


 ロンド船長はジャンプして、空を飛ぶ月姫の胴体にしがみ付きウネウネする龍体に必死に喰らい付いた。


「おい!ヴェル、リリー少しだけでいい!コイツの動きを止めてくれ!」


 ヴェルとリリーはアイコンタクトで頷いた。リリーは風を操った。風は月姫の体に巻き付き動きを鈍らせた。そこにヴェルが光を格子状にして月姫を捉えた。が光龍に光は効きにくかった。月姫が力を込めるとミシミシと音を立てて壊れ始める。


「ロンド船長、長く持たないぞ!」

「ありがとよ!んじゃあよ。ちょっくら、見せてやるか!」


 ロンド船長の体が膨れ上がり体の毛が黄金色に変わる。

 顔には立て髪が生えて牙が口からはみ出る。

 手足の爪は鋼鉄をも引き裂く鋭い爪へと生え変わった。

 その姿は百獣の王であるライオンの姿だった。身の丈は3mは越えていた。


「ロンド船長かっこいい~!」

「まあな!ネコ科は最強ってところ見せてやる!」


 ロンド船長は巨体とは思えないスピードで四つ足で移動した。

 目指すは頭。胴体から一気に走り抜ける。

 しかし、月姫も待っているだけではない。 

 自己防衛本能が働いてロンド船長を排除する為、月姫の体から光の蛇が出て来てロンド船長を襲う。


「ふん!こんなんじゃあ、俺様は止められないぜ!」


 ロンド船長は次々と光の蛇をなぎ倒し突き抜ける。

 光の柱は一本また一本と壊れていく。次第に自由を取り戻しつつある月姫は咆哮を上げた。


「もう、持たない!早くしてくれ!」

「おいおい、せっかちは女に嫌われるぜ!ヴェル」

「言ってくれる!では男を魅せるか!」


 ヴェルは残りの力を振り絞り光の柱を太くした。自由になりそうだった月姫を再度締め直されガチッと固められた。何故か月姫に恐怖が走った。そして、あるはずのない記憶が走馬灯となってよぎった。

 それは、何処かの牢屋に閉じ込められた夜姫の姿だった。 

 月姫は心の中で叫んだ。やっと太陽から解放されて自由になったら今度は外でも光の牢に囚われる。そんな理不尽あっていいわけない。月姫は全身の力を振り絞って光の柱と風を弾き飛ばした。


「ぐっ!何だ?凄い力で弾かれた!すまん、ロンド船長!」

「リリーも駄目!」


 流石のロンド船長も月姫の激しい動きに放り出された。


「うお!」

「どうした!ロンド!男を魅せろ!」

「猫ちゃん!」

「ニャ~ろう!」


 その時、ロンド船長の背中に黄金の毛が煌めく翼が生えた。


「お!おおおおお!なんだ!これ!すげええ!自由だ!俺は自由だ!あははは!」

「凄い!猫ちゃんにも羽!」

「ああ、しかし、今は!ロンド船長!」

「おう!」


 ロンド船長は月姫の龍体をグルグルと螺旋しながら頭を目指して思いっきり頭を殴りつけた。

 月姫の頭に強い衝撃が走り脳が揺れた。目を回す月姫は少しだけ自我が戻った。


「あ‥ヴェルさ‥あ‥あああ!駄目です。逃げて下さい!また光が全身にいいいぃぃぃ!ヴェル様‥出来るだけ抑えてるのでは‥や‥く‥ぅ‥!」


 また、光は月姫を支配し始めた。月姫は苦しそうに歯を食いしばって耐えていた。


「月姫!今助けるよ!」


 リリーは月姫に向かった。同じくヴェルも向かった。

 しかし、再度、光に支配された月姫はヴェルを睨んで口から光線を吐いた。

 危なかった。咄嗟に避けたヴェルの翼をかすめて、光の線は空の彼方へと飛んで行った。

 ロンド船長は月姫の背中を取って月姫を抑え込もうとしたが、月姫も学習したらしく、ロンド船長を警戒していた。

 月姫の体は太陽の様に光を放ち周囲の目をくらました。

 光に耐性があるヴェルには目くらましは効かなかった。だがリリーとロンド船長の二人には耐性がない。視界を奪われたリリーとロンド船長。

 月姫の尾がムチの様にしなりロンド船長に振り下ろされた。

 目が見えないロンド船長の頭を撃ち抜いた。ロンド船長は目玉が飛び出る程の衝撃だった。


「ロンド船長!」


 ヴェルが声を上げる。しかし、攻撃したはずの月姫の方が動揺していた。その理由をヴェルも知った。

 それは目が見えないはずのロンド船長が攻撃されながらも月姫の尾をがっしりと掴んで離さなかったからだ。月姫は体をくねらせ吠えた。


「今だ!ヴェル!リリー何とかしてくれ!頼む!月を!俺の故郷を守ってくれ!」

「ああ、わかった!」

「リリーもやる!」


 視界を奪われたリリーは、風を巻き起こしヴェルの翼に風の力を付与した。

 これで、ヴェルの翼にブーストがかかってスピードが上がった。

 月姫は光線を口から連続で放つが次々と避けるヴェル。そして、ヴェルは骨の左腕を前に伸ばして、月姫を掴んだ。

 そして強く願った。誰に?解らない。その解らい誰かに奇跡を願った。そして、その解らない誰かが答えた。


「月姫!戻って来てくれ!」


 骨の左腕には痛覚はない。体温もない。勿論、繊維もない。だが奇跡が詰まっていた。

 その左腕にはヴェルの光と月姫の夜が合わさっていた。それが奇跡を産んだ。いや、銀河が産まれた。

 骨は輝き始めて骨から星が溢れた。左腕が触れた所から銀河は月姫を侵食していく。

 苦しさのあまり咆哮を上げた月姫の口から光の玉が飛び出した。


  

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