第9話 サボり魔兎のトンビ
用を足し終わったロンド船長は、体を振るわせてズボンのチャックを上げる。
「ふ~いきなり来るから参ったぜ」
元の道の戻ってヴェルと合流しようとしたが肝心のヴェルが見当たらない事に気付いた。
「あれ~おかしいな?この道でいいはずだか?お~い、ヴェル~!」
必死の呼びかけも虚しくロンド船長の声は穴の奥へと吸い込まれた。
「そんなに長かったか‥?まいったな~置いてけぼり喰らったぞ!」
ロンド船長は仕方がないので奥へと歩き始めた。途中何度も分かれ道があり完全な迷子となってしまった。
「一旦帰るか?」
そう思った矢先、何かにつまづいて転んだ。
「いって~な!コラ!誰だ?折角寝てたのに!」
「ああ?誰だ‥」
ロンド船長は顔を近づけると真っ黒な兎が横になって欠伸をしていた。その兎は起き上がるのが面倒らしく腹をポリポリとかいてまた、寝ようと試みた。
「ん?オメエ‥トンビが?」
「ああ?なんで俺の名前知ってんだ?‥いや、まさかその声はロンドの旦那か!」
トンビはガバッと起き上がってロンド船長の手を取りブンブンと振り回して握手した。
「久しぶりじゃねえか、旦那!帰って来てたのか?」
「おお、ちょっと野暮用でな。オメエはこんなところで何してんだ?」
「決まってるでしょ!サボりだよ。あんな事やってられるかよ!来る日も来る日も餅運び!しかも、折角積んだ餅は餅月食いに食わちまうんだぜ?労働意欲がそがれるってもんだ‥ふあ~あ。眠い」
「ったく。元々意欲なんてねえだろが!ふん、相変わらずだな!オメエは‥そんなに馴染めねえか?黒毛のせいで?」
「‥旦那、痛いとこ突かないでくれよ、ハハ‥」
「ドロシーに一言言ってやるよ!」
「別にいいよ!好きで一人になってんだぜ!俺は‥」
「とても、そうは見えねえな?無理してんじゃあねえぞ!」
「‥無理‥して‥ねえよ」
「そうかい。それならいい。ところで餅月喰いを退治しに来たんだがどこにいるか知らねえか?」
「はあ~?餅月喰いを退治!‥あっ!何だか、労働意欲がメラメラと燃えてきた~!いっけね~いけね!次、俺が餅運びの番だったな?そうだ、そうだ!すっかり忘れてた!アハハ~、じゃあ、旦那。会えて嬉しかったぜ!あばよ!」
「まあ、待てや!」
脱兎の如く逃げ出そうとするトンビの肩をロンド船長はがっしりと手をかけた。その指の力は強く握られていた。
「ヒ~、勘弁してくれ!心入れ替えて白兎共と仲良くするから俺を巻き込まないでくれ!どうせ、道案内しろって言うんだろ!」
「解ってんじゃん!流石、サボりのトンビ!場の空気を読む力はピカ一だな!じゃあ解るよな?俺様の考えも?」
ロンド船長は爪を立てると爪先がトンビの肩にチクりと刺さる。
「―――!わかった、わかったから!爪を閉まってくれ!あ~あ、クソ!餅月喰いの穴は誰も近づかないからサボりに丁度いいと思ったのに‥まさか、こんな事になるなんて!」
トンビはこっちだと合図してロンド船長の前を歩いた。
「ここにはよくサボりに来るから道覚えちまっ‥」
突然、暗闇の奥から赤い光が迫って来ると目の前が明るくなって、炎の洪水が巣穴の出口へと走る。
「おいおい、何だ!」
「あれ!旦那の知り合いかい?」
「光‥光!いや!助けて~夜姫!」
トンビが指す方向に見えるは、月姫が変化した夜の黒龍だった。月姫は火を吐き混乱していた。その近くでヴェルとリリーが必死になだめているのが見えた。
「落ち着け!月姫!」
「ヴェル、月姫どうしちゃったの?」
「わからん‥とにかく、月姫を落ち着かせなくては!」
「うん!」
「‥月姫?お~い!どうした?」
「あ!猫ちゃん手伝って!月姫が変な光に包まれたら急に暴れ出して!」
「月姫ってあの着物女のことか?まあ、とにかく黙らせればいいんだな!」
餅で出来た月は次第に炎で温められてふっくらと盛り上がりいい加減で焼かれてはち切れた。餅の山が噴火して焼き餅が飛び散った。飛び散った焼き餅はドロシーや兎達の足元に落ちる。こんがりと焼かれた餅からはいい臭いが立ち込めてきて、思わずヨダレが垂れてきた。‥ゴクリ!ドロシーは餅を拾い上げ食べてみた。
「う、美味い~!なにこれ!美味いわ!餅って食べれたの?ちょっと待ってだったらこれはどう?」
ドロシーは餅に醤油をかけて食べてみた。絶叫だった。今度は、黄な粉をかけてみた。これも絶叫だった。ならばと海苔とチーズを撒いて食べてみた。白目をむいて失神しそうになった。まさに極上。ほっぺが蕩けるとはこの事だった。
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