第6話 ロンド船長の月帰り
一同、夜姫の前に着くが中でも一番ショックを受けたヴェルは膝を落として愕然とした。
夜姫の体が半透明で、今にも消えそうになっていたからだ。
「夜姫‥どうしたのだ?」
「ああ、ヴェル様‥お会い出来て良かった。ですが、もう、時間が少ないようです。太陽が‥私を元に戻そうとしています。折角、外に出れたのに。残念です」
「待ってくれ!夕焼けの鍵の在処が解らないのだ。探してはいるんだ!だが、何処にもないんだ。‥‥!そうだ!夜姫、夕日の街を知っているか?もしかしたら、そこに夕焼けの鍵があるかもしれない」
「本当ですか!‥ですが、申し訳ありません。私も始めて聞いた街の名です」
「‥そうか」
「お力のなれず、すみません」
「いや、いいんだ。謝る必要はない」
「だったら、月に行ってみるか?」
「月?」
流石のヴェルもすっとんきょんな声を上げる。ロンド船長はバツが悪そうな顔で海賊帽子を深くかぶる。
「ああ、実は俺等、夜明けの海賊団は月からやって来たんだ。その月に住む兎野郎に聞けば何か知ってるかもしれん」
「ああ、それは本当ですか?」
「期待はするなよ。あくまで、かもって話だ!奴等は兎耳で噂好きだ。何か聞いてるかもしれない?」
「いや、それでも十分だ!ロンド船長行こう!」
「猫ちゃん。だったら初めからその兎ちゃんに聞けばよかったんじゃない?夕日の街の事?」
「い~や~、アイツには頼りたくなくてな!相性が悪くてな~。だが、そうも言ってれないようだしな!」
「なら、早速、行こうじゃあないか!月へ!」
「行こう!月に!」
リリーはノリノリで拳を突き上げた。
「あの、私も同行させて下さい」
夜の黒龍がヴェルの袖をつかんできた。
「いいのかい?夜姫」
夜姫は優しく微笑んだ。
「ヴェル様さえよければ連れて行ってあげて下さい」
「解った。では、一緒に行こう」
「ありがとうございます」
「んじゃあ、俺様の船に戻るか!」
「はい。では、皆さま掴まって下さい」
夜の黒龍は流れ星となって夜明けの海賊船へと戻って行った。
「ああ、この身が自由であればヴェル様の横には私が‥。己の分魂が羨ましい‥」
水滴の音だけしか響かない孤独な洞窟生活。夜姫は消えていく己の体を感じながら待つしか出来なかった。
太陽は夜の大陸は吸収していく。夜の時間は徐々に短くなっていく
ロンド船長は夜明けの海賊団に号令をかけた。
「お前等!我等が故郷へ。月に戻るぞ!」
「何だよ。ロンド船長、兎野郎と全面戦争か!」
黒猫の副船長が黄色い目を光らせて武器を掲げた。
「ちげえよ!ちょっと聞きって事があるんで寄るだけだ。間違っても戦闘になるなよ」
「それは向こうの出方次第っしょ?」
黒猫を始め、他の猫達も同意見のようで殺気で爪が伸びる。目を光らせた猫達が声を上げる。
「兎野郎ぶっ殺せ!月を取り戻せ!我らが故郷を取り戻せ!」
猫達は歓声を上げて武器で床を叩く。ひりつく空気にロンド船長が声を荒げる。
「うるせえ!黙れ!馬鹿野郎ども!」
ロンド船長の一声でその場の空気が張り付いた。
「俺達が故郷を捨てたんだ。奪われたんじゃねえ!勘違いするな!それに今更、戻らねえ!ここにいる奴等は皆、ロマンを求めてこの船に乗った奴等だろ!過去に囚われるな!前を見ろ!楽しい事は未来にしかねえんだよ!さあ、進もうぜ!お宝目指して!船を出せ!」
「お―――――!」
猫達は心が一つになって船で爪を研いだ。
「わ―――!馬鹿!毎度言ってんだろ!船で爪を研ぐな!」
各々が急いで持ち場について帆を広げた。帆は風を受けてゆっくりと進み始める。
船は次第に浮かび始めると、月に向かった。太陽はサンサンと輝き月を照らした。
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