第4話 夜明けの海賊団

 ヴェルとリリーは雲の中に潜ったり、亀の大陸、大鳥の背も探った。あらゆる天空を飛び回ったがそれらしきものは見当たらなかった。


「ないよ~ヴェル?」

「‥夕焼けなんてこの世界にないぞ!」


 もう何度も夜が訪れては朝になった。がしかし、夕焼けはなかった。気が付けば夜になっていた。

 その度に夜姫を待たせている事がヴェルには耐えがたい苦痛となって心を痛めた。

 

「早く夜姫を助けなくては‥」

「ヴェル、焦っちゃ駄目!」

「ああ…わかってるさ」

「ん?ねえ、ヴェル、あれ何?」

「どうした?」

「あれ!ほら、あそこ!」


 リリーが指差す方向にヴェルは目を向けると雲が波打ちながら、帆を張った船が、力強くこちらに向かってくるのが見えた。

 それで、近づいてきて解った事だが、帆には猫のドクロマークが書かれていた。


 舵をきれ 舵をきれ

 夜明けは近いぞ

 さあ 急げ

 明日なんて待つな

 今日を楽しめ

 酒はあるか 魚はあるか

 太陽は見えるか

 さあ 急げ

 宝は待ってくれねえ

 さあ オール持て

 ハ~ヨイッショ ハ~ヨイッショ

 力いっぱい漕いでみろ

 あらんかぎり漕いでみろ

 必ず夜明けがやって来る

 お宝いっぱいやって来る

 ハ~ヨイッショ ハ~ヨイッショ

 俺等は夜明けの海賊団

 俺等は夜明けの海賊団


 陽気な歌声と共に船が近づいてきた。看板では猫達が酒を飲み交わし輪になって踊っていた。その中心で踊っていた猫がヴェルとリリーに気付いて千鳥足でこっちに寄って来た。


「おい、オメエ等ちょいといいか!」


 襟を立たせた海賊服を着た猫だった。茶色と白の縞模様しまもようのドラ猫は他の猫より一際、大きく腹が出ていた。

 猫は葉巻を咥えて火を点ける。フ~と煙を吐いて、鋭い眼光でこちらを見てくる。


「その前に名前を聞いても?」

「おっとすまねえな。夜明けの海賊団船長のロンドだ!」

「それで、何の用かな?」

「ここいらに夕日の街ってあるか?」

「‥夕日の街?‥いや解りかねる」

「‥そうかい。呼び止めて悪かったな」

「ちょっと待ってくれ!その街に鍵はあるか?」

「鍵?」

「‥実は訳あって夕焼けの鍵というのを探しているだが、知らないか?」

「鍵ね‥知らんな」

「そうか、なら、一緒に同行させてくれないか?我々だけじゃ行き詰まっていてね」


 ロンド船長の顔が真顔になり眉がピクリと反応させた。そして、暫く考え込んだ。


「まあ、こっちも行き詰まってるしな‥。おい、条件がある。お前等はその夕焼けの鍵がほしいだろ?ならよ~それ以外の宝は俺様達が貰うってのはどうだ?」

「かまわんよ。それでいい」

「ヴェルいいの?」

「リリー、私にとっての宝とは夜姫の方が大切なんだ」

「‥りりーは?ねえ、リリーは!」

「もちろん。一番の宝さ!」

「ホント?」

「ああ、勿論さ」

「しょ~がないな~!ヴェルがそこまで言うなら猫ちゃんと協力してもいいよ!」

「猫ちゃん言うな!敬意を持ってロンド船長と言え!じゃあ決まりだな!」

「うむ。宜しく頼む」

「よっしゃ!乗りな。出航だ!」

「ちょっと待ってくれ船長!俺は反対だ!船に女は乗せねえぞ。ツキが落ちるぜ!」


 ヒョロリとした黒猫の副船長が意を唱えた。副船長の派閥も後押しして騒ぎ出した。


「チェキ、てめえ‥俺様が決めた事に不満でもあるのか!」

「大ありだぜ。誰がこんなガギ――」


 リリーはチェキを風で吹き飛ばした。チェキは弧を描いて海雲に落ちた。

 クルーの猫達は目を丸くして沈黙した。派閥は振り上げた拳が虚しく空を泳いだ。


「ガハハハッ、こいつはいいぜ!オメエつえぇな!」

「リリー、手加減しなさい」

「だって、アイツ悪いヤツ!仲間割れは良くないよ!」

「ああ、確かにその通りだ!特に船の上では喧嘩はご法度だ。おう!オメエ等これでも反対か!」


 ロンド船長の一言で船内は歓声が上がった。

 のちにチェキは回収されてロンド船長と和解した。

 そして、ロンド船長の号令で猫達は持ち場について帆を広げた。

 ヴェルとリリーは、船に乗り込んだ。船はゆっくりと動き出して雲を割った。

 船は上下に揺れてギギギと木が軋む音を響かせながら追い風を味方につけて進む。ロンド船長の航海の腕は確かだった。

風を読み雲を見て舵を切る。次第に猫達は歌い出し輪になって踊りだした。猫達に誘われてリリーも踊りだした。遠巻きで見ていたヴェルもロンド船長に誘われてついには一緒に踊った。

 気を良くしたリリーは両手を広げて船いっぱいの魚を気泡から産んだ。

 魚は雨の様に降って来て猫達は狂喜乱舞の大はしゃぎ。

 倉庫からお酒を持ってきて大宴会が始まった。

 勿論、リリーにお酒ははやいのでヴェルは止めた。とは言え、リリーはちょぴり背伸びがしたいお年頃。こっそりお酒を舐めたら案の定、目が回って倒れてしまった。

 その後、ヴェルに優しく怒られたそうだ。

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