第3話 夜姫

 鎖に繋がれた女性はか細い声を振り絞った。


「私は太陽から産まれた夜姫と申します」

「夜姫‥良い名だ。私はクラン・ヴェルと申します。この子はクラン・リリーです。」

「これはご丁寧に」

「ヴェル?」

「先程、使いの者を向かわせたのですが返事が返って来ず、不安になりましたが、こうして、出会えた事を嬉しく思います」


 ヴェルはリリーを横目で見たらリリーの目は左右に揺れてあからさまに動揺していた。


「それで我々に何か用でしょうか?」

「その前にその腕、私の責任です。申し訳ございません。先程の夜の黒龍は、私の分魂なのです。つまり、もう一つの別人格の私です」

「じゃあ、この人、悪い人?」


 リリーは風を操るとヴェルが止めた。覚悟していた夜姫は、ホッと胸を撫で下ろした。


「止めなさい。何か事情があったのだろう」

「ヴェル‥」

「ありがとうございます。お心遣い感謝します」

「いえいえ、気にしないでください」

「ヴェル様‥」

「ヴェル、その割には腕、取り返えそうと‥」

「リリー‥」


 ヴェルはリリーの肩に手を置いた。あれ?ヴェル怒ってる?リリーは何かを察して口を両手で塞いだ。


「それで本題を」

「はい。太陽から産まれた夜の私は光に憧れ外に飛び出したのですが、まさか、この体、光との相性が悪いなどと知らず、消滅しかけたのです。しかし、防衛本能か生存本能か解りませんが、私の中から、夜の黒龍が解き放たれて私を守ろうしたのです。が‥ご存知の通り、夜の黒龍は暴走して、多くの被害を出してしまいました。本当に申し訳なく思っております。‥ですが、それでも、光の世界への憧れを止める事ができません。本来、昼と夜は交じり合わないが道理。しかし、それでも、私、夜姫は光と交わりたいのです。ですが、この鎖が夜の世界に縛り付けているのです。どうか、この鎖から、私を解放して下さい。私に光を浴びさせて下さい!ヴェル様!」

「なるほど‥二三聞きたい事があるのだか、いいかな?」

「はい。どうぞ」

「この大陸は黒龍の体から出来ている事を確認しているのだか、もしかして、この大陸自体が光から夜姫を守っているのかい?」

「ええ、多分。正直、自分でもわかりません。分魂は同一人物ではありません。がきっと、夜の黒龍が守ってくれているのでしょう」

「なら、まだ、時間の猶予はある訳か。あと、もう一つ!」

「はい」

「光の世界と交わったら、君は消滅して消えるのでは?即ち、死んでしまうのでは?」


 夜姫は体を硬直させて言葉に詰まってしまった。


「それは‥はい。その通りです。それでも‥」


 ヴェルは考え方込んでしまった。ヴェルの苦渋な顔に夜姫は諦めかけた。


「よろしい。但し条件がある!」


 ヴェルの前向きな返事に夜姫の顔は明るくなった。


「何なりと!」

「まず、消滅せず解放される事」

「それは‥私も望んでおりますが、方法がわかりません」

「私達も協力しよう。必ず、君を光の世界へ連れて行こう。約束する」

「ヴェル‥様」


 何故だろう?夜姫はヴェルの熱い眼差しから、視線を外す事が出来なかった。ヴェル返答に予想外だったのが、リリーだった。


「えっ?リリーも手伝うの?」

「ああ」

「え"〜」


 リリーは露骨に嫌な顔をした。


「そして、次たが‥ゴホン。(わざと咳をする)私と契を交わして欲しい」

「契って何?ヴェル?」

「一緒に暮らすってことさ」

「‥ふ~ん?んん‼︎」

「貴方がそれを望むのなら、夜咲く三日月は満たされ、満月となって貴方を照らしましょう。光の世界へ渡れるのであれば、断る理由など何処にありましょうか?喜んで契りましょう!」


 そうは言うものの、夜姫の白い顔は紅葉の様に赤く高揚していた。内心困惑していた。考えるより先に、二つ返事で承諾してしまったのだから。簡単にヴェルを受け入れてしまった。今も、ヴェルの真っ直ぐな視線から目が離せない。どうしたの私?わからない‥けど、嫌ではない。寧ろ、喜んでいる私がいる。


 ヴェルは夜姫の手に触れようとするがふれる事が出来ない。お互い反発し合って距離が縮まらない。夜姫は悲しい顔になったのでヴェルはそれ以上は止めた。


「ならば、その願い叶えよう。と言いたい所だが、どうすればその鎖が解けるのか‥?」

「夕焼けの鍵を探して下さい。昼と夜を結ぶは夕焼け。この世界のどこかにあるはずです。本来、私が探したいのですが、この身故、申し訳ありません」


 鎖に繋がれた夜姫は肩を落としてうなだれた。


「気を落とす事はない。待っていなさい。必ず夜姫の願いを叶えよう」

「はい。お待ちしております」


 悲しいような嬉しいような複雑な顔をして夜姫は笑った。

 話が終わった二人は夜大陸を出た。太陽が昇り朝を迎えると夜大陸は消えてしまった。


「ヴェル‥何か嬉しそう?」

「ああ、嬉しいよ」

「ふ~ん、あの夜姫のせい?」

「そうだよ。彼女はリリーにとってもいい母になってくれる」

「私は別にヴェルと二人だけでもいいんだけど!」

「そのうちわかるさ。母の有難さがね」

「解りたくないもん!私はヴェルがいいの!ヴェルと二人がいいの!」

「ハハハ、嬉しい事を言ってくれる。娘にそこまで言われるのは父親冥利に尽きる!」

「笑いごとじゃない!馬鹿!馬鹿!」


 リリーはヴェルに背を向ける。ヴェルはそっと頭を撫でるがリリーはその手を払った。


「しかし、その夕焼けの鍵は何処にあるのだろう?」

「知らない!」

「リリー、怒らないでおくれよ。一緒に夜姫を助けよう」

「‥助けるだけなら‥いいけど」

「ありがとう。リリー」


 大好きなヴェルの困った顔が見たくないリリーは一旦飲み込んだ。


「も~仕方ないな~ヴェルは私がいないと駄目駄目なんだから~」

「ああ、そうだ。私にはリリーが必要だ」


 機嫌を良くしたリリーはヴェルにしがみ付いて離れなかった。

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