第2話 夜大陸
黒龍の体から産まれた大陸は空に浮かぶ浮遊大陸。夜になると現れる大陸だった。
ヴェルとリリーは早速、その夜大陸に降りてみた。一歩足を踏み込むと深夜の大森林が広がっていた。
森の奥からはフクロウの鳴く声が聞こえる。
新しい大陸には既に多くの生き物が住み着いていた。
ヴェルはリリーの手を繋いで、森の奥へと歩を進めるが、真っ暗で何も見えなかった。
まだ、誰も入った事がない未開の地では、舗装された道はない。とにかく前に進むしかなかった。
「暗いな、大丈夫か、リリー?」
「大丈夫だよ」
リリーが心配になったヴェルは、手から光の玉を出す。
がしかし夜大陸は光を嫌い、ヴェルとリリーを大陸の外まで、弾き飛ばしてしまった。
今一度、夜大陸まで戻ってきたヴェルとリリーは仕方がないので、光を使わず暗い森を進むしかなかった。
だが、ヴェルとは反対にリリーは楽しそうだった。鼻歌を歌いながらスキップしてヴェルの方に振り向いた。
「さっきは、大丈夫だった?」
「ああ、ちょっと驚いた」
「なんかワクワクするね!」
「そうだな。でも暗いから気を付けろ」
「平気、平気!」
と言った傍から木の根に足を取られ前に転んだ。大の字になってうつ伏せに転んだリリーは耳まで赤くなった。
「ほら、行った傍から」
ヴェルはリリーを優しく起こして土を払った。嬉しいような恥ずかしい様なこそばゆい感じがしてリリーは強がった。
「だ、大丈夫よ!もう、ヴェルは心配し過ぎなの!」
「当たり前だ!父親ってヤツはそんなもんだよ」
「そうなの?」
「ああ、常にお前の事を考えてるよ。どうしたら喜んでくれるのかな~ってな」
「ふ~ん。そうなんだ?」
「どう生きるかは自由だか、怪我はするなよ」
「それ!ヴェルが言う?」
リリーはヴェルの骨になった左腕を握るが固くて細くて、そして、冷たかった。
「お願い。無理はしないで!」
「それは聞けないな、リリー」
「もう、なんで!」
「お前を愛しているからだ‥」
「だったら私だって!ヴェルが好き!」
「‥ありがとう。リリー」
ヴェルはリリーの太陽の様に赤い髪をクシャクシャに撫でた。
「へへ~これ好き~!」
ヴェルがリリーの頭をポンポンと叩いて前を見た。夜の森は静かだった。暫く歩くと周囲から気配を感じた。しかも一つ二つじゃなかった。
「しまった。囲まれたか!」
「ヴェル~」
リリーはヴェルにしがみ付くと足から震えがこみ上げてきた。
気が付けば黒い影が、複数立っていた。
何だか、姿が見えると段々腹が立ってきた。
リリーは風を操り台風を作り始めた。その姿に影たちは慌てふためきリリーの暴走を止めに入った。
「待ってくれ!敵じゃない」
「五月蠅い!邪魔!」
台風は影達を巻き上げ空に飛ばした。上空から微かに影達のあ~と言う悲鳴が聞こえた。
清々したリリーはヴェルの足にしがみ付いて甘えた。
ヴェルは引きつった笑いで誤魔化した。
リリーは頭を撫でてくれると思っていたので少しふてくされて反抗してみせたがヴェルはそんなリリーに気付かなかった。
ヴェルとリリーは、改めて森を歩いた。
周囲を警戒して歩いたがあれから、特に何も起こらなかった。
暫くすると大きな洞窟が見つけた。奥は更に暗くなっていた。
しかし、そんな事はお構いなしにリリーはずんずんと前に進んで行く。ヴェルは肩を落としてやれやれと苦笑してリリーを追った。
暗闇には目は慣れてきたが湿気が酷く少し寒かった。とは言え、道は一本道で迷う事がないのは救いだった。
「ねえ、ヴェル?」
「なんだい?」
「ここ、なんだろ?」
「さあ、解らんよ」
「悪い奴らの巣かな?」
「だとしたらどうする?」
ヴェルは悪戯っぽく笑う。
「だ、大丈夫!リリーがやっつける!」
「そうかい。それはなによりだが、逃げる事も考えてくれよ?」
「え~こっちが悪くないのに?」
「ああ、そうだ!善悪の問題じゃない」
「わかんない」
「こっちも少しだけ悪く立ち回るってことさ」
「う~ん」
リリーは頭を傾げて納得いかない顔をした。
「おや?奥に何かがが見えるぞ!」
「本当?」
薄い青い光がぼんやりと見えてきた。ヴェルは警戒したがリリーは走って見に行ってしまった。
「こら!リリー」
「早く~ヴェル!」
「元気な子だな。ハハ‥」
ヴェルも、急いで青い光の元へ走った。直ぐにリリーに追いついたのだか、リリーは立ち止まって前を見つめていた。リリーはヴェルを見て指を指した。
「ヴェル‥あれ」
「ん?‥おお、なんと美しい!」
目の前には黒髪に黒いドレスを着た女性か鎖に繋がっていた。
肩には赤い薔薇がドレスの上にワンポイントに刺繍されていた。漆黒ドレスに浮かぶ赤い薔薇が彼女の黒い瞳を引き立たせていた。
その女性の美しさは形容し難いが、夜が良く似合う女性だった。だが、その瞳は暖かく。見るもの全てを優しく包み込んだ。
女性とヴェルは、お互い視線が絡み合った。彼女の黒い瞳はブラックサファイアの様に深く広い宇宙を彷彿とさせた。
一瞬でヴェルの心は鷲掴みにされて、釘付けにされた。
「‥貴方はどなたですか?」
「よかった。来てくれて‥」
ヴェルが想像した以上に透き通った声だった。
女性は鎖に繋がれ身動きが取れない状態だった。
天井にぶら下がった氷柱に水滴が下に伝ってポチャンと地面に落ちて、花が咲く様に刎ねた。
ヴェルの心も水滴の様に恋に落ちて花が咲いた。
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