太陽のヒト

森田 実

第一章 天

第1話 始まりのリリー

 何処までも続く雲海と、サンサンと輝く太陽と青空。

 時間だけが永遠と流れる世界に、気泡が集まりやがて少女が産まれた。 

 その少女の背中には、羽が生えている。腰まで伸びた赤髪の少女は目を開いた。

 キリッとした黒い眉毛、赤い瞳に強い意思が宿った。


「よっしゃー!おっはよ!‥て誰もいないか!アハハ~」


 少女は翼を広げて、何処までも続く空を、思う存分飛び回った。

 空は少女が産まれた事を祝う様に天空いっぱいに流星群が流れた。


「わ~綺麗!」


 だが、しかし、少女は次第に物足りなくなりモヤモヤし始めた。


「そうだ!」


 少女は何か閃くと手を広げた。次第に気泡が集まり、翼を生やした大人が産まれた。

その容姿は、整った白髪としっかり手入れされた白髭を生やした紳士的な大人だった。

 男は白い上下の衣服、少女は白い上着とスカートを纏った。

 二人は互いに見つめ合い優しく微笑んだ。

 

「おはよう!え〜と‥名前!名前必要よね?う〜ん‥そうね。‥あっ!うん、決めた!ヴェルにしましょう!あなたは今日からヴェルね!」

「ヴェルか‥いい名たね。気に入ったよ。それで、君の名は?」

「う〜ん‥ねえ、ヴェル決めてよ!」

「いいのかい?なら‥そうだな。‥リリーはどうだろう?」

「リリー‥。うん、いい!凄く気に入った!私、リリー。宜しくね」

「我々は親子かな?」

「そうよ。私達は親子。エヘヘ」

「なら苗字が必要だろう。‥クラン。私はクラン・ヴェル。お前はクラン・リリーでどうだ?」

「クランね?いい名前だわ。私はクラン・リリー。改めて宜しく。ヴェル!」

「ああ、宜しく。リリー!」


 ヴェルはリリーの頭を撫でた。

 始めての感覚にリリーは目を見開いて身を悶える。


「きゃ~!もう一回!」

「ああ、いいとも」


 また、リリーの暖かい頭を撫でる、ヴェル。


「えへへ~ヴェル好き~」

「私もだよ。大好きだよリリー」


 リリーはヴェルに抱き着きヴェルもリリーを優しく抱擁した。


「ねえ!お散歩しよ!」

「ああ」


 二人は一緒に空を飛んだ。

 リリーは両手を広げて気泡から鳥を産んだ。

 鷹、鳩、鴉といろいろな鳥達が羽ばたき大空へ駆け上がった。


「アハハ!」

「リリーこれはどうかな?」


 ヴェルが指を鳴らすと巨大な亀が雲海の中から現れた。

 甲羅に上には一本の大樹と森が広がっていた。

 亀の顔が赤くなると背中の火山が噴火して溶岩が花火の様に飛び跳ねた。


「すご~い!ヴェル、降りていい?」

「ああ、いいとも」


 二人は甲羅の大地に降りた。思ったのと違って柔らかく暖かい。

 もっとゴツゴツしているのかと思ったが違った。

 暫く森を探索すると、リリーは昆虫や、聖獣を作って森で遊ばせた。

 ユニコーンは木々を縫って走った。ペガサスは空に舞い上がりオークやゴブリンは茂みを走る。

 ならばと、ヴェルはドラゴン、フェニックス、グリフォン、バジリスク、ヒュドラを産んだ。

 負けじとリリーは小人族、巨人族など、色とりどりな種族を気泡から次々と産んだ。

 瞬く間に大地は、騒がしくなって命で溢れた。

 ヴェルとリリーは楽しくなって皆で踊り明かした。

 大地の亀も喜んでいる様で大地が揺れて地割れを越した。

 太陽はサンサンと輝き何時までも何時までも光を照らした。

 暫くして、太陽にヒビが入りそこから、黒龍が飛び出して来た。

 黒龍は、ヴェルとリリーと大地の亀を襲い始めた。

 亀の大陸に住む、生き物は驚き戸惑った。

 黒龍に襲われそうになった、大地の亀は恐怖で、火山を爆発させた。

 森は焼野原となって、火の粉は舞い黒い煙はモクモクと立ち上がる。

 それでも黒龍は手を休める事なく火を吐いた。

 

「やめて!」


 リリーは叫ぶ。 

 ヴェルは巨大な大鳥を気泡から産んで、その背中に亀の大陸に住む者達を乗せて逃がした。

 黒龍は赤く血走った目で大鳥を睨むと、口から火の息を漏らしてグルルと息を吸って力を溜めた。

 これはいけないと感じたヴェルは、光の弓を手から出して、力いっぱい引いて放った。

 光の矢は見事に黒龍の目に刺さる。流石の黒龍も、痛いらしく雄叫びを上げた。


「ヴェル、カッコいい!」

「ホントかい?気分がいいね。アハハ」

「もっとやって!もっとやって!」


 リリーは兎みたいに飛び跳ねてヴェルにおねだりしたら、ヴェルは耳まで赤くして照れた。

 それを見たリリーも何故か赤くなり目を伏せた。

 そんなリリーを見てヴェルは愛おしくなったのでまた、頭を撫でた。


「少し下がってなさい」


 ヴェルは片手を上げて光の槍を出した。

 ヴェルは力を溜めて一気に槍を放った。

 槍は黒龍の首元を貫通して彼方へ飛んで行った。

 しかし、黒龍はまだ生きていた。

 油断をした、ヴェル。首だけになった黒龍は、リリーを襲って来た。


「ヴェル!」

「あぶない!」


 ヴェルはリリーを庇った。

 しかし、その事で、ヴェルの左腕の肘から指先までが、黒龍に食いちぎられてしまった。激痛が全身を駆け巡り、苦渋に顔を歪ませた。


「私の腕を返しなさい!」


 ヴェルは失った左腕を前に突き出した。すると、黒龍が飲み込んだヴェルの左腕は光の粒子となった。

 ヴェルの左腕の傷口が光出して再生し始めたのだが、しかし、どうゆう訳か。

 本来、自身の腕だけを取り返すつもりだったのに、黒龍の頭も一緒に吸収して取り込んでしまった。

 そのせいで左腕の肘から先が骨の手となってしまった。

 しかし、異変はそれだけでは収まらなかった。

 なんと、ひび割れた太陽の隙間から月が産まれた。

 そして、胴体だけになった黒龍の体は夜大陸へと変わっていった。

 こうして、この世界に昼と夜が交互に訪れる様になった。



 



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