第56話 対ブライトの策

「先に出した兵士たちは戻ってこないのか?」



 ブライトが心配そうな表情を見せながら、側に控えていた兵士に確認していた。



「はい、依然として誰一人戻ってきていません。もしかして本当に魔族が――」



 魔族の単語を聞いた瞬間にブライトの視線が鋭いものに変わる。



「ひっ……」

「すまない……。私としたことが魔族と聞いただけで……」



 すぐに元の様子に戻るブライト。



「それにしても誰も戻ってこないとなったら、何か異変があったのかもしれないな。ただの魔族にあっただけなら、兵の一部が真っ先に伝令に来る手はずになっている。その場から去る余裕もなく一撃で壊滅させられた?」

「さ、さすがに複数の兵士を……。それも精鋭揃いの我が兵を一撃で倒すなんて真似が出来るはずは――」

「魔王ならどうだ?」

「……っ!?」



 ブライトの低い言葉に、兵士は思わず息をのんでいた。



「た、確かに相手が魔王となるとそのくらい余裕で出来ると思われます」

「……そういうことだ。やはり、王都近くには魔王が生息しているようだな。これがアルフ王子が招いたのか、それともたまたま近くを闊歩していただけなのかは別として……」

「し、しかし、相手が魔王となるとどう対処できるのでしょうか? 古より魔王に対抗できるのは勇者のパーティだけと言われていますが――」

「ちっ、わかっている。だからこそ、賢者マリナスを仲間に引き入れようとしたんだ。あれはかなり無茶なことをしたんだが、どうやら気にくわなかったようだ。賢者が駄目となると聖女か剣聖、もしくはそれこそ勇者を仲間にするしかなくなってくる――」

「……そんなことが可能なのでしょうか?」

「……」



 ブライトは無言を貫く。

 それを見て、兵士はかなり大変なことなんだと理解した。



「とにかく、相手が本当に魔王なのか。それだけは確認しておく必要がある。ただの魔族相手なら我が兵で当たれば倒すことは容易に出来る。もしくは他に別の理由があって、兵士たちが戻ってこられなくなっているだけかもしれない。そこの判断をするために……私自身が王都へ出向く必要があるな」

「っ!? き、危険ですよ!」

「仕方ないだろう。兵士といえど、先遣隊の命を散らしてしまったんだ。それに報いるためにはなんとしてもその原因を突き止める!! そのためには私が動くしかない」

「か、かしこまりました。では、我々がブライト様をしっかりお守りいたします」

「よろしく頼むぞ」



 ブライトは兵士の頼もしい言葉に思わず笑みをこぼしていた。



(私は恵まれているな。これだけ優秀な人物に囲まれていて……。なんとか彼らの生活を守っていく必要がある。そのためには唐突に人を襲う魔族はなんとかする必要がある……。もう私みたいに突然魔族に襲われて家族を失う人が現れないようにするためにはな……)



◇■◇■◇■



 自室に戻ってきた俺は、改めてブライトへの対策を考えていた。

 魔族という名を聞いたら簡単に食いついてくるであろう、ブライトを罠にはめるのは簡単だ。

 しかし、それを有効に活用しようと思うと……、ちょっと手の込んだことをする必要が出てくるな。

 出来れば俺自身の手を汚さずに勝手に弱体化出来るようにする。

 ……そのためには別の貴族と戦わせるのが良いだろう。


 ここに来る理由が魔族ならそれを押しつければ良いな。

 実は王都には魔族はいなくて、以前姿を現していたのは別の貴族がけしかけていたから。

 ……そうだな。内戦が勃発して一番儲かるのはユールゲン王国の最東に位置するラグゥ領だな。

 内戦の影響がほとんどなく、ただ傍観しているだけで勝手に利益を得ることが出来る立場だった。

 ラグゥにとってはこの国が襲われてる方が好都合。

 それはつまり、ラグゥが魔族をけしかけてこの国に送り込んだ……と言う話も完全に否定しきれるものではないだろう。


 その後、ブライトは直接ラグゥに会いに行くだろう。

 同じ貴族同士、交友があるわけだからな。

 ただ、この国の最東まで行くのに、どれだけ急いでも二十日前後はかかる。

 これだけでもかなりの時間を稼ぐことが出来る。


 あと、ラグゥからしても訳がわからない話なのだから、曖昧な回答しか出来ないだろう。


 そこで俺が、更に以前ブライトを襲った魔族はラグゥがけしかけたもの……という話を伝えればブライトはどっちを信じて良いのかわからなくなるだろう。


 こうして、二人が疑心暗鬼になっている間に、他の貴族を落としてしまおう。

 そして、最後に弱った二人を相手にすれば、ひとまず国として纏まることは出来る。


 帝国がいつ襲ってくるかもわからない状況なのだから、早く国を整える必要がある。

 全く……、貴族のやつが余計なことをしたせいで面倒なことになってるな……。


 ため息を吐いた後、次に落とすべき貴族を考え始める。

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