第57話 ブライトとの対話
一通りブライトとあったときに話すべきことをまとめた後、予測通りブライトがやってきたという連絡を受けた。
どういった態度でやってくるかと思ったが、普通に俺と出会った瞬間に臣下の礼を尽くしてくる。
「アルフ王子、この大変な時期にろくに手を貸すこともできず、参上するのが遅れてしまい、本当に申し訳ありません」
なるほどな、本当に魔族さえいなかったら敵対する意思はなさそうだな。
「いや、気にするな。このタイミングでも十分にありがたい。もちろんこれから手を貸してくれるんだよな?」
「はっ、当然にございます」
「そうか……。それならよい。まだまだこの王都には足りないものが多数あるからな」
本当に物資だけを恵んでくれるならそれはそれでいいなと感じたが、そううまくはいかなさそうだった。
「それで、アルフ王子。先だって我が兵をこの町へ向かわせたのですが、彼らを見ませんでしたか?」
質問だけ聞くと、ただ尋ねられただけに見えるが、このタイミングでブライトが顔を上げ、目の奥を光らせていた。
「そういえば、冒険者ギルドに色んな兵士が出入りしていたな。今は帝国の兵が来ているからそこまで気にはしていなかったが……。何か問題があるのか?」
「いえ、そんなことはありません。でも、そうですか……。てっきり魔族か何かに襲われたのかと思いましたので……」
「はははっ、この国に魔族がいるはずないだろう? そんなことをしたら、すでに半壊している我が城なんて、一瞬で吹き飛んでしまうからな」
「それもそうですね……」
「それよりもよく来てくれた。何もないがゆっくりしていってくれ。長い旅路で疲れたであろう?」
「はっ、ありがとうございます」
ブライトは不思議そうに乾いた笑みを浮かべていた。
これでいいだろう。次にブライトがとってくる行動はギルドにいる兵士たちに会いに行く。ギルド内だとマリナスが余計なことを言わないように目を光らせているからな。
魔族であるシャロを守るために――。
予想通りの行動をとってくれていることに俺は内心ほくそ笑んでいた。
◇■◇■◇■
「くっ……、どういうことだ?」
ブライトは王城を出た後に困惑しながら、足早に歩いていた。
「いや、兵が無事だったということを喜ぶべきか……。まだ直接会ったわけじゃないが――」
それもギルドへと行けばわかること……。
そもそも、王子が魔族と組んだ……という情報も実際に確認したものではない。
今町の中を見ても魔族は全くいない。
つまり、王子は誰の力も借りずに一人で、国をここまで建て直したと言うことになる。
……おろかだったのは私のほうか?
実際に見たわけじゃない魔族に踊らされて、国を裏切るような真似をして、王子に迷惑をかけて……。
先ほどの王子の言が本当のことと確認できたら、私がしてしまったことの償いをしよう……。
まだまだ、王国には足りないものが多いわけだし、敵も多い。
ここには襲われたときに防ぐ手段がないわけだからな。
そんなことを考えながら、冒険者ギルドの中へと入っていく。
すると小さな少女に出迎えられる。
「いらっしゃいませ。ギルドにご用ですか? それとも酒場でしょうか?」
「ここに我が領地の兵が来ていると聞いたのだが……?」
「我が領地? ……えっと、あなたは?」
「これは申し遅れた。私はブライト。王都の北にあるブライト領の領主をしている」
「あなたがブライトさんなんですね。いつも兵士の方がご贔屓にしてくれていて助かっています。今日は冒険者の依頼を引き受けてくれましたので、ここに来られるのはまだ先になると思いますよ」
「そうか……。それじゃあ、ここで少し待たせてもらっても良いか?」
「もちろんですよ。そうだ、せっかくですからここの料理を食べていってください。どれも自信作なんですよ」
にっこり微笑むシャロを見て、ブライトは思わず頬を緩めていた。
(私の娘も生きていたらこのくらいの歳だったんだろうな……。そう考えるとむげにするわけにもいかないな……)
自分の娘の姿をシャロに重ねていたブライトは、そのままテーブルに着く。
「それじゃあ、おすすめをもらえるか?」
「かしこまりました。腕によりをかけて作ってきますね」
シャロが腕まくりしてみせる。
するとブライトは驚きの声を上げる。
「まさか、君が作ってくれるのか?」
「……? もちろんそうですけど?」
「い、いや、普通酒場は奥の厨房に料理人がいるものじゃないのか?」
「はははっ……、うちは人手不足ですからね。どうしても私が動くしかないのですよ。それに料理が作れるのも私だけですから――」
「そうか、苦労してるんだな……」
ここまで頑張っているのだから、少しでも待遇面を上げられないかと思い、ここが冒険者ギルドだったことを思い出す。
「あと、もうひとつ頼んでもいいか?」
「はいっ、何でしょうか?」
「このギルドのマスターを呼んでくれないか? 少し話がしたい」
「はい、なんでしょうか?」
「いや、君じゃなくて、ギルドマスターに……」
「私がそのギルドマスターですよ?」
「……はぁ?」
信じられないその言葉に思わずブライトは聞き返してしまっていた、
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