第55話 貴族たち
アルフが戻ってくる一年ほど前。
ユールゲン王国の今後について、貴族たちが集まって話し合っていた。
「誰か、この中で次の王になりたいやつはいないのか?」
「誰がそんな貧乏くじを引くか! どうせ、お前たちの傀儡として働かされて、用済みになると同じように消されるんじゃないのか?」
貴族の一人が大声を上げると、他の人物たちも無言で周りを見渡していた。
こうやって、国を凋落させようとしている人物を信用できるはずもない。
結局誰も国のトップに名乗り出る人物はいなかった。
「……仕方ない。こうなっては長の国王だけはそのまま残ってもらうか。幸いなことに今はちょうど病に伏しているからな。国として機能しないように必要な物は山分けしてからな」
貴族の一人がにやりと微笑む。
それをみた他の貴族も同様ににやり微笑む。
「なるほど。反乱されないように、金目の物は奪って……、いえ、保管しておくのですね。それも必要なことですもんね」
金のことばかり話している貴族たちに、ブライトは嫌気がさして、冷たい視線を向けていた。
国の金を奪うだけなら住民たちにはそれほど影響が出ないだろう。
国のサポートがなくなるだけで……。
だからこそ、腕を組み、目を閉じてこの面倒な会合をやり過ごそうとしていた。
すると、貴族の一人がとんでもないことを口にした。
「城下町に住む奴らが反乱しても鬱陶しくないか? 町も少し壊しておくか?」
「おぉ、それもそうだな。適当に壊しておくか」
ど、どうして、関係ない民たちも襲うんだ……。
ブライトは慌てて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待て!! わざわざ襲う必要はないだろう!!」
「いや、後ろから刺されたらどうするんだ? 奴らは容赦なく狙ってくるぞ」
「……わかった。付いてくるやつは全員俺が引き取ろう。人数さえ減れば、無用に襲う必要もないだろう」
「くくくっ、そんなことを言って、何人がお前に付き従っていくかな」
「やれるだけのことをやるさ。むざむざと殺させないためにもな」
ブライトが背を向けると、更に貴族が鬱陶しさを感じさせる声を出してくる。
「ブライト卿が民を選ぶというのなら、金の配分はもういらないと言うことでよろしいのですね? 何事も平等に分ける……と言う話でしたので」
「――勝手にしろ!」
「かしこまりました。あと、この国には魔族が出入りしているという情報もあります。本当にここにいる民が人間なのか……それをしっかりと調べておく必要はあるかと思いますよ」
「……なにっ!? 本当に魔族が?」
ブライトの表情が険しい物に変わる。
すると、貴族の男がにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。
「あぁ、元々この国はすぐ近くに魔族領があるだろう? つまり、いつ来ても仕方ないわけだ」
「……わかった。もし魔族を見かけたらそのときは――。俺はここの人だけ集めたらあとは関与しない。魔族を野放しにする統治者なんて、用済みだからな」
ブライトが握りこぶしを作ると、それを側に置かれたテーブルへ落とす。
激しい音を鳴らすテーブル。
しかし、それを気にした様子はなく、ブライトはそのまま部屋から出て行く。
そして、ブライトは必死に王都の人間を説得して、自身の町へと案内した。
その後に貴族たちが、まるで暴徒のように金目の物を荒らし回ったが、そこにはブライトは混ざらずに、先に自身の領地へと戻っていった。
◇■◇■◇■
「ブライト様自身は町を襲う加担はしていないのですが、どうしても魔族と聞くと人が変わられるお方なので――」
「そういうことか……。民に好かれているならなんとかして手を貸して欲しかったのだが――」
「この町に魔族がいる限りまず無理だと思います。特にその……」
ジャグラの方を向くブライト兵。
「あぁ?」
ジャグラが少し威圧すると、すぐに怯えて首を横に振っていた。
「そうなると、襲われる前に対処するしかないな。いや――」
ようするにやつが魔族を倒せたと思えば良いのか。
それも俺の協力があって、なんとか倒せた……と。
同じ魔族を憎む者同士……と思わせればブライトも協力を申し出てくるはず。
魔族嫌いの部分以外はまともそうなやつだからな。せいぜいうまく使っていこう。
俺が口をつり上げて笑っていると、ブライト兵は首をかしげてしまった。
「ありがとう、助かった。とりあえず、あとはシャロの手伝いをしてやってくれ」
「も、もちろんです! 料理を食べるために……」
そこまで話し終えた俺は、そのまま城へと戻っていく。
どうやってブライトを懐柔して、そして、どこで切るかを考えるために――。
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